cali≠gariがニューアルバム『16』をリリースした。結成30周年を迎える現在も「原点のまま」と言い切る彼らの楽曲はその言葉の通り、今なおヒリヒリしていて独創的で時に途方もなく切ない。先行してMVが公開されたリード曲「銀河鉄道の夜」はファンタジックな情景と旅立ちの孤独を浮き彫りにする名曲だが、アルバム全体に流れているのも“死生観”。今は亡き森岡賢が在籍していたSOFT BALLETの楽曲のカバーも収録された本作について、開催中の全国ツアーについて桜井青(Gt)と村井研次郎(B)に語ってもらった。
──今作は結成30周年を迎える16枚目のオリジナルアルバムですが、例えば原点回帰のようなことは意識しましたか?
桜井青原点回帰というか、このバンドは原点のままなんですよ。アルバム『10』(2009年)をリリースした時だけはメインのソングライターが石井(秀仁)さんで自分はあまり曲を書かなかったし、ここでcali≠gariは終わるのかと思っていたんですけど、「続けるんじゃん」って。で、『12』ぐらいからは「cali≠gariってこうだったよね。変なバンドだよね」って原点回帰というよりも自分たちのフォーマットをずっとやっている感じですね。
──フォーマットというと?
桜井今回の『16』にしても3人全員が書いた曲が収録されていて、石井さんは、らしい良い曲も想定外の曲もあるし、自分の曲はお約束みたいな位置で、研次郎くんは自分たちとかぶらない絶妙な曲を書いてきてくれる。そのフォーマットのヴァージョンアップをしている感じなんですよ。毎回、違うのは研次郎くんが書いてくる曲なんですけどね。
村井研次郎僕も自分の原点の曲しか書いてないんですよ。みんな、そうだと思います。3人の原点がそれぞれ違うだけで。
桜井そこはブレないですね。
──なぜ、ブレないんでしょう?
桜井30年もバンドやっててブレたら、まずくないですか?
──それだけ長く続けていると逆に原点に戻るのはエネルギーがいるし、いろいろな意味で積み重なっていくんじゃないかと。
村井中・高校生の時に突き詰めすぎちゃったんじゃないですかね。10代の時に空っぽな人生を送っていたら、後でスポンジみたいにいろいろなものを吸収して、方向性が散漫になる気がするんですよ。3人とも音楽的に10代でできあがっちゃってるからブレない気がしますね。
桜井今、研次郎くんが言ったようにいちばん多感で影響を受けるのが10代から20代だと思うんですよ。研次郎くんはメタル、ジャズ、フュージョンの産湯に浸かって育って、自分はフォークや歌謡曲やヴィジュアル系のルーツのバンド、石井さんはニューウェーブ、ポジティブパンク、ニューロマンティック、テクノ。その体験が強烈だから、産湯から出た時にはもう新しい音楽を積極的に聴きたいとは思わないんですよね。最近、耳に残るなと思ったのはザ・ウィークエンドだったり。とはいえ80'sの焼き直しだったりしますからね。
村井今は情報がいっぱいあるから、ブレる要素が満載ですよね。僕が高校生だったら「あれもいいな」、「これもいいな」って思っちゃいますもん。
桜井例えば“初音ミク”のようにボーカロイドの礎となったものは“木”ですけど、そこから派生したものは枝のような音楽ですよね。我々が影響を受けた音楽のジャンルは全部“木”だった。枝は風で揺れるけど、木はブレないですよ。
──確かに。アルバム『16』の1曲目は歌舞伎の台詞「いかようの重罪にもおよぶべくところ、すべよく切腹仰せつけられ、ありがたく存じ奉る...」で始まり、パンクと歌舞伎の掛け声を掛け合わせたような「切腹 -life is beautiful-」に移行しますが、こういう始まり方にした理由というのは?
桜井特に理由はないんですけど、アルバム全体に流れているのが“死生観”なので曲調や表現の仕方は違えど「切腹 -life is beautiful-」も最後の曲「銀河鉄道の夜」も全く同じことを歌っているんですよ。前作『15』では“終活”という言葉を使っていたんですけど、死にたくないのに死ななきゃならない人生と、やりたいことをやったからもう死んでもいいかなという人生があるとしたら後者がいいなという想いが「切腹 -life is beautiful-」に落とし込まれているんです。歌詞の中に3人の辞世の句が入っていて、1人は「忠臣蔵」の大石内蔵助、2人目は“特攻隊の父”と言われた大西瀧治郎、最後はみんな大好きな三島由紀夫の言葉です。3人とも自らの生き方を精算するように死を選んだ方たちですよね。
──歌舞伎役者の坂東彦三郎さんがゲスト参加された経緯というのは?
桜井最初はサンプリングだったんですが、坂東さんは研次郎くんのお知り合いなのでお願いしてもらって。
──村井さんのご友人なんですよね?
村井仲良くさせてもらっています。坂東さん自身、もともとcali≠gariが好きなので「むしろ光栄です」って言ってくださったんですよね。
──では、石井さん(インタビュー時、新型コロナウイルス感染で欠席)の書いた楽曲や歌詞について桜井さん、村井さんが感じたことはありますか?
桜井どの歌詞を読んでもパワーある諦め感みたいなものを感じますね。
──例えばロックンロールとニューウェーブのエッセンスが感じられる「禁断の高鳴り」については?
桜井めちゃくちゃパワーがあってすごく好きな曲なんですが、この曲にも諦観の念のようなものを感じるんですよ。
村井石井さん自身、ライブでやるところまで無茶苦茶やって死んでやるって言っているぐらいなので歌詞にも出ているんじゃないかな。
──ということは「燃えろよ燃えろ」で歌っている内容も生命を燃やし尽くすみたいなニュアンスなんでしょうか?
桜井燃やして生きてるっていう──。僕とは違うベクトルの死生観ですね。
たぶん石井さんは僕より早くそういう境地に到達しているから、ずーっと死生観について書いているんですよ。
たぶん石井さんは僕より早くそういう境地に到達しているから、ずーっと死生観について書いているんですよ。
──だとすると振り向かず駆け抜けるようなナンバー「脱兎さん」も?
村井そうですね。とりあえず歌っちゃおうぜ的な勢いがある。
──なるほど。桜井さんの視点で村井さんの曲に感じたことは?
桜井研次郎くんの書いた「赤色矮星」のギターは永遠にワンコードを弾いていればいいっていう凄い曲なんですよ。
──曲調はプログレッシブロック的な展開をしますよね。
村井そういう面もありますが、演奏はシンプルですよ。僕の原点の曲をいつも石井さんや青さんがcali≠gariにうまく落とし込んでくれるんです。自分だけで作ると聴こえ方によってはヘヴィメタみたいになってしまうことがあるので──。この曲は僕が仮歌詞に“月”という言葉を入れたので石井さんが「赤色矮星」というタイトルにしたのかもしれないですね。
──イントロダクションを聴いた時、“銀河鉄道の夜”だったり“銀河鉄道999”じゃないけれど、電車に乗って走っているような疾走感があるなと感じました。
村井申し合わせはしてないんですが、不思議とアルバムを通して夜行列車に乗っている感覚がありますよね。「銀河鉄道999」的な。
桜井「銀河鉄道999」も死に向かう列車の物語ですからね。
──SOFT BALLETのカバー「Engaging Universe」から「銀河鉄道の夜」に向かう終わり方は宇宙に向かう感覚もあり、心にくいです。
桜井「銀河鉄道の夜」は軽く扱えるテーマじゃないから、後でしくじったなって。歌詞を書くのに1ヶ月半かかったんです。重いテーマなので、おそらく今回のツアー以外ではなかなかやれない曲ですね。「切腹 -life is beautiful-」みたいな曲調はやれますけど。
村井いい曲ですよね。
──メロディも美しいし、切ないし、夢があります。
桜井そんないいものじゃないですけどね。
村井MVは富士山レーダードーム館で撮影したんです。
桜井研次郎くんのお祖父様が創られた施設なんですよ。
村井最初は群馬の天文台で撮る予定だったんですけど、そこがNGになって「そういえば山梨の富士吉田市におじいちゃんが創ったレーダードーム館があったな」ってふと思い出したんです。富士山の麓にあるんですよ。
桜井めちゃめちゃいいところでしたね。
──MVも必見ですね。話は戻って村井さんの視点で印象深かった桜井さんの曲はありますか?
村井石井さんと共作した「果て描く真っ平な日差し」はどうやって作業したんだろうって聞きたいですね。僕は石井さんとデータのやりとりをしながら作るんですが、石井さんと青さんの組み合わせの曲はそんなにないので。
桜井『15』に収録されている「一つのメルヘン」は石井さんと作ったので、今回も一緒に1曲作ったら面白いかもねっていうところから始まったんですけど、自分の制作時間は30分ぐらいですね。いつもメロディから作るんですけど、この曲は夢の中でメロディを思いついたんです。起きても覚えていたのでダッシュでボイスメモに録音して、iPadのGarageBandを使ってドラムを打ち込んでギターを弾いて、ぐっちゃぐちゃな状態で石井さんに送ったんですよ。メロディは好きにしていいし、後半の展開もいじっていいですよって。ちょっとしたトリックのある曲なんですけど、石井さんも80'sのニュアンスだったりを汲み取ってくれて。
村井なるほど。2人の共作はあっても10年以上、3人で曲を作ってないから興味があるんですよね。
──桜井さん作詞、作曲の「紫陽花の午後」も情緒的な美しい曲ですよね。シューゲイザー的なサウンドアプローチの曲でもあり。
村井シューゲイザーって言っていただけるのはすごく嬉しいです。僕もそういうサウンドを意識してベースを弾いたので。
桜井ギターが単純でベースが不思議な感じで蛇行し続けるというか。
村井フォークなアプローチは違うだろうと思っていたんです。そしたらギターもシンセもシューゲイザーの方向に行ってくれたので嬉しかったんですよね。
──シンプルな曲だからこそ、音像で切なさが倍増します。先ほど触れたSOFT BALLET のカバー「Engaging Universe」を収録しようと思った経緯についても教えてください。
桜井SOFT BALLETはもうこの世に存在していなくて、新しい曲を聴くこともできないですよね。新たに知る機会もたぶん少ないだろうし、このまま忘れ去られていくのは忍びない。おこがましいんですけど、誰かがカバーするならcali≠gariじゃない?って。どんなアーティストが好きか公言するミュージシャンは少ないですけど、僕は好きなものは好きだって言っていきたいので。
──1993年にリリースされた曲ですが、cali≠gariが結成されたのも同じ年です。
桜井やりたい!と思ったら同じ30周年。運命ですかね。
村井同じ年の曲なんですね。知らなかった。
──リスペクトが感じられる曲なのでSOFT BALLETのファンにも愛されるのではないかと思います。
桜井凄いアレンジですよね。我ながらよくできたなって。