明後日からリハを始めるので今回のセット・リストについてはまだ何も決まってないような状況なんですけど、一つ言えるのは去年11月のライブがこのバンドでは初めてと言っていいほど、メンバーみんなの意見がすごく入ったライブだったんです。それまでは、やっぱり「香さん、どうしますか?」という感じがあったんですけど、レコーディングを重ねて、ライブも少ないながら何本かやってるうちにだんだんバンドになってきてて。しかも、コロナ禍になってみんなの欲をかき立てられたというか、中止が繰り返されるたびに余計ライブがやりたくなってたから、その欲が爆発したライブになったわけですけど、準備の段階でもう言いたいことが山のようになってる感じだったんです。それがすごくわかったから、「どんどん言って」って。で、私は逆に何も言わないようにして、みんながどんなことを言うのかじっと聞いてたんです。
例えば「香さん、ギターを弾かないで歌う曲が何曲かあってもいいんじゃないですか」と彼女たちは言うんですよ。「香さんがハンドマイクで歌ってるのがすごくいい」って。私としては「意外なこと、言うな」という感じだったんですけど。それに、私には内緒で、3人でアレンジ作業を進めようという話になってたみたいなんですよね。彼女たちは年代的にも聴いてきたものが私とは違うから、私がおかしいと思うことでも彼女たちにしてみれば正当だと感じることがいっぱいあると思うんです。しかも、アレンジというのは出来上がりに達しないと、その全体が見えてこない面があるけれど、一緒にやってると、途中で私が気になったことは言うから、彼女たちが思い描いてる最終段階にたどり着く前に違う方向に進んでいったこともあったんでしょうね。だから、例えば子供がお母さんを驚かせようと考えるように、あるいは「何か言われる前にやっちゃえ!」みたいな感じもあったのかもしれないけど(笑)、ある程度完成させてから聴かせようということだったみたいです。
というわけで、彼女たち3人でやったアレンジを聴かせてもらったら、何が何だかわからないという感じだったんですよ(笑)。でも、頭ごなしに「何、これ?」とか言っちゃうと良くないと思ったから、なるべく彼女たちのアレンジを生かしながら「でも、もうちょっとわかりやすくしない?」という話をし、いろいろ整理をしていって、彼女たちの思い描いたものからそれほど離れてはいないし、初めて聴いた方も“?”とならないようなアレンジが出来上がったんです。そのやり方は、すごく時間はかかるけど、彼女たちのいいところがより出るわけですよ。
だから、出来上がりはすごくカッコいいものになったんです。ただ、彼女たちは彼女たちなりに、“いいと思ってたけど、お客さんの前でやるとやっぱりちょっと違ってたな”ということもいくつかあったみたいです。だから、今回はあのステージをベースにして、そこからマイナーチェンジした内容でやろうという話を、今の時点ではしています。
バンドって、メンバーそれぞれが不満をもったりケンカしたりするようなことがないと、それはバンドじゃないと思うんです。自分のものだと思うから腹も立つわけで、さっき話したアレンジの作業にしても、私がすごく気を遣って進めたからそうはならなかったけど、私がストレートに「よくわからない」とか言ってたらケンカになってたと思うんです(笑)。そういう意味では、けっこう危険というかギリギリのことをやったわけですけど、そういう事態が生まれるようになったこと自体、ものすごい進歩だと思うんです、バンドとしては。
しかも、言ってくださったように、このバンドでまたちゃんと階段を上っていきたいと思っているから、プリンセス プリンセスでは何の気も遣わずに言いたいことを言ってた私が(笑)、このバンドでは気を遣うというか、いろんなことに気をつけながらやってるんですよね。おかげで、彼女たちがそれぞれに自分の色を出すようになってきたんですけど、このコロナの間に一つ大きな転機もあったんです。このバンドの最初からずっとマイケル(河合)さんに見てもらってたんですけど、それを私たち4人だけでやることにしたんです。それは私のなかでは大きな決断で、というのもマイケルさんは私がやってることが私の思い描いているようなイメージでちゃんと届いているかどうかというのを客観的に判断して、足りないところがあったらその参考資料を的確に提示してくれる存在だったんですよね。私からしたら、勉強するのに図書館がいつでもそばにあるみたいな感じだったんです。すごくありがたい存在で、すごく助かってたんだけど、彼女たちからすると、ありがたいという以上に、何か言われたら、その通りにやるしかないというか…。
そうなんですよ! ところが、ソニーミュージックの体制が変わったことなどもあってマイケルさんが私たちのプロジェクトから離れることになり、とにかく私たち4人でなんとかしないといけないということになったんです。これは、大きなポイントだったと思います。
あの制作の後ですね。加えて、もう一つ大きかったのは去年の私のソロ・ツアーからステージ・プロデューサーという立場の人をお願いすることにしたんです。これも人生初のことで、ライブの内容に関しては、プリプリではもちろんメンバーに相談してましたけど、基本は私が考えてやってたわけです。言い換えると、ライブについて“客観的な目”を入れたことがなくて、全部私の主観でやってたんですよね。でも、そのステージ・プロデューサーと話してると、“コンサートはそういうふうに作っていくものなのか”と思わされることがしばしばあって、私自身のライブについても“ええっ!?”と思うようなことを言ってくれる人がいたほうが面白いなと思って。それで、まずはソロ・ツアーをお願いすることにしたんですけど、目から鱗なことをたくさん言われて…。しかも悔しいくらい彼が言った通りの反応がお客さんから返ってくるんです。それと、以前はコンサートの出来/不出来というのはほぼ私自身にかかってはいるけれど、それにしても会場の空気とかお客さんのノリも関係してくるし、要はやってみないとわからないという気持ちで臨んでいたんですよね。でも、彼にいろいろ言ってもらってリハをやって、それで迎えた初日には不思議な確信があったんですよ。いいライブになるっていう。違う言い方をすると、私さえ最高の演奏をすれば他に不確定なことはない感じというか。で、実際その通りになったっていう。だから、当然のようにgirlsのライブもお願いしたんです。
そうなんです。だから、私たちにとってもすごく新鮮なライブで、初めてgirlsでバンドらしいライブができた気がするんですよね。