ハルカトミユキ、新しいチームで完成させた新AL『明日は晴れるよ』。周りが絶望的だからこそ、素直に光を歌いたい

インタビュー | 2021.08.31 18:00

──結果的には、今回は新しいレーベルからCDがリリースされることになったわけですが、これはどういった経緯だったのでしょうか?
ハルカ「いざとなったらやめよう」くらいの覚悟で具体的な話を進めていく中で、今回アイビーレコードから一緒にやりましょうというお話があって、すごくいいタイミングだなって、素直に受け取れたんです。もちろん、一緒にやる意味があるのかを根本的なところから話をした上で、すごくいいお話だと感じて、ガラッと新しいチームでやって、実際これまでとは作り方も変わりました。
ミユキこれまで活動してきて、自分たちでハルカトミユキのイメージを勝手に作っちゃってた部分があったんですよね。「怒りや葛藤を表現しつつ、その中には愛がある」みたいなイメージがあったけど、今回レーベルのプロデューサーから「ハルカトミユキがラブソングと応援歌を作ったらどうなるの?」っていう提案があって、それが目から鱗だったというか。自分たちには全くなかった発想で、でも的外れなことを言ってるわけではなく、この人と一緒にやったらいい意味でこれまでとは違った作品ができるかもしれないと思って、すごく前向きな気持ちになったんです。
──なるほど。
ミユキ今まではどちらかというと、苦しんで作ることが多かったけど、今回はテーマが決まってからすべてがすんなり進んだんですよね。「じゃあ、作ろう」ってなってから、お互い一週間くらいでアルバムに入る楽曲のデモがほぼできて、最近はアレンジが決まってから歌詞をつけることが多かったんですけど、今回はデモの段階で歌詞もフルにできてて、そこに色付けができたり。ホントに今回のアー写みたいな、晴れやかな気持ちでした(笑)。
ハルカレーベルからの提案がすごく具体的だったんです。もちろん、変に強制的なわけではなく、私たちのこれまでもちゃんと踏まえた上で、「こういう人に対して、こういう歌詞で、こういう曲を作ってみたらどうかな?」って、具体的なイメージを伝えてくれたので、それがすごく救いだったというか。自分の中にある気持ちを書くというよりは、ある意味フィクションに近いんだけど、フィクションを書くための自分の心持ちって、結局作品に反映されるんですよね。「それなら書ける」と思って、実際に書けたことで、気持ちが健康的になって、その作業自体がダウナーな時期から救ってくれました。
──もちろん、ハルカさんにはハルカさんの作家性があるわけで、提案されたテーマについて書くということ、なおかつ、「ラブソングと応援歌」という直球のテーマで書くということに対しては、葛藤もあったのではないかと思うのですが。
ハルカもし『最愛の不要品』を作ってる頃に「応援歌を書いてよ」と言われても、「はぁ?」って言ってたかもしれない(笑)。ただ、そこはホントにタイミングというか、ダウナーになってしまって、何を書いていいかわからない状態だったので、そのときの気持ちにハマったんですよね。怒りや虚しさが行き着くところまで行って、解散を覚悟するようなところまで行って、それを経ての新たな出会いであり、提案だったから、気持ち的に吹っ切れてたのもあると思います。やっぱり、みんなが苦しんでいて、沈んでいる中で、曲を聴いてちょっとでも前向きな気持ちになってもらいたいっていうのは根本的に思っていることなので、その気持ちに「ラブソングと応援歌」っていうテーマがハマったんですよね。
──もしかしたら、急に明るくなったと思う人がいるかもしれないけど、これまでもハルカトミユキは絶望と隣り合わせの希望を描いてきたわけですよね。そして、現実にとても重たい空気が漂っているからこそ、絶望の反対の希望の側面がこれまで以上にビビッドに表れた。そういう意味では、根底にある考え方はこれまでと地続きというか。
ハルカ今までとは気持ちが逆というか、これまでは世間にある儚い希望みたいなものに対して、絶望的なことを突き付けるような書き方をしてたと思うんですけど、それが今はひっくり返って、周りが絶望的だからこそ、素直に光を歌いたいと思ったんです。
──音楽性もテーマに紐づいているというか、2人を中心に自由なサウンドメイクを試みた『最愛の不要品』に対して、今回は素直にメロディーや言葉に寄り添うアレンジが増えている印象を受けました。
ハルカ今回は流行っている曲とか売れている曲を改めてたくさん聴いて、今までそんなことほとんどしたことなかったんですけど、聴いてみるとやっぱり「なるほど」と思わされたり、自分たちがやってないことがたくさんあるなと思いました。なぜか避けていた部分というか、初めてそこをちゃんとやってみようという気持ちになれたんです。
──どんなアーティストの曲を聴いたんですか?
ハルカ例えば、back numberの曲って大衆性がありつつ、でもサウンドメイクやソングライティングはすごくしっかりしていて。歌詞にしても、「何でこの言葉がこの世代の人たちに受けるのか?」とか、そういう耳で聴きました。あとは、ユーミンとか竹内まりやさん。もともと70~80年代のソングライティングは好きなんですけど、私が好きなのはどちらかというと男性が多かったんです。でも、改めて意識的に女性のシンガーソングライターの曲を聴くと、女性が持ってる恋愛の具体性みたいな部分とか、これまで自分がやってこなかったものが詰まっていて、こういうことをやってもいいんじゃないかと思えたんですよね。
──ミユキさんもこれまでとは違うタイプの曲を聴いたりしましたか?
ミユキ私はこれまで洋楽からイメージを受け取ることが断然多かったんですけど、今回は邦楽をよく聴いて、シングルヒットする法則とか……そんなの後付けかもしれないけど(笑)、そういうのもちょっと勉強したり。あとは、単純に自分が聴いて救われる曲というか、夏の夜に一人で聴いて、ホッとするような曲を作りたいなって。小田和正さんの“たしかなこと”を聴いて、勝手に涙が出てきたんですよ(笑)。なので、自分でもそういう曲が作りたいなって、歌詞もこれまで以上に意識しました。
──今作のアレンジには安原兵衛さんに加えて、Key of Lifeの坂本裕介さんと、もう一人の「兵衛さん」でもある(笑)、TRIPLANEの江畑兵衛さんが初めて参加していて。この人選も日本の大衆的なポップスという方向性とリンクしていますよね。
ミユキ安原さんは自分たちが持って行ったデモのアレンジから一緒に作っていく感じなんですけど、坂本さんと江畑さんは一旦デモを投げて、方向性を確認しつつ、お任せするところはお任せして作ったんです。それが今回の作品には合っていたというか、ちゃんと日本のポップスを意識してくれて、自分たちだけだと考えつかないアレンジになったなって。今まではアレンジで壊していく作業が多かったけど、今回は歌詞を尊重するアレンジになったので、今までとは違うものになったと思います。
──歌詞のテーマ性といい、アレンジといい、今回はいい意味で手放せた作品ということかもしれないですね。それは「2人」を突き詰めた『最愛の不要品』を作った後だからできたことであり、根本を見つめ直したからこそできたトライだったというか。
ハルカそうかもしれない。大衆的なものに対しての偏見だったりとか、要らないこだわりは捨てられた気がします。
──坂本さんはハルカさん作曲の3曲でアレンジを担当していますが、実際の作業はいかがでしたか?
ハルカ坂本さんはホントにこれまでご一緒したことがないタイプというか、バンド感はあんまりないタイプの方なんですよね。実際に最初は完成形よりももっとバンド感薄めのアレンジで、ソロシンガーみたいな感じのアレンジというか。でも、それが最初に目指したユーミンとかの匂いがして面白くて、そこに対して「ここはもうちょっとバンド感を足してください」みたいなやりとりをして、最終的にその中間に落ち着きましたね。
──“夏にだまされて”とかはそこが絶妙なバランスだなと。
ハルカ“夏にだまされて”は私が作ったデモの段階でシティポップ感のある曲で、そこに肉付けをしてくれた形なんですけど、当初思い描いていたよりも遥かに古めのシティポップになって、変に今に寄せた感じにならなかったので、そこがよかったなって。
──確かに、“夏にだまされて”はオリジナルの感じで、逆に言うと、“鳴らない電話”はもっと現行感があって、それがひとつの作品に収められているのが面白いですね。
ミユキ“鳴らない電話”は狙い過ぎずに今っぽさを出したくて、安原さんと相談しながら作っていって、デモよりも華やかな仕上がりになりました。難しいと思ったのが、こういう曲調だと言葉を詰めてる曲が多くて、どこで息継ぎをしたらいいかわからない、息継ぎ問題が発生して(笑)。King Gnuの曲とかもめちゃめちゃ言葉が詰まってるけど、どうやって解決してるのかなと思ったり。
──ライブで聴けるのを楽しみにしてます(笑)。そして、江畑さんが編曲で参加した“言えたらいいのに”や“君に幸あれ”は、坂本さんとは逆にバンド感強めですね。
ハルカわりとストレートなバンドアレジで、なおかつ、ストリングスの使い方がいわゆるJ-POP的な広がり方で、いい具合に華やかさを出してくれて、それも今まであんまりやったことがなかったなって。

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