アルバム『檸檬の棘』から1年2か月ぶりとなるこの曲は、高度なアンサンブルを爆音で打ち鳴らすバンドサウンドと起伏の激しいメロディ、“捉われ”と“繰り返し”をテーマにした歌詞がせめぎ合うアッパーチューン。人間の危うさと愛しさを生々しく描き出す、“これぞ黒木渚!”と快哉を叫びたくなる楽曲だ。
12月26日には、初の有料オンラインライブも決定。「コロナに売られたケンカを買うスタイル」で奔放な創作活動を続ける彼女に現在のモードについて聞いた。
じつは停滞した感じは、私のなかではなくて。喉の病気もあって、2~3年前からマイペースで活動することに馴れてたんですよね。なのでコロナ禍になったときも、「これは創作の時間だな」と早めに切り替えられて。焦らず、いいものを作ろうと思ってました。
そうですね。アルバムのリリースを目指して曲を作っていたんですけど、コロナになって歌いたいことがさらに出てきて、精力的に新曲を作って。デモを作るための機材、制作環境もグレードアップさせたんですよ。執筆は以前からコンスタントにやってましたけど、自粛期間中にペースアップしました。
いや、明確にはなくて。締め切りがあればそれをやりますけど、「今日は曲を作ろう」とか「小説の日だな」っていう朝の気分があるんですよ。やりたいことをやりたいタイミングでやるというか。夜はお酒が飲みたいので(笑)、基本的に夜9時以降は作業しないって決めているので、自分の時間もしっかりありますね。
たっぷりあります。自粛期間中、リモート飲みが流行ったじゃないですか。「これを上手くインプットに使いたいな」と思って、編集者やライターの方々とリモートグループを作ったんです。テーマを決めて、週に1回、勉強会を兼ねた飲み会を開いて。しょうもないテーマなんですけどね、「うんこでアートは作れるか?」とか(笑)。土曜の夜にお酒を飲みながらプレゼンし合うんですけど、それがすごくいいインプットになりました。
最後は酔っぱらっちゃうんですけど(笑)。“論破しなくていい議論”が少なくなってるし、みんなでひとつのアイデアを転がすのは楽しかったですね。
序盤はけっこう筋トレしていました。外に出られなくなってからは、スポーツジムと同じエアロバイクを購入して、ロードバイクの映像を観ながらやってました(笑)。ただ、移動できないのはきつかったですね。私は足で稼ぐタイプというか、いろんな場所にいって、そこで情報を得ていたので。
SNSに疲れてました。Twitterやインスタを更新するのも仕事の一つですけど、ハッシュタグにコロナを入れるべきだろうか?って考えたり、けっこう肩身の狭い思いをしたので。あとは、「孤独な人たちが叫んでるな」という印象もありました。孤独をこじらせて、他者を攻撃してしまったり、行き過ぎた正義感に転化してしまったり。
そうですね。私、ファンのみなさんとのコミュニティを作ったんですよ。クローズドなSNS空間、もしくは巨大なLINEグループみたいなものなんですが、日々ファンの方々と交流できたのも良かったですね。誹謗中傷が飛び交わない、ホッとできる場所が作れたんじゃないかなと。
アルバム『檸檬の棘』(2019年10月発売)を作ったすぐ後ですね。バンドのレコーディングは今年の2月に終わってたんですよ。ツアーと同時進行だったんですけど、コロナでリリースが延期になったので、歌録りは自宅でやりました。いいマイクを買って、自分の部屋にブースを作って。
ですよね(笑)。打ち込みで作ったかようなアレンジを超絶技巧のミュージシャンのみなさんに人力で演奏してもらって。
曲を作ってるときは自然に歌ってるので、譜割りはそんなに気にしてないんですよ。言葉の通りにメロディを付けるんだけど、楽譜にすると変拍子になってたり、複雑な構成になってるみたいで、とんでもなく難しくなって。もともと「聴いてる人を圧倒するような曲にしたい」と思っていたし、思ってた以上のオケになって嬉しいです。ミックスもすごく上手くいったんですよ。それぞれの楽器の良さがきちんと聴こえてきて、ライブ感もあって。柏倉隆史さんがドラムをタコ殴りしているところもきれいに聴こえます(笑)。
2番は今年になってから書きました。1番は去年の段階である程度書いていたんですが、そのときに書いていた小説と紐づけたくなって。その小説は暗闇のなかで暮らす家族の話で、“光と闇”がテーマだったので、それと関連づけたり。あと、日記を10年分くらい読み返して、「ずっと同じことで悩んでるな。変わりたいと言いながら、かわってないじゃん」と思ったことも反映されてますね。それが音楽記号のダ・カーポ(“曲のはじめに戻る”を意味する音楽記号)という発想に結びついたんです。“捉われ”と“繰り返し”がテーマですね。
世の中が追いかけてきたというか、不思議でしたね。こういう状況になって、「ダ・カーポ」という曲の理解が深まった感じもあって。去年の段階では、「これを世の中に出すと、“癖が強い”って思われるかも」と思ってたんですけど、コロナを経験したことでハードルが下がったと言いますか、「これを投げても大丈夫だな」と。