自分の作るものには飽きたくない、ただシンプルに面白いと思うことをずっとやってる
今まで意識したことなかったんですけど、言われてみると詞曲ともにそうかもしれませんね。音的なところでいうと、シンセサイザーを使うようになったからだと思います。じつは生楽器よりもシンセの持つ宇宙的な音や、有無も言わさず広がっていくあの感じも好きなんです。昔はその使い方がわからなくてなんとかギターでやってたんですけど、シンセを勉強してから、だんだんシンセの割合が多くなっていって。シンセは人間には聴こえない周波数の音域が出るし、それを入れることで空間の広がりは生まれるんですよね。それに引っ張られて歌詞の景色も広くなっていくのかな……と今思いました。
というよりは、同じことを何度もやっていると自分が飽きちゃうからですね。クリエイターにとって「飽きる」という感情はいちばん恐ろしいことだと思うので、自分の作るものには飽きたくないなと。最近はレコーディングが終わるたびに、持ってないプラグインやソフトシンセを買ってみて。「これで曲作ってみよう」とチャレンジ――というか遊びですよね(笑)。だから音像が広がったことも意識してないし、考えてないんです。ただシンプルに面白いと思うことをずっとやってるだけ、ですね。
流行の曲もよく聴いてます。そのなかで「かっこええ~!」と思うものは取り入れるので、クオリティは上がっていっているんじゃないかなと思ってますね。
アルバムは僕にとって手札を増やすための実験なんです。ほぼセルフプロデュースの『明星』を、シンセに振り切ったサウンドにしたのは、バンドとシンセの融和を見つけたいという目的もあったんですよね。3ピースバンドは出す音に隙間があるぶん、そこに否が応でも工夫する余地が生まれるんです。もちろんそれを生かした音楽もあるけれど、僕が好きな音楽はそれとは違うので、その隙間をどう埋めるかが鍵ですね。その埋め方で、誰もやったことがない発明が生まれる気がしています。
原作とジャンプが持つ「雰囲気と人間味が融合したサウンド」にしたかった
『Dr.STONE』はビルが一切立っていないジャングル、荒野のように、世界観が大きな作品なので、その広がりをシンセで出しました。そしてなにより、人間味や人間ならではの強さが軸になっているのが週刊少年ジャンプ漫画であり、バンドだと思うんですよね。雰囲気と人間味が融合したサウンドにしたくて、バンドの音の隙間にシンセを入れていきました。シンセの面では『明星』で得たノウハウを多数盛り込んでいますね。
これはオペラ歌手の声をサンプリングしている「コーラスシンセ」なんです(笑)。僕はクラシックやオペラみたいな声がたくさん重なってるのがすごく好きで、『明星』でも多用しました。自分ひとりで声を重ねるより、実際にオペラを歌う人の声を使うほうが、やっぱり雰囲気が出ますよね。
今年に入って、僕が山の麓みたいなところに引っ越したのが影響してますね。窓の外から見える景色はほとんど緑一色で、ビルとか一切見えないんです。そこから出てくる朝日がすごく好きで、その景色が『Dr.STONE』とすごくマッチするなと。科学漫画で科学をテーマにした曲を作ってもアニメを広げることができないないから、精神面を描いたほうがいいなと思って。引っ越しという高揚感も手伝って、神話のような「今から始まるぞ!幕開けだ!」という広大な世界、宇宙のイメージ――そういう意味でも「おはよう世界」というワードはすごくしっくりきたんですよね。
どんな曲でも自分のことを書いているのは変わらないんですよね。タイアップソングを書き下ろすということは、作品と自分の共通する景色を書いていくことなのかなと思っています。目覚めたらストーンワールドだった、というのを絶望として切り出すのではなく、わくわくするオープニングにしたかったんですよ。だから曲もマイナー調にはしたくなかった。
3rdアルバムはひとつの区切りだなと思っていたので、次はひとつ皮がむけたものを出したいなと思っていたんです。「おはよう」という言葉はバンドにとっても同じですね。ここから新章が始まることをタイトルで示したかったんです。