渋谷公会堂物語 〜渋公には伝説という魔物が棲んでいる〜 序章-後編- 語り手:(株)ディスクガレージ 中西健夫

コラム | 2018.02.07 14:30

──渋谷公会堂は、その後名前が渋谷C.C.Lemonホールに変わったりして、今は更地になり、また2019年に新しく始まるわけですが、2020年の東京オリンピックに向けて政治家や識者という人たちが、レガシー作りみたいなことを盛んに言ってますよね。それはホールだけじゃなくて、競技用の会場についても「レガシー作りということも踏まえて予算も組まなきゃいけない…」とか言ってますが、ここまでのお話を聞いてて思うのは、例えば立派な建物を作ればレガシーになるかと言えば全然そんなことないですよね。
全くその通りだと思います。

渋谷公会堂内観(2014年)

──新装オープンとなる渋谷公会堂については、どんなふうに新しい伝説というか、レガシー作りを目論んでらっしゃるんですか?
レガシーっていうのは本当に難しい問題でね。例えば前回のオリンピックの頃に武道館とか建ったわけですけど、武道館っていろんな意味でレガシーじゃないですか。海外のミュージシャンからも言われるぐらいの。だから今回手を入れるのは内装だけにとどめるということにしたのは、素晴らしいレガシーが残ったと思うんです。姿形が全く違うものになると、またゼロからのスタートになるので。きっと内部は拡張されて現代に合うようなことになっていくんでしょうけど、でもガワは武道館っていう。これまさにレガシーのひとつの残し方。で、有明アリーナは、これから新しく立つから、日本の最先端のテクノロジーで作るレガシーを考えていけばいいということですよね。ところが、渋谷公会堂の話になると、僕はどういう音が鳴るんだろう?という心配がすごくあるのと、オーディエンスにどう熱気を伝えることができるのか?みたいなことを考えて作ってるのかどうかが僕らの手から離れてるんでわからないんです。
──となると、蓋を開けてみて、でき上がったものに合わせてまた色々考えていくしかないかな、という感じですか。
そうですね。極端なこと言ったら、「これ、演劇のホールだったね」ということになるかもしれないじゃないですか。だから、わかんないですね。蓋を開けないと。

──ちょっと話は違いますが、この間いきものがかりの3人に、これまでのキャリアを振り返るみたいなインタビューをする機会があったんです。そのなかで、彼らが「ホールでコンサートができるようになって、すごく安心した」ということを話してたんですよ。彼らはああいう音楽だから、かなり高齢の人も来るし小学生も来るでしょ。そういう人にとっては椅子のあるところがすごく大事だと最初から思ってたって。その話を聞いて思ったんですが、これだけライブハウスというものが普通になって、みんな気軽に出かけるようになった時に、椅子有りのホールで音楽をやるということの打ち出し方というのもまた違ってくるということがあるんじゃないでしょうか。
そういうことは、すごくあると思います。いきものがかりもそうなんですけど、例えばポルノグラフィティがON AIR WESTとかEASTで(現TSUTAYA O-EAST/WEST)やってた時に、僕は「いや、これホールでしょ」と、いの一番に言ったんですよ。ポルノグラフィティやいきものがかりって、ホールなんですよ。そのイメージがふっと湧いてくる人たちですよね。flumpoolもそう。逆に、例えばBUMP OF CHICKENなんかは、どんなデカい会場になってもライブハウスのていがあるじゃないですか。そういうふうに分かれていくと思うし、そのなかでホール向きのアーティストというのは増えていくと思います。極端に言えば、ミスチルもそうじゃないですか。

渋谷公会堂外観(2013年)
提供:渋谷区

──そう思います。曲がいいバンドですからね。そういう意味で新しい伝説ということを考えたときに、渋谷公会堂のイメージというのはもうちょっとポップス寄りになるのかな、みたいなことを思ったりもするんです。
僕もそんな気はなんとなくしてます。ただ昔のロックと今のロックってやっぱりちょっと違うじゃないですか。今風のロックには合うかもしれないですよね。それは見てみないとわからないし。それに、少子高齢化に向けて、キャリア組もまたホールが必要になってくるし、やり方もいろいろ出てくるんじゃないかと思うんです。渋谷公会堂を一番たくさんやった人って誰か知ってます?
──誰だろう?
沢田研二さん。ジュリーなんですよ。だから、前の渋公のフィニッシュはジュリーがやったんです。渋公というとジュリーっていうイメージもすごくあるんですよ。僕の中では。
──なるほど。
毎年やってたわけじゃないですか。ジュリーは。50年近く人気が衰えないというのはとんでもないことですよ。だから、新しい渋公のこけら落としもジュリーでいいと思うんですけどね。自分ちの会社のことじゃないんで、僕が言うのもナンですけど(笑)。
──(笑)。この記事は全国の方がご覧になると思うので聞きたいんですが、自分の街のホールについての物語というか、レガシー作りをやろうとするなら、どういうことが大事だと思いますか?
ただライブをやるってことじゃなくて、どういう文化を生めるかということだと思うんです。80年代に渋谷は若者の街として劇的に変わっていったわけですけど、そういう時期に若者を中心とした音楽をその街のど真ん中でやった、と。そこにいろんな相乗効果があって、文化が生まれていく。そこでは、音楽だけが売れたわけじゃなくて、そのための服も売れたし、食べるご飯も必要だったしっていう。結局、レガシーってその会場だけじゃダメだと思うんですよ。周辺も含めて、その街がどう盛り上がるか。その“どう”を考えて作っていくと、これからはさらにいいんじゃないですかね。点で考えないっていうか。
──街鳴りさせるということですね。
それともうひとつ、沢田さんのお客さんは60代から70代が中心だと思うんですけど、それは多分、人生にとってすごく大切なことをやられてると思うんですよね。その年代の方が、コンサートを観るだけで1年幸せに過ごせるっていう。そういう効用もあるわけじゃないですか。そういうことを僕らはもっと大切に考えていったほうがいいと思うんです。音楽はどんな薬よりもよく効くはずなので。だから、もうちょっとだけ音楽を好きになってくれる人を増やす作業は必要かもしれないですね。で、今一番やりたいのは、定年退職した男性に「ライブにおいでよ」って言いたいですね。彼らはどこにも行けなくて困ってるから。もし、そういう人たちの、それこそカルチャーを作れれば、劇的にコンサート人口は増えると思うんですよ。今は女性ばっかりだから。男性は定年退職した後、やることなくてみんな困ってる。意外に友達がいなかったりとか、近所にコミュニティがない。行き場がない。そういう人たちも含めて、「あの頃の音楽聴こうよ」と言ったら、“あの頃の人”も元気になるし、それを観て青春を思い出すというのも悪い話じゃないと思うんですよ。僕らは、新しいところばかり考えててもダメな時代になったんで。上のゾーンのことも一生懸命考えませんか?という意識は最近とてもあります。
──そういうことのなかから生まれた新しい流れのひとつかもしれないですが、土日に14時からとか15時からとか、そういう開演時間の設定が最近増えていますよね。それは多分お客さんにとっても…。
一番いいです。
──地方からも来られるし。
僕はよく言ってるんですけど、例えば演劇系とかは、昼っていうか午前の11時開演が一番人が入ったりするんです。これは見事に主婦の人たちのライフ・スタイルにマッチングしてて、旦那を朝送り出す、で近所の人と出かける。11時だと行ける。終わって13時、ランチできる。「今日のあれは良かったわよね」とか話しながらランチして、15時ぐらいにその場所を離れて買い物をして、家に17時に帰る。完璧なんですよ(笑)。それって、音楽の世界では今まで誰も考えてないでしょ。だって主婦の立場に立ってないから。夜なんかやられたら、逆に迷惑なんですよね。「今日ごめんなさい、ご飯作れないんで」とかって旦那に言って行かなきゃいけないけど、誰にも言う必要のない昼間の時間が有効利用できる。でしょ?
──そうですよね。
そういうことが、僕らの音楽でもそのうち当てはまってくると思うんですよ。だから15時開演なんてずっと前から言ってたんです。で、今わりと主流になってきましたけど。終わってご飯たべられるっていうのはすごく大きいと思います。特に日曜日は、次の日は月曜日なんだから、コンサート観て良かったけど、それでもできれば深夜にヘロヘロになって帰りたくない。だからユーザーファーストになっていかないと、こちらの都合でやっちゃダメよっていうことですよね。

近日、いよいよ第1回を公開!
語り手は岸谷 香さんです。
プリンセス プリンセスとして、また、ソロアーティストとして何度も渋公のステージに立ち、
「大好きな会場」と語る香さんが、渋谷公会堂への想いを語ります。

⇒序章 -前編- はこちら

  • 兼田達矢

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    兼田達矢

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