兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第180回[2025年2月後半・Fishmans、奥田民生×山内総一郎の『なんて日だ!』、クリープハイプ×2、New Orderと電気グルーヴ、等の7本を観ました]編

コラム | 2025.04.04 17:00

イラスト:河井克夫

ライターの兵庫慎司が、月に二回のペースで、自分が観たすべてのライブのレポを書く連載の、180回目=2025年2月後半編です。普段、ライブレポの仕事ありとか関係者招待とかで見せてもらうことが9割、普通にチケットを買って観るのが1割あるかないか、くらいなのですが、今回は7本のうち3本がチケットを買って観たやつでした。Fishmansと演劇『ない』とNew Order+電気グルーヴ。

2月18日(火)19:00 Fishmans @ 東京ガーデンシアター

「Fishmans“Uchu Nippon Tokyo”」と銘打って開催された、フィッシュマンズにとって初めての大会場ワンマン。平日にもかかわらず、(茂木欣一のMCによると)6,000人ものオーディエンスが集まった。
ゲスト・ボーカル(とゲスト・ディジュリドゥ)は、ハナレグミ/君島大空/UA/GOMA/マヒトゥ・ザ・ピーポー(出演順)。本編11曲・アンコール2曲の計13曲で、10曲目に「LONG SEASON」をやったこともあって、トータルぴったり3時間くらいだった。
ゲストのパフォーマンスもみんなすばらしかったが、それ以上に強く心に残ったのは、昔、リアルタイムでフィッシュマンズを聴いていて、そのノスタルジーを求めて来た人がいたとしたら、「こんなのフィッシュマンズじゃない」と怒るかもなあ、という内容になっていたこと。で、自分はそこが最高だと思ったこと。
曲が新しくリアレンジされているのは以前からだが、今回それを改めて徹底的にやった感じで、だからすさまじく音が進化していた。「LONG SEASON」、前年5月に大阪のフェス『OTODAMA』でも聴いたが、その時とも全然違う曲になっていたし。
つまり、ソングライターがもうこの世にいないので新曲は作れない、でもすでにある曲を新しく変えていくことでバンドは進化できる、という事実を証明する内容だったのだ。
僕も「これ、もう俺が知ってるフィッシュマンズじゃないなあ」と、観ながら何度も思った。その度にうれしくなった。ノスタルジーを求めることも、それを提供することも、べつに何にも悪くない。ありだと思う。が、フィッシュマンズがそもそもどういうバンドなのかを考えると、今やっていることの方が正解だと思うし、偉大だとも思う。

2月19日(水)19:00 Hump Back、フラワーカンパニーズ @ F.A.D. YOKOHAMA

F.A.D.YOKOHAMAの企画『THE SUN ALSO RISES』の318本目として組まれた対バン。この2組、Hump Backがフラカンを招く形で、2019年11月に金沢、2021年6月に岡山で共演していて、今回が3回目。つまり、関東圏では初めて。
先攻は、ニューアルバム『正しい哺乳類』のリリース・ツアー中であるフラカン。2月4日(火)に下北沢シェルターで観た時、鈴木圭介はノドの調子が悪かったが、アンコールで持ち直した。しかしその後、急性声帯炎と診断され、そこからのツアー3公演が延期に。2月13日(木)の大阪・堺Live Bar FANDANGOから復帰、その次のライブがこの日だった。完全に治癒したことがわかる絶好調っぷりで安心。
この日は、『正しい哺乳類』のリリース・ツアーとは別だからか、同作からは11曲中3曲だけ、あとはおなじみの曲や懐かしい曲が並ぶセットリストだった。さすがにHump Backのお客さんの方が多いが、「はぐれ者讃歌」の「♪歌えー!」でちゃんとシンガロングが起きたりして、いい空気だった。
Hump Backは、この1ヵ月前にKT Zepp Yokohamaで観た時(この時≫兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第178回[2025年1月後半・ホルモンや「さるハゲフェス」の松尾スズキや「真心フォーク村」等の7本を観ました]編)も思ったが、とにかくもうライブをやれることがうれしくてしかたがない、という気持ちがまだ収まっていない、頭から最後までテンション超高いまま駆け抜けるステージ。アンコールを入れて13曲のうち3曲が、3月26日リリースのニューアルバム『Hump Back』からの曲だった。
最初のMCで林萌々子、なぜ自分たちがお客さんに「お帰り」と言われているのかを、フラカンのファンに説明。1年半くらいライブを休んでいた、3人とも子供を産んで帰って来ました──と言ったところでフロアから飛んだ、「ママ!」という声を拾って、「あんたにママって呼ばれる筋合いはない」。笑いました。そうですよね。

2月23日(日)19:00「奥田民生と山内総一郎の『なんて日だ!』」 @ Zepp Haneda (TOKYO)

2024年の4月から2025年の3月までかけて、あちこちで何本も行われてきた、SMA設立50周年のイベントの中の1本……あ、違う。3月までじゃない。3月9日(日)にKT Zepp Yokohamaで行われるはずだった、Base Ball Bear+橋本絵莉子のイベント『なかなか(いい感じの)男女』が、小出祐介の怪我で5月23日(金)に延期になったので、あと1本あるんだった。
で、この日はタイトルどおり、奥田民生と山内総一郎が中心となったバンドが、豪華ゲストを多数迎えるイベント。SMA所属の芸人ふたり=バイきんぐ小峠とやす子が、MCとして全体を進行する、はずだったが、小峠は「民生さんが飲んでいいって言ったから」というわけで、登場前から既にアルコールが入っており、その後も飲み続けていたようで、どんどん酔っぱらっていき、中盤以降はほぼ職務を放棄。そんな先輩にキレながらやす子がひとりで進行するさまが、大笑いだった。
バンドは、奥田民生と山内総一郎以外は、ドラム伊藤大地、ベース砂山淳一、キーボード奥野真哉、というメンバー。以下、曲目とボーカルもしくは演奏を担当したゲスト(じゃない場合もあり)を、書いておきます。ゲストは基本、SMAアーティストのカバーを1曲、自身の曲を1曲、という構成でした。

1 大迷惑(ユニコーン) バイきんぐ小峠&奥田民生
2 人の息子(奥田民生) 山内総一郎
3 トリセツ(西野カナ) 奥田民生&山内総一郎
4 異邦人(久保田早紀) もも(チャラン・ポ・ランタン)
5 ぽかぽか(チャラン・ポ・ランタン) もも(チャラン・ポ・ランタン)
6 迷い道(渡辺真知子) 土岐麻子
7 Gift〜あなたはマドンナ〜(土岐麻子) 土岐麻子
8 マシマロ(奥田民生) 葉加瀬太郎
9 情熱大陸(葉加瀬太郎) 葉加瀬太郎、途中から桜井秀俊も(真心ブラザーズ)
10 アースの休日(地球三兄弟) 真心ブラザーズ
11 呼びにきたよ(地球三兄弟) 真心ブラザーズ
12 スローなブギにしてくれ(I want you)(南佳孝) joOji
13 眼差し(joOji)  joOji
14 初恋(村下孝蔵) 八熊慎一(SPARKS GO GO)
15 ルーシーはムーンフェイス(SPARKS GO GO)  八熊慎一(SPARKS GO GO)
16 JUNKメドレー“I.M.O.”(イモマミレオーケストラ) (八熊慎一、奥田民生、山内総一郎、YO-KING、桜井秀俊、奥野真哉、やす子)
17 どか〜ん(真心ブラザーズ) 真心ブラザーズ
18 アジアの純真(PUFFY) もも&土岐麻子
19 恋のマジックポーション(すかんち) 全員
20 すばらしい日々(UNICORN) 全員
EN.1 イージュー★ライダー(奥田民生) 山内総一郎&奥田民生
EN.2 One Night Carnival(氣志團) 全員

でした。以下、いくつかちょっと補足。
※8・9曲目の葉加瀬太郎ゾーンの「マシマロ」は、葉加瀬太郎が歌メロ部分を弾くインスト・バージョン。「情熱大陸」では、「何かにつけバイオリンを弾かされがちな男」桜井秀俊が途中から登場、葉加瀬太郎とふたりで弾きまくって大ウケ。YO-KING「桜井、音、細っ!音は細いけどハート強っ!すごいわ、俺ならできないわ」桜井「奥田民生さんの誘いは断れないです」OT「このために来ていただいたんです。このバトルが観たかった!」。
※それに続く、地球三兄弟=奥田民生+真心ブラザーズの2曲=10・11曲目は、この日のバックの伊藤大地と奥野真哉は地球三兄弟のサポートメンバーでもあるので、基本、その5人で演奏。10曲目は葉加瀬太郎も加わり、桜井=バイオリンとボーカル、奥田民生=ベース、YO-KING=ドラム、奥野真哉=キーボード、伊藤大地は口笛、という編成。11曲目は葉加瀬太郎が去り、5人で演奏した。10曲目、後ろでピアノのアドリブを入れた奥野真哉に桜井、歌いながら「うるさい!」と一喝。
※14曲目の村下孝蔵「初恋」は、八熊慎一、村下孝蔵のコスプレで登場。この曲も次の「ルーシーはムーンフェイス」も、奥田民生・山内総一郎との3人で、アコースティック・ギター弾き語りスタイル。
※16曲目の「JUNKメドレー」というのは、SPARKS GO GOが地元の北海道倶知安町で行っていたイベント『JUNK! JUNK! JUNK!』でのユニット「I.M.O.(イモマミレオーケストラ)」を再結成して、メドレーで何曲もやる、という趣向。八熊、奥田、山内、YO-KING、桜井、やす子、というメンバーで、男は学生服でやす子はチャイナドレス。あ、奥野真哉もいたか。
※最初にも書いたように、「酒くせっ」「もう帰ってほしいですね」などと小峠に手を焼きながら、ひとりで進行を全うしたやす子と、実はもっとも出ずっぱりだった奥野真哉に、拍手を贈りたくなりました。あと、joOjiの「スローなブギにしてくれ」、すばらしかった。

2月24日(月・祝)14:00 『ない』 @ 京都芸術劇場 春秋座 studio21

2023年度から、京都芸術大学舞台芸術研究センターの教授になった松尾スズキが、「松尾スズキ・リアルワークプロジェクト」として、同大学の全学科の学生を対象に、募集・選抜を行ってチームを作り、出演も制作スタッフも学生たちの手で、1本の演劇を上演する──という、1年がかりのプロジェクト。
去年がその一回目で、観に行ったらとてもおもしろかった(この時≫兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第156回[2024年2月後半・サニーデイ、ヤバT×氣志團、松尾スズキ×京都芸大の学生たち、などの8本を観ました]編)。なので、今回も京都まで足を運んだ。東京は曇り、京都に着いたら大雪、の日でした。
昨年は松尾スズキの2019年の作品『命、ギガ長ス』を学生たちが演じる、というものだったが、今年は松尾スズキがこのために書き下ろした『ない』という芝居。
不条理劇というかコラージュ劇というか、短いシーンがいくつも連なって行って最終的にひとつになる、的な内容で、純粋に松尾スズキの新作として、すばらしくおもしろかった。学生たちの演技も良かったし。なのに、これが人生最後の芝居になる学生もけっこういるのかあ(そもそも俳優志望ではない学生の方が多いので)、と思うと、何かしみじみ。

2月24日(月・祝)17:30 クリープハイプ @ ロームシアター京都 メインホール

1年前は、京都芸術大の舞台が終わってから、磔磔に移動してアナログフィッシュを観たが、今回はロームシアター京都 メインホールへ行ってクリープハイプを観た。
ロームシアター京都 メインホール、昔は京都会館第一ホールという名前だった。大学時代を京都で過ごしたので、ここでザ・ブルーハーツやチープ・トリックを観たことがある。足を運んだのはそれ以来なので、35年ぶりくらい。
クリープハイプ、ニューアルバム『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』の、半年がかりで行われる大規模なリリース・ツアーの5本目がこの日。音響とかコンディションとかの各条件が揃っていたのもあってか、すばらしく仕上がっているステージだった。
尾崎世界観、演奏しながら、4階までびっしり満員の客席を見て、笑顔になっている自分に気がついたようで、曲が終わると「客席を見渡して、尾崎、満面の笑み。終わりたくないな、ずっと見ていたいな、もう一回満面の笑み──」と、ナレーションみたいなことを言い始める。
「それでどうせ『ああ、丸くなったなあ、尾崎』。わかってるから、そんなことは。『かわいいな。昔のとがってる尾崎も好きだけど、今は今でいいなあ』。うるせえ! 先に言っとく」。あっはっは。基本、なんに関しても「心から酔う」ことができない人なのは知っているが、それがこんなにも一貫しているところが、本当に信用できます。
ただ、「だって、いい感じだったんだもん。国立のアパートで、『ライブの時、こんなふうになればいいな』って思いながら作った曲が、実際にそうなったんだからさ。それは満面の笑みにもなるでしょ!」などと、かわいいことも言っていた。

2月27日(木)18:30 New Order @ 有明アリーナ スペシャルゲスト:電気グルーヴ/サポートDJ:マーク・リーダー

New Orderの8年ぶりの来日。8年前は行かなくてあとで後悔したので、今回は即チケットを取ったら、後日ゲストで電気グルーヴの出演も発表されて、得した気持ちになった。
開場中と転換中にDJを務めたマーク・リーダーが、「虹」をかけて盛り上げたりしたあとに、電気が登場。「人間大統領」「Shangri-La feat.Inga Humpe」「モノノケダンス」「DISCO UNION」「Fallin' Down」「SHAMEFUL」「Fake It!」「N.O.」「FLASHBACK DISCO(is Back!)」の9曲。
「N.O.」のイントロで、石野卓球が「40年前高校生の時、New Orderのライブを観に来て、こんな日がくるとは思わなかったぜ、最高だぜ」と言ってから歌に入ったのには、だいぶグッときた。そう、40年前、New Orderの初来日を、静岡から東京まで観に行ったんですよね、石野さん。インタビューで読んだことがあります。
New Orderは、「Crystal」「Ceremony」「Bizarre Love Triangle」「True Faith」「Blue Monday」等の代表曲や、Joy Division時代の「Transmission」「Atmosphere」「Love Will Tear Us Apart」、それから石野卓球が観に行った1985年の来日の時に、日本のスタジオでデモを録った曲であり、今回の来日で38年ぶりに演奏されたという「State Of The Nation」などの18曲。期待していた曲も、それ以外の曲も含めて、いちいちうれしい1時間50分だった。
基本、このあたりの、自分が10代〜20代前半の頃に知った英米のバンドの来日公演は、「これで最後になるかもしれないから観ておこう」と思ってチケットを買うことが多いが、この人たちは次もありそうだな、とも、観て思った。

2月28日(金)18:30 クリープハイプ @ 市川市文化会館 大ホール

京都の4日後、今度は本八幡の市川市文化会館でクリープハイプ。この日は取材で、リハ開始時間に入って、ライブを観て、終演後に尾崎世界観に短いインタビューをする、という仕事。
4月1日発売の週刊女性掲載の「人間ドキュメント」というページで尾崎世界観の記事を作った、そのための取材だったのでした。間に合えば、誌面の方、ぜひ。間に合わなくても、後日、「週刊女性PRIME」の(「人間ドキュメント」のページ≫)にアップされるので、そちらでぜひ。
尾崎はロームシアターの時、MCで、古い友人である京都在住の詩人、choriが、去年の夏に亡くなってしまった、ということについて話をした。
で、この日は、最後にひとりでステージに残り、ここ本八幡のライブハウスで活動していた頃の友達で、インディ・リリースした時の「HE IS MINE」でサックスを吹いてもらったミュージシャンが、その後に亡くなってしまった──という話をして、弾き語りで、彼女に捧げる曲を歌った。
京都も本八幡も、毎回ツアーで必ず行く土地ではない。だから、来れる時はその人のことを思い出したいし、口にしたい。オーディエンスに言いたいというよりも、自分が決して忘れない、ということを確認するために──というような気持ちなのかな、と、その話を聴きながら思った。

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    兵庫慎司

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