ぜひぜひ、当時Hysteric Blueを聴いていたという人たちにも、いまの彼らを知って欲しい。Sabão(読み:シャボン)はポルトガル語で石鹸という意味で、2011年に元Hysteric BlueのTama(Vo)と楠瀬タクヤ(Dr)が結成したユニットのことだ。ヒスブル結成20周年という記念すべき今年、Sabãoは初のアルバム『MeRISE』(読み:ミライズ)をリリース。アルバムはHysteric Blue時代の代表曲をセルフカバーした<過去>、Sabão時代の楽曲たちを集めた<現在>、Hysteric Blue時代の楽曲をリミックスでいまの時代へ蘇らせる<ワープ>、そしてSabãoの最新曲で<未来>を描き、二人のこれまでの音楽人生の軌跡を感じられる1枚となっている。そのアルバムを提げ、Sabão初となる全国ワンマンツアー< Sabão LIVE TOUR 2018「LASTING HOPE」>を開催中の二人に話を聞いた。
過去のヒスブルの楽曲をセルフカバー。元々のアレンジを完コピした理由は、原曲をアレンジしてくださった佐久間正英さんへの敬意から
──Sabão初のアルバム『MeRISE』は、ヒスブルのセルフカバーなども収録されていて、お二人の音楽人生がぎゅっと凝縮された1枚だなと感じました。本作を作るにあたって、考えたコンセプトはありましたか?
楠瀬タクヤ(Dr)
まずアルバム作るときに、今まで出したSabãoの音源を集めてっていうのもできたんですが、これはレーベルのオーナーとの話の中で、作品なんだからストーリーを作ろうよといわれまして。
Tama(Vo)
それで、アルバムは“過去”“現在”“ワープ”“未来”という構想で、過去のヒスブルをカバーしたゾーン、現在Sabãoがやってる曲たちを並べたゾーン、ヒスブルの曲をリミックスで現在にワープさせたゾーン、そしてSabãoの新曲を入れた未来ゾーンと4つのゾーンに分けて、私たちの過去から未来までのダイジェストがこの1枚で分かるものにしました。
──そのなかでヒスブルの代表曲「春 ~spring~」、「なぜ…」を過去ゾーンでのカバー、ワープゾーンのリミックスと2回収録したのはなんでだったんですか?
Tama
まず、Sabãoのカバーは…
楠瀬タクヤ
完コピ目指してやりました。
──あえて完コピを狙ってるんですね。Sabãoのカバーでは。
楠瀬タクヤ
はい。元々Sabãoが始まったときに完コピで「春 ~spring~(Sabão ver.)」と「なぜ…(Sabão ver.)」はやってたんですよ。それで、今回アルバム作るにあたってHysteric Blueの過去ゾーンは重要やなと思ったので、それに合わせて、「ふたりぼっち(Sabão ver.)」と「Dear(Sabão ver.)」と「グロウアップ(Sabão ver.)」を新しく追加したんですけど。
で、元々のアレンジを完コピした理由は、原曲をアレンジしてくださった佐久間正英さんへの敬意です。佐久間さんの正解をなぞるのが僕たちにとっての1番の正解だし、今となっては「たぶんあのとき、こう教えてくれてたんですよね?」、「僕たちも成長しましたよ」というのを見て欲しかったというのがありました。
で、元々のアレンジを完コピした理由は、原曲をアレンジしてくださった佐久間正英さんへの敬意です。佐久間さんの正解をなぞるのが僕たちにとっての1番の正解だし、今となっては「たぶんあのとき、こう教えてくれてたんですよね?」、「僕たちも成長しましたよ」というのを見て欲しかったというのがありました。
──そんな意図があった訳ですね。
楠瀬タクヤ
あと、僕たちがやるからって新しくアレンジして「イメージと違うわ」ってなっても俺たちもファンも嬉しくないじゃないですか?
Tama
そうだよね。アレンジでどう転ぶかはすごい重要。
昔はこんなジャズアレンジを出されても歌えなかったと思う。無駄に過ごした20年ではないなというのは、特に「春 ~spring~[jazz piano remix]」を歌って感じたこと
楠瀬タクヤ
「春 ~spring~」はこれまでたくさんの人にカバーしてもらってるんですけど。劇的にアレンジしてる人はいなくて。
Tama
大きくは変わってないんです。そう考えると、ワープゾーンでアレンジしてくれたござさんは凄いなと。あのジャズアレンジは、これぞアレンジという感じですからね。
楠瀬タクヤ
しかも、それで「これはこれで素敵だわ!」と思わせるアレンジだったので嬉しかったですね。
──ござさんとの接点は?
楠瀬タクヤ
僕がツイッターでフォローしてたんですよ!
Tama
現代っぽいでしょ?(笑)
楠瀬タクヤ
ツイッターにピアノ弾いてる指だけをアップした動画を上げてて。いまも“ござ”さんという名前しか分からないんですが(笑)。
Tama
全部DMでやりとりしてて。
楠瀬タクヤ
ござさんの素性は知らないんです。で、すべての作業が終わったときに「僕も小学校のときに聴いてた曲だったので懐かしさを感じながらアレンジさせてもらいました」というメッセージがきて。え!知ってたんやって。最初はそこに対してなにもリアクションなくて「かしこまりました」って感じだったのに(笑)。
Tama
どんな人なんやろうな(微笑)。
楠瀬タクヤ
ね。僕らはジャズとか全然かじってないのに、こんな大人っぽいアダルトなムードのアレンジがあがってきて。Tamaちゃんには、こんなのいままでやったことないけどうまくいけるかな?シンガーとしてテクニック的にはいけるはずやからって思いながら、祈るだけでした。ドラムも録らないから。
Tama
うははっ。そやな。
──Tamaさんは歌ってみていかがでしたか?
Tama
昔はこんなジャズアレンジを出されても歌えなかったと思う。でも、やってみたら自然と気持ちがのって。思いの外のびのび歌えたんですよね。バンドじゃなくて自分の好きに抑揚がつけられて、すごい気持ちよかったです。そうできたのは、年を重ねたからこそだと思ったんですよね。無駄に過ごした20年ではないなというのは、特にこれを歌って感じたことです。この曲はとくにずっと歌ってきて体に染み付いてるからこそ、こんなアレンジがきても歌をそっちに寄せられるぐらい馴染んでるんだなと思いましたね。まだ体に馴染んでない歌だったら、ここまでアレンジが変わると対応できないかも。
──ジャズアレンジもそうですが、「なぜ…〔electro remix〕byアサキ」のアサキさんのリミックスも衝撃的でしたね。
楠瀬タクヤ
アサキちゃんは20歳になったばかりのラップもしてアレンジもする人で。僕たちは20年音楽をやってきて、Hysteric Blueの頃から世代的には90年代から2000年代初頭のガールズポップをやってるんですけど。それをSabãoでも継承していて。いまの人に僕らがやってきたこと、経験を橋渡ししていく年齢にもなってきたのかなと思っていて。彼女は僕らのことは知らずに生まれてきた世代やから、フラットなんですよ。曲に対して。なのでオファーさせてもらったら、とんでもなく全然違うエレクトロなものが上がってきて。
──ヒスブルを何も知らない世代だからこそ。
楠瀬タクヤ
ええ。ボーカルトラックも好きにアレンジしてくれて(笑)。
Tama
こっちはテクノかって。
楠瀬タクヤ
ござさんもアサキちゃんも完全に僕たちにはないスタイルですね。
Tama
ここまで思いきってやってくれたほうがいい!1回食材から全部変えようやっていう発想で別の曲になるぐらいのアレンジをしてくれたから、私はこのお二方にはすごく感謝しています。
──でも、ここまで強烈なアレンジを入れても、変わらない匂いは残ってるんですよね。
楠瀬タクヤ
ああー。それが僕ら、Sabãoの本質なんでしょうね。Tamaの歌声と僕のメロディーだけが残ってる訳やから。
Tama
そこが核の部分なんでしょうね。