──7月25日に25周年記念アイテムとして『歌うたい25 SINGLES BEST 2008〜2017』がリリースされますが、まず思うのは“たくさん曲を作ってるなあ”ということです。
それは俺も思いました。働いてるなあって(笑)。
──(笑)。キャリアを重ねるなかで、曲はどんどん書けるようになってきた感じですか。あるいは、けっこう毎回絞り出してるんですか。
絞り出してもいるし、でもデビューの頃と比べれば少しは早く書けるようになってるような気もします。デビューした頃は、本当にどうやって作っていいのかわからなかったし、アルバム10曲なら10曲だけで、余分な曲なんてないというような感じでした。ただ、俺はスタジオに入ってから曲を作り出すことが多くて、貯めてる断片をスタジオに持ち込んで組み合わせて作ったり、それとは全然関係ないところからできたり、いろいろなんですけど、それにしてもスタジオに入りさえすれば何かできるはずという思い込みがずっとあって、あとはもう本当に締め切りのおかげだと思います。
すぐに絵が浮かぶ、口ずさめる曲を作りたいのはデビューの時から変わらない
──シングル曲の場合はそれぞれいろんなタイアップが付いていることも多いですが、そういう形である種のお題というかリクエストみたいなものが先にある場合の作り方に慣れてきた感じもあるんでしょうか。
そういうこともあるかもしれないですね。人から出てくるお題が、自分では思いつかないようなことだったりする場合もあるし、それが自分にとっても挑戦になったりすることもあるんですよね。
──もうひとつ感じるのは、最近の曲、特にシングルの場合は、できるだけシンプルな作りにしようという気持ちがはたらいているのかなということなんですが、そのあたりはいかがですか。
特にシングルとアルバムの曲を分けて考えてるつもりはないんですけど、それでもシングル曲となると自然とシンプルでわかりやすそうなものになっていくのかもしれないですね。元々、難解な曲は聴き手として好きじゃないし。サウンドとしてサイケっぽいものとか、そういうのはいまでも大好きですけど、メロディや歌詞についてはやっぱり1回聴けばすぐに絵が浮かんで覚えられるようなものが自分は好きだし、作るのもそういうもののほうがいいと思ってるんです。
──ソングライティングに関して、目指しているものというか良いと思っているものはこの25年を振り返ってもあまり変わっていないように思いますか。
どうなんでしょうね…。でも、多分そうだと思います。いわゆる歌謡曲が小学校、中学校の頃は好きだったし、自分の音楽のベースにあるものとしてそういう音楽がけっこうデカいと思っていて、ギターを弾き始めてから洋楽もいろいろ聴くようになりましたけど、例えばビートルズでもやっぱり好きなのはメロディがはっきりしてて展開がわかりやすくてという曲で。聴いてすぐに覚えられる3、4分の曲で、1回聴いたら短編小説を読んだり短編映画を見たような感じがして、すぐに絵が浮かぶ、すぐに口ずさめるっていう、そういう曲が好きなので、自分が作るものもなるべくそうでありたいというのはデビューの時から変わらないです。
作り方は毎回色々試していて。手グセで作るのは自分がどうも盛り上がらない
──そういうベースがあるなかで25年にわたって曲を作ってきて、上手になったというか、思っていたことの達成度や達成率が高まったという感覚はありますか。
曲作りのコツみたいなものはいまだによくわからなくて、昔からそうですけど、例えばまずドラムのパターンだけがあって、このリズムに乗せて何か作りたいというところから始まる場合もあるし、ベースのリフだけがあって、それで1曲できないかなとか、そういう作り方が多いんですよね。聴いてるほうからすると、アコギ1本で歌詞もメロディもいっしょに作ったような印象の曲が多いかもしれないですけど、じつはそういう曲はあまりなくて。というのも、そういうふうに作ると、自分の手グセがすごく出てしまうから、「またこれ弾いちゃった」「また似たような曲になっちゃった」ということになるんですよね。手グセみたいなもので作るのも、それはそれでありかもしれないですけど、でも俺はそういうのは自分がどうも盛り上がらないから。
──同じことの繰り返しみたいになるのが嫌なんですね。
そうなんです。そういうことを避けるために、今回の新譜(『Toys Blood Music』)だったらいろんなマシーンとやってみたり、楽器は持たずにメロディだけを考えてレコーダーに録ったりするわけです。で、その録音するのも、歌メロだったり、ギターのリフだったり、ドラムのパターンだったりするんですよ。作り方については毎回いろいろ試しながらやっていって、その上で出来上がったものが似てる場合は、それも自分の個性ということにしようという感じなんですよね。だから、作り方というのではないですけど、いろんなところからどういうふうにでもできたらいいなと思っていて、そういう部分でのこだわりはどんどんなくなっていってますよね。ジャム・セッションから作ってもいいし、マシーンで作ってもシンセで作ってもいい。いろいろやった後でまたギターを持って作ると新鮮に感じることもあるんです。そういうことの繰り返しではあるんですけど、経験としてそういうふうにやっていけば何かできるはずだというのは昔よりも強く思ってますね。
──自分が盛り上がる出来上がりへの近道はないかもしれないけど、入り口は増えているような気がする、ということでしょうか。
そうですね。そういうことだと思います。普段聴いてるものもどんどんこだわりがなくなってますから。昔は「これはロックじゃないから、嫌だ」みたいな感じでもっと分けてたと思うんですけど、ここ10数年くらいはテクノも聴けばジャズも聴くし、ロバート・ジョンソンみたいなディープなブルースも昔より好きになってるし。昔はいつ曲が変わったのかわからないくらい、全部同じなんじゃないかと思ってたんですけど、ここ数年はちゃんと曲ごとの違いもわかるし、かっこいいなあと思ったりしますから。