ASKA、聴き手に希望と救済をもたらす『Wonderful world』。楽曲に込めた想いを語る

インタビュー | 2022.11.24 18:00

ASKAの2年8か月ぶりのオリジナルアルバム『Wonderful world』は“全曲が名曲”と言いたくなる作品だ。パーソナルでありつつ、普遍性を備えていて、今の時代にリアルに響いてくる。前作『Breath of Bless』は2020年3月発表で、コロナ禍が広まる直前だった。今回の新作はコロナ禍の中で制作された作品だ。CHAGE and ASKAの名曲「太陽と埃の中で」と「PRIDE」のリメイクも収録されている。しかし、この2曲に他の楽曲が負けていない。かけがえのない瞬間を描いたラブソングから、苦難を乗り越える日々が刻まれた歌まで、バラエティに富んでいて、喜怒哀楽のすべてが歌になっている。しかも最終的に聴き手に希望と救済をもたらす作品になっているところが素晴らしい。なぜこのようなアルバムを生み出すことができたのか? ASKAに話を聞いた。

【アルバムCD告知】11/25(金)リリース「Wonderful world」

──2020年9月に3週連続で「幸せの黄色い風船」「自分じゃないか」「僕のwonderful world」を配信シングルとしてリリースしています。この3曲がアルバム制作の起点と言えますか?

アルバムにつながっているのは間違いないですね。この3枚のシングルは“今、自分が歌いたい曲を作って発表する”というテーマなので、制作した楽曲です。順番は3番目になりましたが、最初に作ったのは、「僕のwonderful world」でした。

──『Wonderful world』というアルバムタイトルにもつながる楽曲ですね。

世の中が暗い空気に包まれていたこともあって、こんな時だからこそ、サッチモ(ルイ・アームストロング)の「What a wonderful world」みたいな曲を作りたい、僕なりの「What a wonderful world」を歌いたいと思って作ったのが、「僕のwonderful world」でした。その後、「幸せの黄色い風船」ができた時に、3曲の中でこの曲を最初に発表するのがいいだろうなと考えました。

──「幸せの黄色い風船」はまさに世の中にハッピーな空気をもたらす曲です。

「幸せの黄色い風船」のリリース日には、全国各地で自主的に、“黄色い風船を飛ばそう”という動きがあり、たくさんの人たちが風船を飛ばしてくれました。2番目のリリースとなった「自分じゃないか」は<七つの星>というモチーフがヒントになって作った曲です。もともとは聖書に出てくる言葉で、予言的な文章がしるされています。その内容が印象的で、その言葉に着想を得て制作した曲です。

──アルバムで初公開となる新曲も数多く収録されています。これらの新曲を作るうえで意識したことは?

今の世の中の出来事も考えつつ、同時に、そこに集中しすぎてはいけないという意識もありつつ、自分の中から出てくるものを素直に受け入れようという意識もありました。“こっちに行こうという自分”と“いや行かないという自分”と“受け入れる自分”という、3つの自分の気持ちが入り混じっていました。3つの意識を持って制作したことによって、バランスの取れた作品になったのではないかと感じています。

──「太陽と埃の中で」と「PRIDE」というCHAGE and ASKAの代表曲のセルフカバーが2曲入っていることも大きな特徴になっています。この2曲を収録したのは?

「太陽と埃の中で」は外から持ち込まれた企画だったんですよ。お笑いコンテスト「G-1グランプリ」の大会テーマソングとして使いたいという話をいただいことがきっかけでした。「PRIDE」も亀田興毅から番組で使いたいという話をもらったのがきっかけです。新たに録るチャンスをいただいて、「太陽と埃の中で」と「PRIDE」をリメイクできて良かったなと思っています。今の自分の年齢の「太陽と埃の中で」と「PRIDE」になりました。

──2曲とも生きる勇気や希望をもたらしてくれる曲で、今の時代にダイレクトに響いてくると感じました。

2曲ともテーマは一緒ですよね。僕は、誰かを応援しようという意識で曲を作ることはないんですよ。でもそういう意識とは別に、僕の作った曲を聴いて、「励まされました」と言ってくれる人がいるのはありがたいことだなと感じています。

──どんな意識で作っているのですか?

励ますために作るのではなくて、自分のために作って歌っています。その歌が結果として、共有されているということなんだと思っています。

──「太陽と埃の中で」は今回のアルバムの1曲目に入っています。この曲からスタートすることにしたのはどうしてですか?

「太陽と埃の中で」を1曲目にすることで、アルバムが広がるだろうなと判断したからです。あくまでも感覚的・直感的なものですが、なんの躊躇もなく決めました。

──「太陽と埃の中で」はサビ始まりで、しかもアカペラでの始まりになっています。リメイクするにあたって、どんなことをイメージしていましたか?

リメイクする時って、変化させなきゃいけないという気持ちが強くなりがちですが、そこばかりを強調してはいけないなと思いながらも、今こういうふうにやりたいと感じたことは、素直にやってみようと考えていました。サビ始まりにしたのは、ライブバージョンだったら、こうやるだろうなと思ったからです。サビ始まりの構成はスタジオに行ってから決めました。

──「太陽と埃の中で」の中の<追い駆けて 追い駆けても つかめないものばかりさ>というフレーズは、年を重ねた今のほうがより深く響くのではないかと感じました。今回、新たに歌って思うところはありましたか?

人は誰でも、いくつになっても、こんなふうに感じるものなんじゃないかと思っています。満足って経過の中にしかないものだから、瞬間的に感じることがあっても、最終的には満足はしないですよね。

──「太陽と埃の中で」の次に「自分じゃないか」が来る流れもいいですね。

「自分じゃないか」は頭は抑えめで入って、サビでドンといく展開にしようということは考えていました。

──「どんな顔で笑えばいい」はASKAさん流ブルースロックと言えそうです。どんなところから、生まれた曲なんですか?

もともとは20年くらい前に作った曲なんですよ。CHAGE and ASKAでやろうと思っていて、実際に横浜アリーナでやったことがあります。「新曲できたよ。かっこいいんだ。でもまだ歌詞ができてないので、ラララでやるから聴いて」と言って、やりました。でもしばらく時間がたってみると、“何かが違う”と感じてしまう自分がいました。“これはサビの展開が違うんだな。直球で作ってもおもしろくないな”と考えて大幅に変えました。

──確かに起伏に富んだ展開がスリリングです。

「組曲みたい」という感想もいただきました。この手の曲は、男性っぽさがあるので、男性が好きなのかなと思っていたら、女性も好きみたいです。ロックとポップスの境目はないと思っていますが、「ASKAロック」と言ってくれる人もいます。

──歌詞もゴツゴツとした言葉の数々が刺さってきます。<どんな顔で笑えばいい>に至るまでのフレーズも印象的です。

言葉のとおりですよね。“一体俺はどうすればいいんだ”という違和感を描きました。

──「だからって」は聴けば聴くほど染みてくる名曲です。どんなところから作った曲ですか?

2年ほどまえにYou Tubeで数日にわたって制作の過程を公開した曲なんですよ。3日目に玉置浩二がなだれこんできて、玉置がアドリブで歌った映像をあげたら、再生数が300万を超えました(11月24日現在で387万回)。その時のメロディはアドリブでしたが、さらに突き詰めて構築したら、サビのメロディと歌詞とがうまくハマりました。

──<だからって 明日僕は希望を 手放しちゃいけないさ>というサビのフレーズも素晴らしいです。<流しのステンレス>という日常的なモチーフでの曲の始まりも新鮮でした。

僕はリビングか仕事部屋で歌詞を書くことが多いんですが、生活音があるんですね。その音がきっかけになることがあって、この曲も流しの水の音というモチーフから広げて作りました。この曲は最後のほうで半音上げています。これまでは半音上げはほとんどやっていなかったんですが、この曲はこの展開がふさわしいと判断しました。同じメロディでも半音上げるだけで気持ちも変わるし、変化もでます。これは今後もありだなと思いました(笑)。

──「それだけさ」はAメロとサビとの緩急が見事で、強い意志を感じさせる歌声が素晴らしい曲です。これは?

頭のピアノを四つ打ちで行ってるのは、何気ない入り方にしたかったからです。こういう曲を大上段に行くと、曲の印象がそっちに向かってしまうので、頭はメロウに入って、サビはドンと大胆に違う世界に持っていくのがいいかなと考えて、歌詞も展開に合わせて書きました。この曲のドラムは菅沼孝三(ASKAの盟友のドラマー。2021年11月に逝去)が叩いています。

──いつ録ったのですか?

2年ほど前ですね。この曲が孝三の最後のレコーディングでした。その時は気がつかなかったんですが、マスタリングをしながらミュージシャンクレジットを眺めている時に、孝三のことと<僕が生まれたこと それだけさ>という歌詞とがシンクロする瞬間がありました。

──<僕は変わり変わり続ける 自分のままで>というフレーズも、素晴らしいです。

同じところにいられない性分であることは自分でもよく知っています(笑)。変化がないと、ダメなタイプ。まわりから、“ジェットコースター”と言われていて、自他ともに認めています(笑)。「NEVER END」という曲の中にも、<変わり続けることでしか 生きて行くことができなくってる>というフレーズがあります。この性分は変わらないですね(笑)。

──「それだけさ」に続いて「PRIDE」が入る流れもとてもいいですね。イントロのホーンでハッとさせられました。

配信でリリースしたときには、ホーンセクションは抑えめだったんですが、マスタリングの時に、音を上げました。変化をつけたのは、それくらいですね。

公演情報

DISK GARAGE公演

ASKA&DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023

2023年3月16日(木) ぴあアリーナMM
2023年3月19日(日) 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

出演:ASKA、DAVID FOSTER
ASKAバンド&Get The Classics Strings

来場者特典:全来場者を対象にASKAの今夏の多様な音楽活動を伝えるBlu-ray
[ASKA Premium Symphonic Concert LIVE(2022年8月6日名古屋公演)約120分]を謹呈いたします。

チケット一般発売日:2022年12月24日(土)

RELEASE

Wonderful world

ASKA、音楽活動43年間&ソロ35周年の集大成となるニューアルバム

Wonderful world

2022年11月25日(金)SALE
(DADA label)
DDLB-0021

01. 太陽と埃の中で
02. 自分じゃないか
03. 笑って歩こうよ
04. どんな顔で笑えばいい
05. だからって
06. 僕のwonderful world
07. 幸せの黄色い風船
08. それだけさ
09. PRIDE
10. プラネタリウム
11. 君
12. 誰の空
13. I feel so good

◆先行予約&先着特典
タワーレコード全店舗:特製ASKAオリジナルポストカード
HMV全店舗:特製ASKAオリジナルステッカー
Amazon
楽天
YAHOO!ショッピング
  • 長谷川 誠

    取材・文

    長谷川 誠

    • ツイッター
    • Facebook
    • instagram
  • 撮影

    (株)フォトスタジオアライ 豊嶋 良仁

SHARE

ASKAの関連記事

アーティストページへ

最新記事

もっと見る