シンガーソングライターであり、MIMIZUQのボーカルでもある森 翼が、自身の誕生日でもある5月3日にニューアルバム『bouquet』を配信リリース。5月3日から10日まで、全国のファミリーマートの店内BGMとしてアルバム収録曲「マザー」が話題となった森翼。第2回となる今回は、そんな彼のアーティスト像を探るインタビューをお届けする。さらに、後半では6月8日にデジタルシングルで新曲「Child Room」をリリースするMIMIZUQのseekを交え、バンド内の森 翼の存在について、さらに森加入後のMIMIZUQのライブの化学変化についても話を聞いてみた。
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──森さんはシンガーソングライターとして、ソロではライブ中心の活動をしてきて、ずっと音源を出していなかったんですよね。
森はい。前作『naive』は13年ぶりのアルバムでしたからね。それまでは音源を残すことこだわってなかったんです。ライブに来て下さる方に直接届けるというのが自分も楽しかったし、それをその場でお客さんに受け取ってもらうというのが一番やりがいがあったことだったので。けれども、コロナでそのライブができなくなってしまって。
──ああ、そのことがまずいままでの活動に変化を加えた大きなきっかけとなった訳ですね。
森はい。そこからは、自分の思いを形にして残していくことを考えてアルバムを作って。それを通販だけで売ったんですよ。ネットで注文をもらったものを自分で全部梱包して送ったんですけど。そうしたら、自分がライブしに行った場所、土地、そこからの注文が多くて。その住所はまさに自分がこれまで歌い巡ってきた軌跡で「俺はこんなにライブ続けてたんや」と思ったし。「こんなに(音源を)待っててくれた人がいたんだ」って気持ちにもなったんですね。そうしたら「もう今回みたいに10何年も待たせられへん。じゃあすぐにでも次のアルバムを作ろう」という気持ちになって。
──早くも次を作らなきゃというところに気持ちのスイッチが入ってしまった。
森ええ。それで作り出したんですけど、予算がなくて(笑)。
──気持ちだけが先走り。
森そうなんですよ。だけど、すでにレコーディングはスタートしていて。いろんなミュージシャンに手伝ってもらってスタジオに入って。気持ちだけは先走ってるんで、弦楽器も生の弦を入れたしてたんですよ。
──パッションで突っ走り出したら止まらないタイプなのですね。森さんは。
森完全にそうです。それで、気がついたら前作よりもどんどんどんどん豪華なっていってて。1曲「answer」っていう曲をレコーディングした時点で、アルバムの制作費が全部なくなりまして(笑)。
──ヤバイじゃないですか。
森そうしたら、先にみんなから注文を受けて作るというシステムがあるから、それでやってみたらということでクラウドファンディングというのを教えてもらったんですよ。でも、アーティストがお金のことを口にしたり文字にして発信するのって嫌やなという気持ちがあったんです。だけど、自分が作りたいものがあって、届けたい人たちがいて、これ持ってツアー廻りたいとか。こんなにやりたいことが明確にあるのに、ここで引いてどうすんねん、と。ゴールが見えてない人たちは「森 翼、クラウドファンディングやるようになったんや。嫌やな」って人もファンのなかにはいたと思う。けど、これを僕がちゃんと完成させて「これを届けに行きたかったからこういう手段を使いました。みんな協力してくれてありがとう」っていうのを音楽を通してライブで伝えていけたら、きっと「なるほどな。これを最初から想像できていたから怖がらずに森 翼はクラファンをやったんだな」と思ってもらえると思ってやりました。これも、昔の自分やったら怖くてできなかったと思います。
──森さんは、この2~3年で森さんはいろいろな転機を迎えている気がするのですが。
森はい。その間に畑も始めましたしね。
──それまでライブ活動しかやらなかった森さんが作品を作ったり、畑を始めたり、MIMIZUQというバンドに加入したり。森さんの人生、なにかあったのでしょうか?
森まず、それまでの僕は固定給をもらって事務所に所属してたんですよ。アーティスト契約ではなくて、僕は音楽をやりながら社員としてグッズを作る会社と契約して働いてたんですけど。コロナになったとき、その会社との契約が切れたんです。
──フリーランスになってしまったということ?
森はい。それで、さあどうしようとなって。コロナで歌いにもいけないんで、新しく歌える場所をまずは作らないとと思って、僕はスマホとか機械にうといんですけど2年前に配信を始めたんです。
──うとくてもまず動く。そういう行動力は森さんの武器ですよね。
森それで、配信を始めたら、観てくれた方が投げ銭をしてくれるようになった。そこで集まったお金で、いい配信機材を揃えていくというのを繰り返してたんです。いままではチケットを買ってくれた人が目の前にいて、僕は出演料をいただいて訳ですけど。配信だと目の前に人がいない状況のなか、まったく知らない人からお金をいただいたりすることもある。じゃあ、そのお金はすべてみんなに還元できるようにしようと思って。配信機材買ったり、畑も買ったんです。
──すいません、森さん。そこでなぜ畑が出てくるのですか?
森自分はもっと新しい畑に飛び込こんで刺激を受けたいという話をミュージシャン仲間としてて。じゃあ文字通り、新しい畑って言葉が出たから畑を買おうって。それで、次の日に都内にある畑を契約しに行きました。
──畑とか農作業の経験はあったのですか?
森ないですよ。初体験です。音楽やったら、曲が出来上がったものをみんなに聴いてもらう。畑でいうと、収穫したものしかみんなは見たことないんですよ。
──ええ、そうなりますね。
森けど、畑は毎日僕が水やりにいって、芽が出て。育ってきたら間引きしてとか。いろんなものがあって、うまくいったり失敗したりで、やっとやっと収穫できましたというその全部の工程をブログを通して発信してるんです。畑を通して、モノを作ってる人、クリエーターはみんなこうなんやでっていうのをもっとみなさんに知って欲しくて。
──それを、音楽とは離れた農作業を通してファンに伝えているのですね。
森ええ。それで、朝畑に行って水やりをしていたら、隣で野菜育ててるおじいちゃんと話をするようになって。普段会わないような人と普段会わない時間に会うのはすごい贅沢な時間やなと思ったんです。そう思ったら、まだ自分が生きてなかった世界が俺にはたくさんあるなと思って。自分は、みんなが「ほんまはこう思ってるんやけど」というのをシンガーソングライターとして吸い上げるというのがコンセプトとしてあるんですけど。
──いままではある一定の場所でしか吸い上げていなかったんじゃないかと。
森そうですね。音楽のなかだけで音楽し過ぎてたんだと思います。もっというと、音楽業界の中でしか音楽をやってなかった。やっと、引きで自分のことを見られるようになった。
──音楽の向き合い方も変わりました?
森音楽だけじゃないですね。このタイミングで人生も含めてガラッと変わりました。そして、このタイミングでいっぱい新しい挑戦をしたいなと思ってたときに、ツイッターでダイレクトメッセージが来たんです。seekさんから。もう二度見ですよ。そのときMIMIZUQはボーカル不在だったので、ゲストボーカルを招いてライブをしてるのは知ってたから、そのお誘いかなと思って見たら、正式メンバーとしてボーカルで加入して欲しいということを書いてあったんですよね。
──いきなりそんなメッセージが届いたら驚きますよね。
森まず、これをほんまに俺に送ってるのかな?と思いましたし。もしくは、一斉送信でめっちゃいろんな人に送ってるのかなとかいろいろ思って。それで、seekさんに電話させてもらったんですよ。そうしたら、その電話の対応、メールのやりとりがすっごい丁寧で、人間的にとてもできた人だなというのにびっくりして。お会いしたら、このバンドに対する熱い気持ちも聞けて。すごく印象的だったのが、僕が「どんなバンドをやっていきたいですか?」って聞いたら「終わらないバンドをやりたいんだ」といってたことなんです。それをいったときの間のとりかたとかも含め、この人がこれまでどれだけピュアに音楽をやってきたのかというのが分かって。僕は全然違うジャンルでヴィジュアル系とか分からないし、これこそまた違う畑ですけど、音楽が好きというのは一緒やから絶対大丈夫やなとそこで思って。楽曲を聴かせてもらったら、僕が入ったらもっとよくなるやろうなと思ったんで、加入を決めました。
──こんな人生の転機にMIMIZUQへのお誘いがくるとか、もうこれは運命だと思っちゃいますよね。
森そうなんです。