そうなんです。さかのぼると、2016年と2017年にJET SET BOYSで出して、2018年はSURFACEを再始動させながらソロアルバム、2019年と2020年にSURFACE、そして今回なので、6年連続でアルバムを出してます。地獄です(笑)。
その中で、個人名義とSURFACEとの線引きが大事になってくるんですね。SURFACEが解散してソロを始めたわけだから、今までの個人名義のアルバムはすべて、SURFACEがいないソロアルバム。でも今回は、SURFACEがいるソロアルバム。
初めてなんです。SURFACEはギタリストとのユニットなので、ギターを立てすぎると、「SURFACEでやれよ」ということが、ついに起きる時が来た。そこで、俺が今一番信頼している宮田'レフティ'リョウに相談したら、今はギターが立たないサウンドメイクが世界的にヒットしていると。たとえばBTSの曲を聴くと、ギターがほとんど鳴っていないわけです。だから二人で話して、K-POPぽかったり、アメリカで流行っていそうなサウンドだったり、音数が少ないサウンドを作ろうと決めて、作っていきました。
もともと『and』というタイトルをつけた理由も、新しいものと古いものが50%ずつ分かれているからなんですよ。去年デジタルリリースされた「KI?DO?AI?RAKU?」「DOUBT!!」と、「それだけ」「そんなに好きなら好きって言っちゃえば?」「GOOD GIRL」が既存の曲で、ファンはみんな知ってる。で、残りの半分が新しい曲で、今回のアルバムのために作っていった曲です。もともとのアルバム名が『SPLIT』で、「二つに隔てる」という意味から始まって、隔てるんじゃなくてくっつけようと思ったのが『and』です。今の時代のサウンドメイクで二つを混ぜ合わせた時に、1枚のアルバムとして完成されるのがテーマだったので、違和感なく聴かせられれば勝ちだし、お客さんがどう思うか?なんですけど、僕とレフティとしては、いいものができたと思っています。
ありますね。アメリカのヒット曲を聴いても、「こんな古いものが流行るのか」と思うこともあるじゃないですか。でも若い子は知らないんですよ。時代が1周2周回っているサウンドで、僕が「懐かしいな」と思っても、若い子にはそれが新しい。そこの温度差をどう埋めるのか、そこは僕には無理なので、レフティに任せました。
ドラムをどうしても生で録りたい曲が2曲あって、それだけスタジオレコーディングをして、あとはレフティが全部自分のスタジオで作っています。送られてきたオケを持って、ボーカルレコーディングだけはスタジオに行って、それをエンジニアが家に持ち帰ってミックスする。そのデータを確認して、直したいところがあれば直して、おしまい。コストパフォーマンスは、昔とはまったく違いますね。
SURFACEのセカンドが一番お金がかかっていて、〇千万とかだったと思うけど、今ならアルバム10枚作れますよ(笑)。時代は変わりますね。でも逆に、お金をかけたアルバムの作り方を知らない人は、かわいそうだなと思ってます。今の状況しか知らない人は、もしかして本物の音を知らないで作っているのかな?と。今はシミュレーターが流行っているから、「似た音」がいくらでも出せるけど、それだけで満足しちゃうのは怖いよなと思います。ドラムもギターもベースも、いろんな時代を経て変化してきて、マイクの立て方がこうなってとか、どんどん忘れられて、聴いてるリスナー側もそんなことはどうでもいいわけで、面白ければいいとなった時に、引き返せなくなるのかなと思うんですよ。
今は時代がそういう音を求めているけど、またいつかアナログの音が流行る時に、「どうやって録るんだっけ?」ということになったら困るじゃないですか。実際そういうことがすでにあって、ホーンセクションの録り方がわからないとか、バイオリンが録れないとか、そういうことが出てきている。
2,3曲入ってますね。それはエンジニアがわかっているからいいんですけど、わからない人もいる。すごい時代だなと思います。僕も今回、流行りの音というものをやりましたけど、こればかりやるのは嫌だなと思ってます。『and』がこうだったから次のアルバムもそうしよう、となるのかどうかは決められない。とりあえず1枚、SURFACEがいる世界線の中で初めて作ったアルバムとしては、正解だと思っていますけど。
ものすごいチャレンジでした。強気な言い方をさせてもらえば、「これで歌えるものなら歌ってみろ」というサウンドなので、「俺は歌ったぞ!」と言いたい。とんでもないですよ。何回か、レフティを殴ろうと思いましたから(笑)。音数も少ないし、歌のガイドも何もなくて、CDになってるアレンジのままで歌っているので。
この曲が、アルバムの中で一番わかりやすいと思ったんですね。リリックも前向きな応援歌というか、コロナ禍を経て、「それでも俺はもっと本物になりたい」というアーティストとしての思いを、恋愛のストーリーにして書いたので、すごくわかりやすい曲になったと思います。
これも時代だなと思ったんですよね。リリースされる前に試聴するというのはあったけど、歌詞だけ先に出して解説するというのは、面白い時代だなと思いながら書きましたけど、あそこに書いたやりとりを見ればわかる通り、作詞家の野口圭と二人で、ああいう会話をしながら作っていきました。でも二人とも、未だにメール以外の連絡先を知らないという。
小学校1年生からだから、38年です。ちょっと離れた時期もありましたけど、また戻ってきて、家族みたいなものですね。俺が何を考えているか、一番汲み取ってくれる奴だからこそ、「迷った時の野口圭」みたいな感じで使わせてもらってます。SURFACEで2枚のアルバムを作って、リリックを書きまくったあと、1年経たずして自分のアルバムを作ることになった時に、線引きができない気がしたんですよ。それで野口に話をして、「少し角度を変えたいから、一回預けるわ」と言って預けたら、「アイムリアル」が返ってきた。そこに俺が色付けをして、という形なので、野口がいなかったらこのリリックにはなっていない。作曲も、SURFACEと同じように俺が作ったら、同じ匂いになっちゃうので、山口寛雄を使うことによって、SURFACEとは違うものになる。そういう仲間がいて良かったです。しかも自分よりも実力のある奴が隣にいるのは、助かりました。「アイムリアル」はそういう作り方ですね。
そうですね。45歳にして、まだ「本物になりたい」と思っている。じゃあデビューしてからの23年は何だったんだ?ということにもなりますけど(笑)。25周年の時には「俺は本物になりました!」と言いたいです。あと2年待ってください(笑)。
そういうところ、あるんですよ。歌がうまいと言われても、「そんなことないです」と思っちゃうし、自信がないんでしょうね。ずっと不安だし、うぬぼれられない。それがリリックにも表れていると思うんですけど、逆に、俺が自信ありまくってる歌詞を書いたら、めちゃめちゃムカつきますよ(笑)。「俺は最高だ!」みたいな歌詞って、最低じゃないですか。だから俺はこのままでいいんだろうなと思ってます。アルバムを1枚出すごとに不安になって、「次はダメかな」と思う、その不安が本音に変わり、それが共鳴を呼ぶ。世の中の人はみんなそういうところを持っていて、みんな不安だし、それが僕の歌詞を身近なものに感じてもらえている理由だと思います。俺はこのまま、変わらずに行きますよ。でも本物になります、いつか。