2020年2月、ハナレグミが「2018 ツアー ど真ん中」以来、約1年半ぶりとなるワンマンライブ「THE MOMENT」を開催することが決定した。東京は2月7・8日NHKホール、大阪は2月23日オリックス劇場にて。これまでのワンマンライブとは趣向を変え、2月8日と2月23日には“STRINGS NIGHT”と称し、LITTLE CREATURESの鈴木正人率いるバンドに未央ストリングスを迎えた編成、そして、2月7日は“HORN NIGHT”と称し、東京スカパラダイスオーケストラをバンドに迎え、永積 崇自身は「とにかくシンガー&ボーカリストに徹する」のだというが……。
感動しすぎて歌えなくなったらどうしようかな(笑) でも、自分もそういう気持ちになりたくてこういうライブを企画しているんだと思うんです
──「THE MOMENT」を企画したきっかけから伺えますか。
永積 崇(以下、永積)この数年、ハナレグミはバンドセットで長めのツアーをやっていたんですけど、ボーカルだけに徹する客演みたいなことも多くあって。例えば東京スカパラダイスオーケストラ(以下、スカパラ)とかフィッシュマンズ、松本隆さんのイベントとか。もちろん、バンドでやるよさとか、同じバンドメンバーだから生まれるよさもあるんですが、自分がボーカルだけに徹したものもやってみたいなと。
──その要望が出てくるのはよくわかります。
永積ただね、タイミングがなくて。今年1月、レキシの横浜アリーナのライブに呼んでもらって、池田(貴史)くんとデュエットしたんですが、そこで、いよいよ「歌だけのスタイルでやりきってみたいな」という思いが出てきて。「来年、何か新作をリリースしたいな」という流れがある中で、その前に一度ワンマンライブをやろうかという話が出てきて、いつもと全く違うセットでやってみるのもおもしろいんじゃないかって。
──歌に徹する魅力ってなんでしょう?
永積ある種の開放感がありますよね。ギターを弾きながら歌うのは自分も大好きですし、作り上げたひとつの形があるんですけど、全身で歌える喜びというか。また形態は違いますけど、近年、近藤良平(コンドルズ)さんと体を動かしながら歌うパフォーマンスをやっていて、そういう中でも確認したことでもあるかな。例えば、スカパラとかフィッシュマンズで客演する場合は、心からリスペクトしているバンドとやりあえるというか、一緒に見たことのない景色、その高みまでいく感じがあったり、曲に献身するようなところもある。フィッシュマンズだったら、佐藤(伸治、故人)さんの作った曲に身を捧げるような。大げさかもしれないけど、そのくらい、大好きって気持ちだけで歌える、そういう感覚もすごくありますね。
──ここ数年、ご自身の歌に興味が湧いているとおっしゃっていますが、今回のストリングスもそうですし、編成によって自身の声の変化を感じて刺激があるわけですよね。それぞれで違ってくるものですか。
永積ああ、劇的に変わると思うんですよ。特に、ストリングスはそこまで経験が多くないし、ワンマンでというのは初めてなので、むしろどう変わるか、自分でもワクワクしているところなんですけど。感動しすぎて歌えなくなったらどうしようかな(笑)。でも、自分もそういう気持ちになりたくてこういうライブを企画しているんだと思うんですよね。レキシで歌ったときも、歌詞の内容はコミカルなんだけど、横浜アリーナでふたりでハモっている、その響きの具合に、すごくグッときちゃって。こういう高揚感に自分ももっと挑戦してみたいという欲が出たのかな。
スカパラのほうは肉体的に思いっきり、ストリングスは声とか響きというもののほうにアジャストしていくような時間になってくる
──さらに、今回は2つの全く異なるカラーのステージが用意されるわけで……。
永積そう。自分の中に、対(つい)のものがいつもあって。バンドで賑やかにやるのか弾き語りなのか、曲を作る上でも、詞の中でも……それはバランスをとるというより、どちらかに振り切れて出てきたエネルギーの中で生まれてくる気がするんですよね。ひとつのライブの中で、その両方を入れるということもやっていますが、今回は、あえてスカパラのほうは肉体的に思いっきりどーんと行って、ストリングスのセットはもっと声とか響きというもののほうにアジャストしていくような時間になってくるんじゃないかな。
──響きって、すごいレベルの話ですよね。
永積ハードルあげちゃったかな(笑)。ただ、普段のバンドセットでは響かせられない、空間ごとぐるっと景色を作るサウンドになると思うんですよ。そういう中で歌う醍醐味ってあって。ホール自体が楽器のようなところもあるし、ストリングスは特に、その場を反響させるために作られている楽器だと思うんですよね。声というのも同じで。その場をワーーンと鳴らす、鳴らし終えたあとの残響、そういうものも全部聴きながら演奏する楽器だから。そういう楽器と一緒に奏でる歌というのは、いつものバンドセットとは違ってくると思います。
──前作のアルバム「SHINJITERU」のインタビューでも、音にまとう「ひだ」みたいなものを大事にされている話を伺いましたが、そこともつながる感じはありますね。「生」だからこそ生まれる部分への興味というか。
永積そうですね。自分は、ずっと変わらずそこに確信を得るというか。「絶対いいよ!」って言える。今の、スマホで鳴らすようなエレクトリックの音楽はイヤホンで聴いていると夢のような空間で、そこにも共感できるんですが、僕はもっと生のすごさも知っている世代で。50-60年代のジュリー・ロンドンとかナット・キング・コールとか、ああいう時代の音楽が好きなのは、エレクトリックな音楽では再現できない深みがあるからだと思うんです。生の喜びは喜びであって「こんなにすごいんだよ」っていう感動の瞬間をオーディエンスと共有したいのかな。それに、今回のストリングスにしてもホーン隊にしても、生の楽器で作られたお皿の上で、自分がどういう歌を歌えるのかというは、とにかく楽しみで。それぞれの編成で自分の歌も確実に変わってくるので、そういう時間を一緒に遊べたらうれしいなと。
──とはいえ、2セットのライブを同じタイミングで実施するのは大変ですよね。
永積そうですね、全く違うライブになるので(笑)。でも、だからこそ楽しみですよ!