SKY-HIが12月12日、オリジナルアルバム『JAPRISON』をリリースした。前回のインタビューで、繰り返し語られた「New Vers」誕生が、今作の方向性を決定づけたことは間違いない。今回は、この曲が生まれた経緯をさらに深掘り。そこから今作はどのようにできあがっていったのか。さらに、2019年2月からフルバンドセットスタイルで開催するアルバムツアー<SKY-HI TOUR 2019 -The JAPRISON->にかける思いを、SKY-HIに語ってもらった。
「New Verse」で無理やり教壇から引きずり下ろせたから。俺は自分を。
──今回はアルバム『JAPRISON』の制作の方向性を決定づけた「New Verse」。あの曲を歌ったことでSKY-HIのなかに起こった変化を、もう少し具体的に聞いていこうと思います。
あそこで自分の弱い部分をさらけ出したら、すごく愛おしかったんです。その弱い部分が。それにびっくりしちゃったんですよね。自分の弱い部分っていうのは、ヒップホップ的美学にのっとって武器にするか。逆に〜みたいな形で。それはこれまで自分もやってきたし評判もよかった。もしくは、自虐的に笑いに変えるか。もしくは、愚痴っぽく酒の肴に変えていくとか。いろんな対処の仕方があると思うんだけど。自分はそこ(自分の弱さ)をちゃんと見てあげるということをどうやらしてなかったっぽくて。自分がどう人に見られるかって、いまの人はすごい考えると思うんですよ。TikTokも含め、承認型SNSが本当に多いから、芸能人とか関係なく、人にどう見られるかをみんな気にしてるけど。その分、いちばん見落としがちになるのが自分自身と向き合うことだと思ってはいて。俺は、割とそれはやってるなと思ってたんだけど、“弱さ”に関しては向き合ってなかったのかと「New Verse」歌った瞬間に気づいて。その弱さに気づいたら、愛おしすぎてね。
──愛おしいものですかね。弱さって。
人に弱さを見せられると、なんかキュンときてしまいません?
──ああー。ありますね。それ。
自分は、自分の弱さを見た瞬間、それはそれはで。そのときに、やっと「Marble」はあのままではダメだなと思って。「Marble」というのは人を愛する歌なんですけど。そういう道徳的に正しいことを綺麗なメロディーで綺麗に歌うと、教壇の上からになっちゃうんだなというのに気がつきまして。“先生”に正しいこといわれても、刺さんないじゃないですか?「New Verse」で無理やり教壇から引きずり下ろせたから。俺は自分を。そこが、このアルバムで本当に好きな部分なんですよ。
──ああー。そうだったんですね。
この曲のクレジットを見てもらうと“元・天才”っていうのが入ってるんだけど。これは“ぼくりり(ぼくのりりっくのぼうよみ)”なんですよ。自分の弱さをさらけ出すきっかけをくれたのがぼくりりだったから。
──ということは、今作のキーパーソンじゃないですか。いったいなにがあったんですか?彼と。
アイツは俺のことよく応援してくれるんですけど。アルバム開始ぐらい?「Blue Monday」しかできてない頃に、ぼくりりが曲聴いてくれていろいろ話をして。そのあと俺が家帰ったら電話してきたんすよ。“なんかダカヒー氏”。
──ダカヒー氏って(微笑)。
俺のことそういうんすよ。“ダカヒー氏、感情を表に出してないですね”っていわれたんです。いわれてみたら、ステージの上では自分でいるけれども、それ以外の時間、俺は調停役とか仲裁役とかばっかりやってきてて。自分を出す、ましてや感情を出すなんて本当にしてなかったかもしんないなと思って。これから次のSKY-HIのライブを作るぞってスタッフと集まっても、めちゃくちゃ号泣しながら自分が曲の話をするなんてことはないじゃないですか?大人だから。じゃあプライベートは?っていうと、こっちでもいい大人になっちゃって、感情むき出しで人と大喧嘩とか全然してねぇなと思って。そうしたらぼくりりが“ダカヒー氏、俺と口喧嘩しましょうよ”っていいだして。“いいよ!やろうやろう”って。
──それで、口喧嘩したんですか?(笑)
した(笑)。“ダカヒー氏のあの曲のあのラインって本当凡庸だし。別にメロに面白みもないし”ってことをガンガンにいってくるから、こっちもイライラしてきて“お前の曲だってサビで英語出てくるの、悪いJ-POPで逃げの英語だから”って。
──ぶはははっ(笑)。お互いそんなことをディスりあって。
それを電話でガンガンにやったから、電話きったあともムカムカして寝れないんすよね。で、その2日後ぐらいに「New Verse」書いたんだど。“これ出てきたのアイツのお陰かもしんないな”と思って。別になにかをしてくれた訳じゃないけど、たぶんアイツのお陰で俺はそこで教壇から下りれた気がする。
──その、教壇から下りることができたという表現、めちゃくちゃ腑に落ちますね。
分かります。俺も今日2〜3誌目のインタビューで出て以来、気に入って使ってます(笑顔)。でもね、本当そうなんですよ。前作のアルバム『OLIVE』も、あれはLIVEとLOVEで作られたアルバムで、生きることは愛することだということを歌ったものなんだけど。『OLIVE』もひょっとしたら教壇にいたのかもしれないなって。
──いままさに、自分もそう思ったんですよ。
思っちゃいました?うわー、恥ずかしい(苦笑)。
──SKY-HIが教壇から下りてるからこそ「New Verse」は否応無くリスナーに刺さるんですよね。
だから、大事にしようと思いました。
──このアルバムの後に『OLIVE』聴き返したら、正論すぎて、ひょっとしたら優等生感を感じちゃうかもしれないですね。
そうなの!正論で論理にほころびがないと、それは教壇の上なんですよね。だから、ほころびを恐れない勇気というか。ほころびをまんま見せちゃうことを俺はしてなかったかもしれないですね。
──でも、「New Verse」ではそこにたどりつけた。
世の中に自分をさらけ出したって言葉はたくさんあるけど、“アイドル崩れのJ-POP野郎”という歌詞書いた人はいんじゃないかな?
──そこのラインは“うわっ!”って誰もが思う部分だと思います。
ここはたしか最初のメモにもあって。そのメモも“J-POP野郎”ならなんか(韻を)踏めるだろうって思いながら残してるところがウケるんですよね。無我夢中でも。あとは、最後の2行でSKY-HIって名前をバースに入れたのはぼくりりがいったから。“そこまでいうんだったらSKY-HIがやってきたぜとかいっちゃえばいいじゃないですか”って冗談なのか本気なのかいってきて。これを入れたら俺が救われるなと思ったから入れた。助けられちゃいましたね。アイツのさりげない言葉に。
──その他にも元・天才がクレジットに表記されている曲がありましたけど。
「What a Wonderful World!!」でこっちのサビとこっちのサビ、どっちがいいかなとか。曲に関する話を直接したときは、Creative Partnerというクレジットで入れてますね。くっそ!なんでインタビューでアイツの話ばっかしてんだろう(笑)。もうすぐ死ぬのに(ぼくのりりっくのぼうよみのラストライブのタイトルは『通夜・葬式』)。
──まだ生きてますから(笑)。「New Verse」が生まれたことで、アルバムの方向性もガラッと変わったんですか?
これができるまでは核心に迫った曲がかけなくて。「Blue Monday」ができて、「White Lily」ができて、「Role Playing Soldier」ができて。曲はできるけど、どうすっかなっていってるときに口喧嘩を挟んで「New Verse」にたどり着き。そこで大きく制作の方向性が変わりました。なんで俺が『JAPRISON』というタイトルにしたのかもハッキリしたんですよ。そこで、檻を抜け出せるなって思いました。そこから「New Verse」で弱さを出すなら、その前に虚勢を書かなきゃいけないなと思って「Persona」と「Doppelgänger」の後半ができて。「Shed Luster pt.2」で虚勢がちゃんと地に足をつけた強さを書ければいけるなと思ったところで6〜10曲目までがつながったんですよ。よし、あとは1、2曲目だけだと思って書いたら、サービス精神が足りないことに気づき。みんなが大好きなSEXの歌を書こうと思って、最後の最後に4曲目の。
──「23:59」を突っ込んだ、と。
でも、性愛の歌は入れたかったんですよ。自分が他の人と向き合ってコンプレックスを感じたり、自信を持ったりするのは性愛だという気がするから。そういう気持ちが半分。あとは、こういうの入れとかないとポップになんないかなと思って。高校生ぐらいの女の子が聴いて、こっそり“きゃーっ”てなるぐらいのものがここら辺に入ってないと。
──重厚さがもっと出ちゃってたでしょうからね。
後半が重たくなるのは分かってたから。
──だから、あえて「Blue Monday」なんかは曲調だけでも陽気なカリビアンなトラックにしてみた。
そう。ここからどんどん重苦しくなっていくのは分かってたから、そこまではエンタテインメントしようと思って。