梅雨入り近い東京の空は、曇天だが雨の心配は無し。21年目の晴れ舞台に天も味方し、THEイナズマ戦隊、初の日比谷野外大音楽堂ワンマンライブがいよいよ始まる。大入盛況、気合満点、総立ちの拍手に迎えられメンバーが位置につく。上中丈弥が手をかざして客席を見渡し、「よく来たなー」と言わんばかりに笑みを浮かべる。2018年5月26日午後5時30分、待ちに待った宴の始まりだ。
オープニングから「バカ者よ大志を抱け」「ドカン行進曲」「情熱の風」と、ライブで鍛え上げた代表曲の大盤振る舞いだ。山田武郎が最前線に飛び出してリードギターを弾きまくる。久保裕行のドカドカうるさいドラムと、中田俊哉のよく弾む重低音ベースが熱風のごとく吹き寄せる。洒落た黒ジャケットに身を包んだ4人は、いつものおもしろキャラは控えめに、大人のロックのかっこよさを前面に打ち出して一気に走る。
「THEイナズマ戦隊の野音へようこそ!20周年ありがとう。21周年、始めるよ!」
とにかくノンストップで歌いまくり演奏しまくり、イナ戦のこういうスタイルはあまり見たことがない。やはり今日は特別な日だ。直球勝負のバンドに対し、オーディエンスも全力のダンス、ジャンプ、ワイパーで応える。「Ban & An ~バカ万歳アホ万歳~」では丈弥がハーモニカを吹き、武郎、俊哉、久保が豪快なソロで見せ場を作った。このままだと1時間ぐらいで終わってしまいそうな、ものすごいスピード感だ。
「せっかくの20周年、懐かしい歌やっていいですか」
曲は「雨上がり」。2004年のシングル「パーダラ・ブギ~後悔するにゃ若すぎる~」のカップリングだったいわば地味な出自だが、聴けば聴くほどいい曲だ。斜め前方にタオルでそっと目元をぬぐう女性が見える隠れた名曲をいくつ持っているか、バンドの底力がわかるいいシーンだ。軽快ロックチューン「涙の青春」からいかしたスローバラード「男のサイン」へ、イケイケだけじゃない、じっくり聴かせるタイプの曲もイナ戦の十八番だ。
「何ひとつ恩返しできてないけど、これからも続けていきます。死ぬまで歌おう、THEイナズマ戦隊続けよう!」
ここでサプライズ・ゲスト、桐谷健太がステージに現れ場内騒然、拍手喝采、熱烈歓迎の大フィーバー状態へ。曲は2013年の両者のコラボ曲「喜びの歌」で、桐谷の堂々たるロックシンガー振りが素晴らしい。「イナ戦最高!」と叫びながら歌いまくる、桐谷はここにいるファンの代表だ。一転して泣けるロックバラード「愛じゃないか」へと、聴き手の感情を大きく揺さぶりながらぐいぐい引き込む。これが21年目のライブバンドの実力だ。
「1000本ぐらいライブやってるけど、こんな景色があったんや。連れてきてくれてありがとう」
この日初めての長いMCで、丈弥の言葉に飾りはひとつもなかった。これが20年間積み重ねてきた自分たちの証。この4人で武道館を目指す。紅白も目指す。夢が叶わない気がしない。みなさんの愛を背負って立つバンドになりたい。「引き続き我々の夢の続きにお付き合いください」。続けて歌った「各駅停車」の、自伝とも言える歌詞がいちいち胸に沁みた。ミディアムスロー「OLD ROOKIES」の、いつまでも夢を追う男の浪漫が心をざわつかせた。オールドルーキーズ。オマエもそうかい?やってやろうぜ。
俊哉がなぜか尿管結石について熱く語っている。武郎が誠実にファンへの感謝を述べる。久保が几帳面に、今日5月26日はイナ戦の上京記念日で、ライブは977回目で、これまで出した楽曲は193曲だと話す。おのおのの個性丸出しMCを受け、ライブはいよいよ終盤へ。2003年2月リリースの「月に吠えろ」を歌う4人を、下手の空高く上がった月が見下ろしている。日はすっかり落ち、ステージライトがまばゆく輝く。強烈なストロボがいやが上にも興奮を煽る。ムードは最高潮だ。
「オマエ・がむしゃら・はい・ジャンプ」「泥だらけでいいや」、そして「33歳」へ、感情曲線が急角度にエモさを増してゆく。「33歳」はご存知の通り、若くして亡くなった丈弥の父親に捧げた渾身の愛の歌だ。この歌が大切な人に届くように。♪ラララの大合唱に声を合わせながら、泣いている大人が何人もいる。歌い終わった丈弥が「届いたねこれは」とつぶやく。場面はついにクライマックス、ラストを飾るのはこの曲しかない。「ずっと信じてくれた人たちのために歌います」。イナ戦の永遠の象徴と言える名曲「応援歌」は、もう何度も聴いた中でも最高の「応援歌」だった。ソーレ!の掛け声で野音が一つになる。この美しい光景こそ、イナ戦が積み重ねてきた歴史の証だ。
アンコール。バンドの再登場を待つ客席には、ファンが準備した、「ありがとう」と書かれたロゴ入りの旗がたくさん掲げられた。野音のためのテーマ曲「そして夜空に浮かぶ月のように」を思い入れたっぷりに歌い上げ、ピカピカの新曲「あぁ、バラ色の日々」をお披露目し、最後は明るく楽しく「合言葉〜シャララ〜」で締めくくる。これで終わっても大満足だ。が、この日は夢の続きがまだあった。
ダブルアンコールはなんと客席中央、センターステージでのアコースティックセット。18歳の時にスタジオに初めて入った時の雰囲気を再現すると言い、照明もなければ音響もない、マイク1本を囲んでほぼ生音で演奏した「ラブレター フロム 俺」。その感動を、何と表現すればいいだろう。「素晴らしい景色をありがとう」と、溢れんばかりの思いを胸に、360度に向けて歌を届ける丈弥。そっと寄り添う武郎、俊哉、久保。耳を澄まして聴き入るオーディエンス。一幅の美しい絵のような名シーンを残し、THEイナズマ戦隊、初の野音ライブは幕を下ろした。
バンドは9月に野音のDVDと新曲のCDリリース、その後は二年越しのロングツアー、そして来年4月には中野サンプラザ公演へと挑む。武道館を次の目的地に設定し、イナ戦はもう走り始めている。今度の旅もきっと長い各駅停車だろう。が、これまでもそうしてきたように、きっと彼らは夢にたどり着くだろう。俺がお前でお前が俺で、夢を叶えるために応援しあう日々に終わりはない。だから僕らはTHEイナズマ戦隊を応援することをやめられないのだ。