Round A Ground 2017
2017年10月27日(金) 横浜Bay Hall
TEXT:兵庫慎司
PHOTO:東美樹
SKY-HIが昨年初めて行った、ライブハウスをくまなく回るツアー『Round A Ground』の2017年版。全部で25本。10月11日帯広からスタート、12月11・12日東京豊洲PIT2デイズで終わるスケジュールで、その間に上海・台湾・香港・ロサンゼルス・ニューヨーク・パリ・ロンドンでの公演も入る。
この10月27日横浜Bay Hallは、帯広・札幌・上海・台湾・香港・柏に続く7本目。ツアーに先駆けて発売になった配信限定シングル『Marble』収録の新曲2曲(「Marble」と「Bitter Dream」)も、「Double Down」「Silly Game」等々の最近のシングルも、「愛ブルーム」等々のメジャー・デビュー時期の曲もプレイされるセットリストだった。
バンドもダンサーもなし、DJ Jr.とふたりだけのステージ。ピアノを弾きながら歌う曲あり、ギターを持つ曲もあり。
衣装は黒一色のダブッとしたフォルム。「部屋着」。このライブハウス・ツアーは自分が部屋で音楽を作っている時の温度感で行っている、だからお客さんを部屋に招待しているつもりだし、着ているのも部屋着なのだ、ということが、途中のMCで説明される。本当に部屋着なのかどうかはわからないが、確かにステージとフロアの距離感がとても近い、親密な空気のステージだった。
この日のライブ、最初に出たゲスト・アクトは、Ryofuが参加し今年2017年に本格始動したバンド、Aun beatzだったのだが(SKY-HI、そのことを音楽ナタリーで知って出演をオファーしたそうです)、後半では、SKY-HIとDJ Jr.に、そのAun beatzの5人も加わり、RyofuとSKY-HIのふたりでたっぷりフリースタイルを聴かせてくれる、というサプライズもあった。
それから。
セットリストのどのへんでやったかは書かないでおくが、「Marble」を聴きながら、「ああ、これ、本当に意味があることだなあ」と、改めて、つくづく、思った。
自分と違う意見や違う価値観を認めない、多様性を否定する声ばかりが強く大きくなる、現在がそういう世の中であることへの危機感を、平易な言葉と親しみやすいメロディで、美しく、かつポジティヴに(←ここ大事)表したのが「Marble」という曲であるわけだが、たとえばそれ、僕に対してはべつに届けなくていいっちゃ届けなくていいものだと思う。その危機感、かなり以前から感じながら、日々暮らしているので。
で、SKY-HIも、そこに届けたくて書いたのではないと思う。それよりも、今ここで、800くらいのキャパでSKY-HIを観ることができて「かっけえ!」って興奮している10代男子や、「キャー!」って熱狂している20代前半女子に届けてこそ意味がある、そういうものとして位置付けていると思う。
「Marble」に限ったことではなくて、SKY-HIの曲すべてがそうだ、と言ってもいいかもしれない。「わかるわかる」と共感し合ってもらうことを、目指していない。いや、共感も大事だけど、そこが目的地ではない。そのさらに向こうにいる人たちに「知らせる」「届ける」「気づかせる」ことができて、初めてその音楽が成就する、というような。
だからポップじゃなきゃいけないし、敷居が低くなきゃいけないし、それこそ見た目とかもかっこよくなきゃいけないし、ただし異次元の生き物みたいにぶっとんだかっこよさではいけないし……という話だ。
わかりやすく言うと、たとえば話題になったあの「キョウボウザイ」だって、ハードコア・ヒップホップの人がやるよりもSKY-HIのようなキャラクターの人がやった方が、あきらかに威力がでかいし。ということまで含めて、そもそも自分のキャラクターを定義しているところもある気がするし。
この『Round A Ground 2017』のような、(SKY-HIとしては)小キャパのライブハウス・ツアーのチケットを入手して集まるのはコアなファンだろうし、本来はもっと、わかってくれている人に向けたライブになっても不思議はないと思う。というか、それで全然いいと思う。
しかし、少なくともこの横浜Bay Hallは、そういうショーではなかった。オーディエンスとの距離の近さを活かした、最初に書いた「自分の部屋にご招待」的な、親密でフレンドリーな空気で進んで行くステージだったが、「わかってくれていること」に寄りかかっている瞬間は片時もなかった。その上でさらに伝えたいこと、新しく届けたいことに、音楽がまっしぐらに向かっている、終始そんな時間だった。
「現実逃避のライブじゃなくて、現実が夢を超える瞬間を感じられるライブにしたい」というようなことを、後半のMCで言っていた。まさにそういうライブだった。
正しくヒップホップだと思う。で、正しくロックだと思う……いや、違うか。ロックって必ずしもそういうものだとは限らないか。でも、僕がこうあってくれるとうれしいと思うロックは、こういうものであることは確かだ。