2016年5月7日(土)神奈川県民ホール 大ホール
SHISHAMOワンマンツアー2016春「少女たちが恋心に気づいたのは、宇宙からの旅がえり」
REPORT:兵庫慎司
PHOTO:柴田恵理
ニューアルバム『SHISHAMO 3』のリリースツアーで、SHISHAMO初のホールツアー、全11本の9本目。4月9日に川口総合文化センターからスタートし、神戸、広島、茨城の結城市、千葉の市原市、高松、金沢、名古屋、仙台と回ってきて、福岡で締めくくられるその2本前がこの神奈川県民ホール。
初のホールツアーに伴い、新たな挑戦も。「宇宙編」と「地球編」の2部構成という演出や、ステージにも本格的なセットが配されたコンセプトライブ。SHISHAMOが宇宙デビューを果たし、惑星を回るツアーに出るが、最後に彼女たちの乗ったロケットが軌道を外れ、不時着した星でライブを行うことになる、そのライブが「宇宙編」である、という設定で、3人の衣裳がちょっと宇宙服っぽいツナギだったり、ステージセットにロケットや岩(月面とかにあるゴツゴツしたやつ)などがあしらわれている。
その宇宙を旅する動力は、お客さんがライブで放つエネルギー、だからみんな盛り上がってくださいね、という設定。で、「宇宙編」の後半でエネルギーを集め、その力で地球に帰ってこれました、ということでその凱旋ライブが「地球編」、というわけです。
この設定は、SHISHAMOの公式YouTubeチャンネルでおなじみの、3人が出てくるイラストアニメで説明される。で、地球に戻ってきたところで映像が実写になり、3人が横浜中華街や山下公園を走り抜けて神奈川県民ホールにたどり着き、2部の「地球編」が始まる、という演出だった。
以下、この日のこと、いくつか箇条書きにします。
・高校生、大学生、専門学校生くらいの年齢層がもっとも多いが(ってなぜ断言できるのかというと毎回MCで3人がお客さんたちに問うから)、親に連れられた小さな子もいるし、だから親世代もいるし、もっと上もいて幅広い上に、男女比が驚くほど均等。この年齡のこのキャリアのバンドでここまで均等なの、めずらしいのではないかと思う。
で、そのオーディエンスがとにかく熱狂的。興奮しすぎてどうにかなっちゃうんじゃないか、というくらいの中学生女子とかも見受けられて、飄々とユルユルとMCをしているステージ上の3人のたたずまいとのギャップがおもしろかった。
・選曲について。『SHISHAMO 3』収録の11曲は全曲。あと『SHISHAMO 2』から6曲、『SHISHAMO 1』から5曲、さらに例のグッズの「曲付きマフラータオル」で音源を入手できるライブ定番曲「タオル」、という選曲。アンコールはなし。なお、「タオル」は、「宇宙編」の9曲目で、壊れたロケットが直せなくて地球に帰れない、3人の足についているフットブースターで地球に向かいたいが燃料がない、みんなタオル回しまくってエネルギーをください!ということで、プレイされました。客席一面に、タオル、小さく高速で回りまくってました(テンポが速い曲なので)。
・ 「地球編」のMCで、SHISHAMOは川崎市内の高校で結成されたバンドなので、ここ神奈川は地元である、そこで、こんな大きな会場で、満員のお客さんの前でライブがやれることがとてもうれしい、と感謝の言葉を述べる。
・そして曲そのもの、演奏そのもの、パフォーマンスそのもの。
すばらしかった。ラストにやった「みんなのうた」(打ち込みのホーンを使った)以外は、ギター・ベース・ドラムのシンプルな編成で、しかも音を厚くしていくのではなく、「本当に必要じゃないことはやらない」みたいな方向性のアレンジで、ていねいに繊細に、でも時に豪快だったりワイルドだったりもしつつ、1曲1曲を伝えていく。CDとアレンジを変えたり、違うアプローチをしていたりするわけではないのに、CDよりもライブの方がいい、という理想的な響き方をどの曲もしている。
そもそも、もともと曲が異常にいい、自在で自由で豊かで美しいメロディがまずすばらしいし、自身を切り売りするのではなく(たまにするけど)俯瞰の視点で10代中盤から20代中盤あたりまでならではの感情や思いや考えを絶妙に切り取っていく歌詞もすばらしい──ということは、今らさらここで言うまでもないし、最初からそんな名曲たちを引っさげて登場したバンドだし、だからこそあっという間に日本武道館をソールドアウトさせるバンドになったわけだが、曲を生めば生むほど今なお右肩上がりによくなり続けていることが、11曲すべてがプレイされた『SHISHAMO 3』の曲たちを、こうしてライブで聴くと、改めてよくわかった。
オープニングの「手のひらの宇宙」と「中庭の少女たち」の軽やかな連打。「推定移動距離」「笑顔のとなり」で描かれるせつなく切実な思い。「ごめんね、恋心」のユーモラスなリアルさ。「熱帯夜」の聴き手を鬼のように感情移入させる吸引力。「女ごころ」の聴くたびに「うわ、これ歌にするか?」と言いたくなるエグさ。「旅がえり」の「この設定でここまでのものが書けるソングライター、ほかにいるか?」と誰彼かまわず問いただしたくなる圧倒的なクオリティ。「生きるガール」と「君とゲレンデ」のライブ・アンセムっぷり。そして、なぜこの曲がラストでなければならないのかが誰の耳にもあきらかな、おそらく「自身切り売り方面」の名曲、「みんなのうた」。
どれも、なんかもう、「よかった」を超えて「すごかった」。
なお、この日のライブがブルーレイになることと(「なるんじゃないかなあ。してほしい?DVD?じゃあブルーレイにするわ」みたいな言い方でした)、7月16日(土)・17日(日)に日比谷野外大音楽堂で「SHISHAMO NO YAON!!! 2016」2デイズを行うことが、ステージで発表された。日比谷野音は「夜空編」「青空編」と題して、1日目は18:00開演、2日目は14:30開演で行うそうです。チケット瞬殺必至、お急ぎください。