2016年3月31日(木)日本武道館
Report:兵庫慎司
1月13日にリリースされたメジャー2ndアルバム『両成敗』のリリース・ツアーの東京公演、日本武道館2デイズの2日目。
下のセットリストのとおり、全24曲、『両成敗』収録の全17曲をすべてプレイ。本編はMCが入ることも曲間が空くこともなし、たまにはさまる映像を除くと18曲ノンストップ。「id1」では休日課長とゲスト=Nabowaの景山奏がふたりでアコースティック・ギターを弾き、川谷絵音が歌い、ほな・いこか&ちゃんMARI&オカシラ&えつこがコーラスをつけたり、「いけないダンス」ではオカシラがバイオリン、えつこと絵音が鍵盤を弾いたり、というようなバリエーション・ポイントもあったが、音楽以外の何かにそれる時間はない。
脱線感も余興感もゼロ、ただひたすらに楽曲を次々と連射していく、ストイックというかアスリートのようなステージングで、スタンドの斜め後方までびっしり入ったオーディエンスを、熱狂させ続けた時間だった。
そう、今「熱狂させ続けた」と書いたが、そのストイックなステージに対するオーディエンスの反応、まさに熱狂以外の何ものでもなかった。先行シングルになった曲はもちろん、それ以外のアルバム収録曲に関しても、イントロが始まるたびに大歓声が湧く。で、歌う歌う、身体を揺らす揺らす、踊る踊る。出たばかりのアルバムの曲たちを、自分の肉体の一部になるくらい聴き込んでからこのライブに臨んでいるんだなあ、ということが、反応を見ているだけでわかるレベル。
この光景を見ていると、ゲスの極み乙女。って、リスナーの耳や感性を進化させているんだなあ、ということを改めて痛感させられる。誰もが指摘していることなので今さら書くのもナンだが、ゲスの極み乙女。の音楽そのものは、いわゆる「わかりやすい!」「キャッチー!」「とっつきやすい!」みたいなものではない。「何このアレンジ!?」「何この演奏!?」「何この曲展開!?」みたいな、日本のロック/ポップスのセオリーには収まらない、意外性に満ちた、ラジカルで、ある種アクロバティックとさえ言っていいものだ。メロディがきれいでわかりやすいから、そこがとっかかりになっているのかもしれないが……いや、違うな。確かにいいメロディだけど、あれもいわゆる日本のロック/ポップスの既存のフォーマットに沿ったメロディではないし。
要は、このバンドが成功し続けていくことが、イコール、音楽の可能性を広げ続けていることとイコールだ、という話だ。とまで言うと大げさか。いや、大げさじゃないな、やっぱり。以前、僕の友達の息子(高2)がバンドでゲスの曲をコピーしていて、「ゲスやんの?そんな難しいのやんなくても!」と驚いたことがある。案の定ちゃんと演奏できていなかったが、気迫は伝わってくる演奏だった。ちょっと楽器やってればあれが難しいか簡単かくらいはわかる、それでもやりたくなる、ってことなんだろうなあ、と思った。
なお、アンコールではMCを解禁、ファンにお礼の言葉を述べたり、ちゃんMARIがアリーナ・1階・2階と分けて「コポゥ!」コール&レスポンスを求めたり、絵音が大学時代に休日課長と出会った頃の話をしたりして場をなごませる。
そこから突入した「続けざまの両成敗」の間奏では、ステージ上手に設置されたスタンド付きのギターに4人が集まり、四重奏を披露。
時にキーボードを弾きながら、時にギターを奏でながら、時にハンドマイクでフロントに出てオーディエンスをあおりながら、このライブを全力で駆け抜けた川谷絵音は、二度目のアンコールで「餅ガール」と「キラーボール」を歌う前、「俺は死ぬまで歌うからな!」と叫んだ。楽しさや興奮や歓喜以外にも、本当にいろんなものをこちらに残してくれたライブだった。