「FLARE TOUR 2025」
2025年4月5日(土)Spotify O-EAST
ライブに足を運び、終演後もしばらく余韻に浸ったという体験をした人は少なくないだろう。その満足感の要因には、観客自身の心が激しく揺さぶられる、普段の生活で無意識のうちに抑制している様々な喜怒哀楽が解放されることが密接に関係していると思う。koboreの5th Album『FLARE』リリースツアー「FLARE TOUR 2025」のファイナルは、まさにそういう没入感や突破力に溢れていた。12本のツーマン、8本のワンマンを経て東京へと舞い戻った4人は、渋谷Spotify O-EASTに大きな感情の波を呼び起こした。
スーパーカーの「STORYWRITER」をSEにメンバーが登場すると、冒頭から「熱狂」「エール!」「リバイブレーション」「Don’t cry anymore」とアッパーな楽曲をたたみかける。爽快感に満ちた迷いのない音色に触発され、観客は高らかな歓声を上げた。佐藤 赳(Vo/Gt)は「すっごい景色!泣きそうになる」と笑顔を見せ、「回ってきたツアーと同じぶん、俺たちの“最高”を返したいと思います」と続けるとMCからそのまま「ためいき」へとつなぐ。その後も「夜を抜け出して」「スーパーソニック」とロマンチシズムを感じさせるロックナンバーを立て続けに披露した。
koboreはライブハウスで培ったロックバンドとしての説得力やバンドマンシップだけでなく、日本に根付く歌謡曲的な歌心、音楽家や演奏者としての矜持、音楽を愛する人間ならではの好奇心も兼ね備えている。今ツアーのゲストバンドを筆頭に、様々なジャンルや世代のバンドとの競演が実現できるのはその素養も影響しているだろう。自身のポリシーを貫く自我の強さや上昇志向だけでなく、人懐っこさを併せ持つという天性のバランス感覚はこのバンドのオリジナリティにも直結している。
佐藤は歌と言葉を巧みに織り交ぜてフロントマンとしてバンドを牽引し、安藤太一(Gt)はギターとコーラスで楽曲を鮮やかに彩る。田中そら(Ba)はギミックの効いたプレイはもとよりソングライターとしてもkoboreに様々な側面を作り、伊藤克起(Dr)のプレイも迫力あるビートを打ち鳴らすだけでなく随所に細やかなフレーズを織り交ぜるなど、4人それぞれが楽曲や演奏に対して自身の音楽欲求を素直にさらけ出している。だからこそ、彼らの音楽には大空のような強さや朗らかさ、包容力や頼もしさが生まれるのではないだろうか。
今回のツアーについて「ずっと終わってほしいと思ってた。でもライブをやるたびに“これが一生続けばいい”と思った」と苦痛と幸福がない交ぜになっていたことを明かした佐藤は「しんどかったけどみんなのおかげで頑張れたし、最高の思い出になった」「みんなに(ステージからの景色を)ここに立って見てほしい。こんな景色、人生で何回見られるんだろうな。すげえ大事にするよ」と悲喜こもごもな笑顔を見せる。あらためて感謝を告げ「TONIGHT」を歌い出すと、観客も思いを返すように歌声を重ねた。
「ティーンエイジグラフィティー」「メリーゴーランド」で高揚感を作り出すと、「パノラマガール」はポップでありながらもどこか一抹の切なさを感じさせるサウンドで聴き手の心を揺さぶる。すると佐藤は音楽を続けるなかで、別れが理由で心に空いた穴はそれでしか埋まらない、代わりなどないことに気づいたと話し「今日ここにお前がいなくても俺は歌っていたかもしれない。でも俺にとっては誰かひとりが欠けていたら今日が出来上がらなかった」「そこにいてくれて本当にどうもありがとう」と再度訴え、「ドーナツ」を歌い出した。歌詞に書かれた“ぽっかり空いた穴”への悲しみと感謝が切々と伝わる。続いての「36.5」も真摯な歌と演奏が心の奥までじっくりと響き渡り、痛みがぬくもりをもたらすような感覚に包まれた。
「俺たちが求めているのは再生回数やいいねやフォロワーの数じゃない、このツアーを観に来てくれた仲間だ」「死にたいくらい幸せな毎日をありがとう」と佐藤は再び礼を言う。そして「リボーン」「パーフェクトブルー」「突然閃光少年少女」「君にとって」と4人とも充実感に富んだ表情で集中力の通った演奏を展開する。なかでも佐藤は切実に願うように歌い、そのたびに感極まった様子を見せていた。「爆音の鳴る場所で」ではフロアに乗り出し、観客の手を握る。すべての気力と体力を使い果たすように歌う姿には、音楽に人生を捧げた人間ならではのしなやかさが生まれていた。
バンドマンとしての美学と目の前の“君”への飾らない思いを綴った「STRAIGHT SONG」、バンド活動の長さに比例して説得力が増し続ける初期曲「幸せ」、佐藤の呼びかけで観客同士が肩を組んでシンガロングし、4人の心と会場がしっかりと呼応した「この夜を抱きしめて」と立て続けにクライマックスを展開すると、佐藤は「言葉にならない」と感動をあらわにする。そして「koboreには言葉の代わりに音楽がある。俺たちの音楽がお前と会話をしてるはず」「曲の中にkoboreのことは想像しないでほしい。ずっと自分だけを映してあげてください」と続け、本編のラストに「BABY」を届けた。4人の熱と感情がそのまま音楽になったと感じるほどの純度の高い演奏と歌声は、目から涙が零れる瞬間を目の当たりにするようだった。
アンコールでは佐藤が「俺の夢がひとつ叶うんだけど」と前置きし、初のホール公演「kobore HALL ONEMAN 〜ヨルノカタスミ〜」を彼らの地元・府中にある府中の森芸術劇場で開催することを発表する。サブタイトルはkoboreの代表曲かつインディーズ時代に行っていた自主企画のタイトルであることに触れると「(地元のホールでライブが)やれるなんて思ってもみなかった。ここまで連れてきてくれて本当に感謝してる。言葉にならない」と感慨に浸り、頭を下げた。
「ヨルノカタスミ」をじっくり聴き手の心に焼き付けるように演奏すると、そのまま伊藤がドラムでつなぎ、観客もそのビートに合わせてクラップを鳴らす。佐藤がギターを置いてハンドマイクスタイルになり、「ファイナルだからって特別なことはやらない。いつもどおりやります」とコール&レスポンスから「愛が足りない」になだれ込んだ。自由でのびのびとした演奏、伊藤のダイナミックなドラムソロ、観客の華やかなシンガロング、佐藤がフロアに飛び込み喉を嗄らして歌う姿、観客から受け取ったエネルギーをすべて音楽に注ぐ4人の気概、すべてが美しい。
「短いツアーだったけど、いろんなところに行っていろんな人の優しさに触れたよ。そしたらいつの間にかこんなに大きなものになって返ってきた。これが愛じゃないならなんと呼ぶんだよ」「死にたくなるほど幸せな毎日だったよ」と叫ぶ佐藤に、観客も歌声を届ける。最後は佐藤もギターを持ち、4人は思い思いに音を鳴らす。メンバー全員が等しいパワーを発することでkoboreの音楽が構築されることをあらためて実感する、すがすがしい爆音だった。
これまでの軌跡と音楽への絶え間ない欲求、リスナーへの感謝の念、10年間を共にした4人だからこその自立と結束、すべてが風通し良く鳴り響いたツアーファイナル。『FLARE』の多彩な楽曲たちが、彼らを新たなフェーズへと連れ出したのだろう。自分たちの美学に忠実であり、自分たちの音楽を愛する人たちへと誠実に向き合うkoboreは、結成10周年を迎える今年、その祝祭感を追い風にこれまでにないほどに加速、飛躍するのではないだろうか。そんな期待をしてしまうほどに、この日の彼らのステージは爽やかな緊張感と澄み渡る情熱しか存在していなかった。
SET LIST
01.熱狂
02.エール!
03.リバイブレーション
04. Don’t cry anymore
05.ためいき
06.夜を抜け出して
07.スーパーソニック
08. TONIGHT
09.ティーンエイジグラフィティー
10. メリーゴーランド
11.パノラマガール
12.ドーナツ
13. 36.5
14.リボーン
15.パーフェクトブルー
16.突然閃光少年少女
17.君にとって
18.爆音の鳴る場所で
19. STRAIGHT SONG
20.幸せ
21.この夜を抱きしめて
22.BABY
ENCORE
En01.ヨルノカタスミ
En02.愛が足りない
プレイリストを公開中
≫ https://kobore.lnk.to/FLARETOUR2025