和楽器バンド Japan Tour 2024 THANKS ~八奏ノ音~
2024年11月23日(土・祝)LINE CUBE SHIBUYA[渋谷公会堂]
和楽器バンドの活動休止前ラストツアー「和楽器バンド Japan Tour 2024 THANKS 〜八奏ノ音〜」が、東京・LINE CUBE SHIBUYA公演にて幕を開けた。ツアー初日の11月22日公演は、平日でありながらもチケットがソールドアウトし、多くの観客が詰めかける。和楽器バンドの8人も観客の熱い思いに応えるように、持ちうる得意技をすべて捧げるような、頭から最後まで圧巻かつエンターテインメント性に富んだライブを作り上げた。
定刻どおりに会場が暗転して鮮烈な映像とともに「Overture〜八奏ノ音〜」が流れると、メンバー8人が登場。黒流(和太鼓)の「和楽器バンドのライブへようこそ! 初日いくぞ!」という景気のいい掛け声を合図に、盛大にライブをスタートさせた。
最新アルバム『ALL TIME BEST ALBUM THANKS 〜八奏ノ音〜』のリリースツアーともあり、同ベストアルバムに収録された楽曲を中心に、オリジナル楽曲やVOCALOID楽曲「千本桜」のカバーなど、メジャーデビューしてからの10年間を詰め込んだセットリストを届ける。普段より公演時間も長く、鈴華ゆう子(Vo)の「とにかくたっぷりお届けするので、わたしたちのエネルギーに負けないでください」という発言からも気合い充分といった様子だ。さらには「(今回のツアーには)日替わり曲があるから、もう次の公演では演奏しない曲がある」など全公演でセットリストが変わることを示唆し、1本1本のライブに懸ける思いを表明する。まさにアルバムやツアーのタイトル通り、10年分の感謝を音楽とステージにして届けていることがうかがえた。
ボリュームたっぷりのライブを観ていて、あらためて和楽器バンドが奏者としてもステージに立つ人間としても秀でていることを再確認した。鈴華は正確さと躍動感を兼ね備えたボーカルはもちろんのこと、扇子や和傘などを使って優雅なパフォーマンスを見せる。黒流と山葵(Dr)は時折動きを合わせるなど音はもちろん視覚でも迫力を作り出し、神永大輔(尺八)も高々とジャンプをするなどダイナミックなモーションで魅了するもまったく音が乱れることがない。亜沙(Ba)はムードメーカー的にステージを動き回り観客とも積極的に目を合わせ、町屋(Gt)は緩急のある立ち振る舞いでバンドのバランスを取る。いぶくろ聖志(箏)と蜷川べに(津軽三味線)もクールかつ華やかな所作で、8人の身体のしなやかさを見ているだけで音が聴こえてくるようだ。
また、これだけ音数が多くても一人ひとりの音が埋もれないアンサンブルや、和楽器をこれだけ多く含みながらもロックを筆頭に様々なジャンルの音楽を奏でること、ロック/ポップスと和楽器の親和性とその可能性を追求することは、生半可な気持ちや練習量では実現不可能だろう。だがその背景をまったく感じさせないほど、8人はどこか涼し気な表情だ。全員がそれだけの手練れであり、目の前の観客を楽しませたい、喜ばせたいという熱量を持ち合わせているという点でも、和楽器バンドは非常に稀有な存在だ。
コール&レスポンスやシンガロング、タオル回しを求めるなど観客と積極的なコミュニケーションを交わし、小編成での鮮やかなインストパフォーマンス、ドラム和太鼓バトルなど和楽器バンドのライブではお馴染みのセクションに加え、ベストアルバムにも収録されている「The Beast」ではスマートフォンでの撮影とSNS投稿を許可するという大盤振る舞い。それ以外にもライブならではの楽しさを余すことなく詰め込んでいた。この人懐っこさも、様々な世代から愛されるゆえんである。
鈴華は活動休止について「不安はあるけれど、さらなる未来を目指すためにも必要な時間だと思っている」とあらためて語り、「皆さんと過ごしたこのツアーを支えにして、これから歩んでいけるんじゃないかと(今日のライブで)思えました」と晴れやかな表情を浮かべる。アンコール最後の楽曲では、8人全員が観客の目をまっすぐ見て、これからも和楽器バンドは続いていくこと、休止中にそれぞれが力を蓄えて戻ってくることを約束するような、非常にすがすがしい演奏を響かせて2時間超えのステージを締めくくった。
ツアーファイナルは12月10日の東京ガーデンシアター。「広い場所で最後を迎えたい」「この日しか聴けない曲もあるので、大忘年会みたいな気持ちで盛り上げていきたい」という鈴華の言葉からも、ツアーの中で特別な日になることを予感させた。初日も常にメインディッシュを提供されるような非常に充実感のある1日になったが、LINE CUBE SHIBUYAの約4倍のキャパシティの会場ではさらにスケールの大きなステージが待っていることだろう。10年間の経験と思いを携えた和楽器バンドは、いまキャリア史上最も脂が乗っていると言っても過言ではないのではないだろうか。非常に爽快感のあるツアーを、ぜひ現地で体感してほしい。