TOMOO LIVE HOUSE TOUR 2024 "Puddles"追加公演
2024年7月10日(水) 豊洲PIT
シンガーソングライターのTOMOOが7月10日(水)に東京・豊洲PITにて東名阪ライブハウスツアー「TOMOO LIVE HOUSE TOUR 2024“Puddles”」の追加公演を行った。
聞き慣れない“Puddles”という単語は“水たまり”という意味。MCで説明もあったが、雨上がりに道路に水たまりができる梅雨の季節に開催されたツアーであると同時に、彼女の楽曲に対する新たな視点も与えてくれるタイトルになっていた。例えば、彼女の曲には月や星が出てくる。それが、夜空を見上げた月や星ではなく、水たまりに映った月や星を眺めているのだとしたら。それだけで聴き慣れたはずの楽曲から想起される情景も変わってくるし、彼女の楽曲によく登場する“光”ではなく、“雨”に焦点を当てることで生まれる選曲の妙も楽しめるライブだった。
開演時間を迎えると、まるで散歩の途中かのようなラフな足取りでバンドメンバーとともに姿を現したTOMOOは、そのままバンドメンバーと一緒にステージ前方に座って、スタンディングでぎゅうぎゅう詰めになった満員の観客に向けて軽く挨拶をした。そして、ピアノの前に座り、すうっと息を吸い込むと、スクリーンに大きな月が浮かび上がった。オープニングナンバーは映画「君は放課後インソムニア」主題歌に起用された「夜明けの君へ」。<眠れぬ夜に 届いた光>というフレーズに合わせるかのようにステージ後方から眩い光が照らされ、次第にフロアが真っ白い光に満ち満ちていき、TOMOOはその歌声で低く力強い歌声で朝を引き連れてきた。
しかし、場内に雨音のSEが流れ、天気が悪いことが知らされる。忘れられない夏の日を歌った「雨でも花火に行こうよ」には豪雨の中を走る青いワゴン車のワイパーアームを<熱いライブのオーデェンス>と例える歌詞があるが、観客はまさにワイパーアームのように掲げた手を左右に素早く振り、盛大なクラップも巻き起こった。ここで、“水たまり”ができた気がした。続く「あわいに」ではクラップのボリュームがさらに大きくなる中で、TOMOOは立ち上がって、水たまりを避けながら歩くような軽やかさで観客の一人一人と視線を交わし、思い出の中の景色を集めながら、朗らかにウッドブロックも鳴らしてみせた。
最初のMCではツアータイトルについて、「雨が得意じゃない自分なりに雨の季節を楽しむべく、水たまりを英語にした“Puddles”ってつけて。梅雨入りとともに始まったツアーで、こんなに暑くなり過ぎてしまったことも含めて、みんなと季節を並走してきた感が強いです。今日も、この会場はライブの間は、道端の水たまりです! ここに、空とか、人とか、木とか、森とか、食べ物とか、いろんなものが映り込んだりするのを見たり、踏み込んだり、飛び越えたりするのを一緒にしたいと思います」と解説。追憶と再会が交差する「夢はさめても」から、駅のホームを舞台にした淡い片想いソング「恋する10秒」をシームレスに繋ぎ、「初期にライブハウスでよく歌っていた土っぽい曲」と語った「地下鉄モグラロード」、場内の照明が海に幻想的な景色を浮かばせる蜃気楼のように揺れる中で<皆と 同じ駅じゃ降りられない>と呟く「shiosai」と、駅や電車が登場する楽曲を続け、流麗なピアノから始まる「スコール」では、まさにスコールに打たれて立ち尽くすかのような激情的なタッチと歌声を響かせると、アウトロでは再び雨音が聞こえ、場内は紫色へと煙っていた。そして、別れを告げられた“僕”が海の底へと沈んでいく「泳げない」では、彼女の顔が見えないほどの暗がりの中で、歌の物語に聴き手を引き込んでいく力を存分に発揮。ドラマチックに展開するサウンドに合わせ、会場はまるで海の中に沈んだかのようなブルーの灯りに満たされていった。TOMOOのライブは彼女の歌とピアノ、コーラスを含めたバンドアンサンブルによる音楽な豊かさはもちろん、いつも照明による演出も素晴らしいので、ぜひ一度体験してもらいたいと思う。
バンドメンバーと「小雨の時に傘をさす派?ささない派?」をテーマにした気の置けないトークを経て、ツアーを振り返り、「私は雨に濡れること自体が好きにはなってないんですけど、このツアーはすごいシンプルに楽しかったんですよね。やっている時は無我夢中で私、今、楽しんいでるなと思わないけど、振り返ってみて、めっちゃ楽しかったなと思って。その感じは、子供時代や青春時代と似ていて。あの頃、キラキラしていたかもしれないっていう時は、その渦中にある時はあんまり思わないというか。このツアーはそれだったかもと思ったんですよね。その気づきは、私にとっては大事というか。輝きは、自分で実感するものではなく、なにもわからないまま過ぎ去った、その先で振り返った時に見えるんだろうなと思ったんだ」と語った。そして、「途中に輝きがあるよなと思ってかいた、私にとって、雨の大事な曲です」という言葉に導かれ、「雨粒をつけたまま」を弾き語りで演奏。上手くは説明できないのだが、どこか雨の匂いがするような歌声で観客は静かに耳を澄ませて聞き入っていた。
ミニマムからアンサンブルへと次第に音が重なって厚みを増していく「Grapefruit Moon」、TOMOOのヴォーカリストとしてのポテンシャルの高さをダイナミックに味わえる「Cinderella」をしっかりと聴かせた後、ライブはいよいよ後半戦へと突入。「今から大分元気な曲を。私とモアハッピーになってくれますか。聞いてください……いや、受け取ってください」と呼びかけた「Present」から、ドラムやコーラス、キーボードのソロがフィーチャーされた「Ginger」、音も照明も観客も華やかに派手に暴れ回った「オセロ」と弾力性に富んだアッパーなナンバーを続けると、TOMOOのパワフルなバッキングに負けないほどのクラップが沸き起こった。そして、ラストナンバーを前にTOMOOはこう語った。
「短いツアーだったけど、自然体になっていく旅のようでした。ツアーが始まる前に、みんなと最近の自分とで今、似合うムード、しっくりくる景色はなにかなって考えました。そしたら、道ばたとか、身近なイメージがいいなと思いました。私は普段、何気ない景色の中から曲を書くことがほとんどで、きっとみんなも街を歩いているときに私の曲を聴いてくれていることがあるだろうなと思って。道端にある水たまりは、聴いてくれるみんなにとっても、曲を作る私にとっても、似たように見ることができるものだよなと気づいたんです。最近、聴いてくれている人がだんだん増えてきたけど、今の私の気分はね、並んで歩いている感じ。何気ない眼差しを共有したいなと思ったんですよね。ほっとくと人はさ、右肩上がりになっていくこと、でかくなっていくことを求められるけど、最近の私の気持ちはこんな感じです」
「超共有できるのは何気ない眼差しだよ」と繰り返し伝えた彼女は、本編の最後となる「Superball」で、ミラーボールが回る中で<君も同じなら この歌を/傘も持たずに 君がいるなら 踊るように 並んで歩こう>というメッセージを全てのエネルギーを放出するかのように全力で届け、オープニングと同じく光に満たされたステージを後にした。
アンコールでは、夏の到来を待ちわびる季節に歌い続ける決意と覚悟も込めた「Green Days」を弾き語りで歌い、「今回のツアーでは封印していたんですけど、雨が降っている日は乾いたものが食べたくなる」と語り、サプライズでライブの人気曲で、ひだまりの歌である「ベーコンエピ」を披露。ここで改めてツアーを振り返り、「素直にシンプルに楽しかった。みんながライブを一緒に作ってくれて、<楽しくなる余地ばかりだ>」と自身の「あわいに」のフレーズを引用。「これからもいろんなことを味わいながら、一緒に乗り越えて行けたらと思います」と語り、<束の間のドライブ>に出かける「HONEY BOY」で観客と一緒にワイパーを繰り出して一体感をもたらすと、ミラーボールにカラフルなライトが照射された「POP'N ROLL MUSIC」ではタオルを回し、コール&レスポンスも沸き起こり、熱狂の渦の中で、梅雨入りとともに始まったライブハウスツアーは締め括られた。
なお、終演後には、9月1日(日)に東京・LINE CUBE SHIBUYA、9月15日(日)に大阪・大阪城音楽堂でアコースティックツアー「MTV Unplugged Presents: TOMOO Acoustic Tour 2024 "Mirrors"」を行うことを発表した。「見たことのない編成のライブです」と語ったツアーには、「Mirrors」というタイトルが名付けられ、出口で配られたチラシには湖面に映える一羽の白鳥の絵が描かれていた。ライブに足を運ぶ私たち、観客一人一人がTOMOOの鏡という意味なのか。彼女の数々の楽曲がまた違って聴こえるんじゃないかと期待している。
SET LIST
01. 夜明けの君へ
02. 雨でも花火に行こうよ
03. あわいに
04. 夢はさめても
05. 恋する10秒
06. 地下鉄モグラロード
07. shiosai
08. スコール
09. 泳げない
10. 雨粒をつけたまま
11. Grapefruit Moon
12. Cinderella
13. Present
14. Ginger
15. オセロ
16. Superball
ENCORE
01. Green Days
02. ベーコンエピ
03. HONEY BOY
04. POP'N ROLL MUSIC