Jay Chou Carnival World Tour 2024 - Yokohama
2024年4月6日(土) 7日(日)Kアリーナ横浜
※レポートは7日に実施
2024年4月6日・7日の2日間にわたって、16年ぶりとなるJay Chou(ジェイ・チョウ/周杰倫)の来日公演『Jay Chou CARNIVAL World Tour』が神奈川・Kアリーナ横浜で開催された。こちらのワールドツアーは2020年、コロナの影響で延期になってしまっていたもので、その後2023年5月の香港公演を皮切りにツアーは再開。中国本土5都市で20公演を行なったのちに、バンコク、ロンドン、パリ、シドニー、メルボルンを巡った後、日本にたどり着いた。ここでは、その日本公演のなかから最終日の公演のレポートをお届けする。
Jay Chouは、いまやアジアが誇る世界のスーパースター的存在。歌が上手いのはもちろん、ラップ、ビートボックスもできて、ダンスも踊る。自ら楽曲を作り、アレンジを施し、これまで数々のヒット曲を量産。楽曲提供でもヒット曲を連発。歌以外にピアノやギター、ドラムに加え、和楽器もプレイする。さらに、映像作品の監督、プロデュースから映画の主演など俳優業までこなしてしまうというマルチな才能で、中華圏でNo.1の人気者。その勢いは現在も衰えることなく、15枚目のアルバム『Greatest Works Of ART』は2022年グローバルアルバムセールスランキングトップ10で世界1位に認定された。中華圏のアーティストが1位を獲得したのはこれが初。いまや中華全域を飛び越え、世界に向けてMandopopの存在を知らしめる最強のポップアイコンとなったJay Chou。そんなスターが日本に16年ぶりに来日するというだけで、世界中の彼のファンのなかでは、たちまちビッグニュースに。過去には2006年に東京・国際フォーラム、2008年に東京・日本武道館で公演を開催した彼だが、今回は規模をさらに拡大して、2万人キャパを誇るKアリーナ2days 公演となった。だが、このチケットも昨年秋、発売早々にワールドツアー同様、秒速で完売。チケット争奪戦でファンが湧き上がるなか、都内では街頭ビジョンを通じてJay Chou公演のPR映像が流れ、公演日直前には来日記念アルバム『CARNIVAL』も発売。レコードショップではパネル展も行われるなど、来日に向けての祝祭ムードがどんどんと高まっていくなか、迎えた公演日当日。
そうして、開演時間を少しすぎて、照明が落ち、ファンファーレとともにピエロが登場。サーカスのようなパフォーマンスでカーニバルの幕開けを告げると、ハードなギターリフから「GOLDEN ARMOR 黃金甲」でライブはロックに幕開け。ダンサーたちが踊るステージの真ん中に、ポップアップで甲冑のような衣装に身を包んだJay Chouが堂々と姿を表すと、割れんばかりの悲鳴が上がる。来日後、インスタを通して披露していた目黒川でのお花見ショットの髭を生やしたワイルドな風貌からは一転。ステージに立った彼はその姿、衣装、マイクまですべてがキラキラ。ものすごいオーラに包まれたスーパースターだった。そこにコーラス隊、ホーンセクションを加えたフルバンドメンバーにダンサーたちが加わると、演者だけでものすごい迫力の大所帯に。曲ごとに変わるフルCGで作リ込まれたバックスクリーンの映像、本人を生でとらえていくカメラ、日本語訳付きの歌詞のテロップ。さらには、曲終わりには何度もキラキラのテープや紙吹雪がパーンという特効音とともにもに舞い散り、Jay Chouはたびたびステージから姿を消し、早着替えを終えて再び舞台に登場するなど、これまで世界を魅了してきた豪華絢爛なパフォーマンスを惜しみなく次々と発揮。冒頭数曲で、ステージのどこを見ればいいのか戸惑うほどのど迫力に圧倒される。
会場となったKアリーナ横浜は、フェスのような人だかりでごった返している。フォトスペースで写真を撮ったり、横浜のお土産の定番である“ありあけ横濱ハーバー”とコラボした横浜限定グッズなどを買い求めるお客さんたち。聞こえてくる会話は、ほとんどが中国語。来ているお客さんの年齢層も若いカップルから家族連れまでいて、中華圏における彼の国民的人気を改めて実感させられる。
場内に入ると、客席の全シートに(他のコンサートではグッズとして売られているような)ストラップ付きのロゴ入りハート型ペンライトが置かれている。帰りに回収されるのかと思いきや、持ち帰りOKという太っ腹ぐあいに驚愕。
「日本のみなさん、こんにちは。お久しぶりです」と日本語で挨拶をしたJay Chouは、続けて前回の日本武道館公演から16年経ったことに触れ「久しぶり。僕のこと、憶えてる?」と中国語で尋ねる。中国語のMCは同時通訳され、スクリーンに日本語の字幕が映し出されていくという仕組みだ。
このあと「Simple Love 簡單愛」が始まると、場内には当然のようにオーディエンスの凄まじい大合唱が沸き起こる。その声に包まれ、ここが日本であることを忘れるような異国的感覚に包まれていると、Jay Chouは歌いながら階段を降りてきて、アリーナへ降臨! そうしてアリーナの端から端まで、1人残らず最前列の観客たちと視線を合わせ、ハイタッチをしていった。その瞬間、ワールドクラスのスーパースターが、親密感に満ち溢れる存在へと切り替わる。このようなことを軽やかにやれてしまう人間性こそ、Jay Chouの偉大さ、素晴らしさなのだと気付かされる。
そんなJay Chouがダークな曲調にラップをのせた「Chapter Seven 夜的第七章」から、ステージはゴシックな世界へ。ゲストの柯有倫を迎え「Final Battle 哭笑不得+最後的戰役」、Jay Chouがピアノの弾き語りで「Floral Sea 花海」の演奏を始めると、本人の声がかきけされるほどオーディエンスの歌声が場内に広がっていき、このあとステージはオリエンタルな世界へと入れ替わる。ゲストの曹楊が登場し、「Secret 不能說的祕密」、「Simmer 微光」をコラボしながら歌唱し、場内を沸かせると、「Cold Hearted 紅顏如霜」では場内が真っ赤に染まる。ここでは、真っ赤な衣装に着替えたダンサーたちのフォーメーションのなかにJay Chouが入ってアクト。バラードだけではなく、ラップを取り入れたポップスや、この曲のようにオリエンタルなメロディーにおしゃれなリズムを加えてR&B調に仕上げたサウンドなどで、Mandopopに革命を起こしていった楽曲を披露するセクションを経て、スクリーンにはジュークボックスが登場。「Adorable Lady 可愛女人」からは懐かしいナンバーをKアリーナ全員で大合唱していく。「Cowboy On The Run 牛仔很忙」はダンサーたちの衣装もウエスタン風になり、サウンド以外にパフォーマンスでも西部劇っぽいムードを演出。
このあと、Jay Chouが着替えに行くと、その間スクリーンにはルーレットの映像が登場。ここからは、お客さんが主役となってライブは進行。挙手したお客さんがルーレットの番号をコールすると、その番号が示す曲をバンドメンバーが即座に演奏しだして、お客さんは生演奏をバックにその曲を1コーラス歌うのだが。これをみんながみんな、照れることなく、楽しそうに歌っていくのだ。日本では見たことがないような演出に驚いているうちに、着替えが終わったJay Chouは再びステージへ。バンドメンバーの紹介を挟んで、ライブはいよいよ終盤へ。
“Hey!Hey!”という軽快なコールからドラム&ベースをフィーチャーした「Basketball Match 鬥牛」が始まると、ダンサーとともにJay Chouもボールを持ち出し、指先でクルクル高速回転させるパフォーマンスをカッコよくきめる。そうして、そのあとは、名曲バラード「Love Confession 告白氣球」を客席との息のあった掛け合いで歌い上げて、本編を締めくくった。
アンコールは、力強いドラムソロで躍動感たっぷりに幕開け! 再びステージに戻ってきたJay Chouは、ポップアップで登場。桜吹雪が舞う映像をバックに、日本武道館のライブを彷彿させるように、津軽三味線を日本の三味線奏者たちとプレイするパフォーマンスで、集まったファンを熱狂に包む。そこから始まったのはもちろん「Master Chou 周大俠」! “カンフー”、“豆腐~”というおなじみの客席とのコール&レスポンスもバッチリきまり、場内が大いに盛り上がったあとは、ゲストの楊瑞代Garyが登場。Jay Chouは雪の日に代々木公園で撮ったMVに思いを馳せながら、その映像をバックに「Wait for you 等你下課」を歌唱していった。続いて、ゲストのPatrick Brascaが「3AM」を披露。そうして、このあとはJay Chou恒例のリクエスト(点歌)コーナーへ。
最初に選ばれたのは、この日観覧に来ていたJay Chouの友人であるマジシャンのセロ。カードマジックを披露したあと、Jay Chouに「何の曲聴きたい?」といわれ、リクエストしたのは“イチ、ニ、サン”の日本語をキャッチーに取り込んだヒップホップチューン「Ninjya 忍者」だった。するとJay Chouは「昨日もやったからアレンジ変えよう」というなり、口で音を奏でながらギター、鍵盤にフレーズを指示。そこに自らビートボックスをのせてリズムを作り、即興で作ったニューアレンジでこの曲をアクトしていったシーンは、普段は見られない音楽家としてのJay Chouをリアルに見ることができて、とても刺激的だった。このコーナーはJay Chouに指されたファンが各々のエピソードを赤裸々に語りながら聴きたい曲をリクエストしていくというもので、桜を持ってアピールしていた日本人ファンは、Jay Chouのファンになったおかげで中国を勉強しだしたと、流暢な中国語で曲をリクエスト。2歳の子供を肩車した男性ファンが「産まれた直後からJay Chouの音楽を聴かせていたら、知らない間にこの子が“彩虹”を歌っていて感動した」と伝えると、すぐに「彩虹」を歌い出し、このとき、場内のペンライトは即座にレインボーカラーに! お客さんが話しているとき、面白おかしくちゃちゃを入れながら盛り上げていくJay Chouのトーク力もすごいのだが、それ以上にリクエストされた曲を、即興でニューアレンジを考え、ブラッシュアップしてお客さんを喜ばせようとする姿勢。さらに、それを無茶振りされても、即座に対応できてしまうバンドの演奏力、音楽的能力の高さ。選ばれた曲に合わせて音響、照明までをもコントロールできてしまうコンサートスタッフには感服するしかなかった。こうして、約1時間にわたってリクエストに応え、15曲を歌い、このコーナーを締めくくったあとは、最後に日本の『電車男』に影響されて作った「Sunshine Nerd 陽光宅男」、最後はノスタルジックな名曲「Qi-Li-Xiang 七里香」をみんなで一つになりながら大合唱。この日1番のハイライトとなる大きな歌語で盛り上がりを作りだすと、Jay Chouもイヤモニを外してその合唱に耳を傾け、その声を確認したあと、手を降ってステージをあとにした。
こうしてトータル3時間強、アンコールやリクエストを入れると、1公演でじつに60曲を歌い、コンサートを締めくくったJay Chou。世界のトップを走るスーパースターらしく、演出などを含め、日本ではなにもかもが規格外すぎて圧倒的なライブ体験だったが、それでも、こんな大きな会場であっても、心に深く残っていったのは、Jay Chouとファンが見せた親密性だった。日本ではあまり馴染みのない、バラードを一緒に歌うという文化も含め、Jay Chouの音楽を一緒に歌う。その相互のやりとり、ふれあいが創り出した温かいつながりが、あの壮大なエンターテインメントショーの幹にはある。それが確認できたライブでもあった。