Enfants、始動から2年、ファン渇望の初ワンマンライブ!満員の渋谷QUATTROで開催

ライブレポート | 2024.03.29 18:00

松本大

One Man Live "Obscure"
2024年3月10日(日) 渋谷CLUB QUATTRO

ここまで渇望感に満ちた初ワンマンライブというものを久々に目撃した。それは後ろのドアまで満員のフロアに立ちこめる熱気だけのせいじゃないだろう。LAMP IN TERREN(以下、テレン)、そしてEnfantsの動向を追ってきたファンには知られていることだが、テレンの活動終了後、松本大(Vo&Gt)のソロプロジェクトでもユニットでも、バンドでもないスタンスで正体を明かさずスタートしたEnfants。音源をリリースするまでは何の先入観も抱かず、音楽と正面衝突して欲しかったのだろう。1st EP「Q.」リリース後は声がかかるままに対バンやイベントに出演。自主企画ではラッパーとも競演するなど、ジャンル感を超えて松本の感性と共振するであろう顔合わせがどちらかと言えば外部の客観的な視点──もちろんそこにはEnfantsに対する期待と熱量が込められているわけだが──でもって、その存在が自ずと屹立してきた過程がある。2022年3月の始動から2年目でのワンマン。動員的にはこれまでにも実現可能だっただろうが、敢えて今であることを確かめるためでもあり、そしてシンプルにワンマンを観たかったファンの渇望感が高いのも当たり前ではある。

松本の影アナで少し和んだしばらくあと、メンバーが登場。だが、伊藤嵩(Dr)がイヤモニを忘れ、一度袖に下がるハプニング。それもいかにもEnfantsらしいと松本が笑い飛ばし、気を取り直して「Autopilot」の演奏が静かに滑り出す。松本のパイロットになるという子供の頃の無邪気な夢に端を発したこの曲での、夢を歌うニュアンスとは少し違う祈りの気配や、思うにまかせない感情の横溢に早くも射抜かれる。そして欺瞞を暴くようなイーブルな中原健仁(Ba)のベースがみぞおちを揺さぶる「HYS」。サビでは暗闇のフロアに拳が上がっているのがストロボの光でうっすら見えた。最小限のライティングは聴き手が演奏と向き合う最高の装置だ。さらに行き止まりを体感する歌詞と冷たいニューウェーヴサウンドのその名も「デッドエンド」ではそのトーンとは裏腹に熱を上げていくフロア。歌詞では終わりを意味する“暗闇”だが、この場所は暗闇で一人ひとりが革命を起こしているように映った。

松本大

最初のMCで松本はEnfantsの名前の由来を語ったあと、「70分で満足できたら俺らの勝ちだし、70分で足りないもっと観たいと思っても俺らの勝ちだし」と、一回性のライブへの思いを少しユーモラスに告げた。続いては未発表の新曲で、グランジ色もあるが松本の歌唱が際立つナンバー、そして極端に少ない音数でも成立するメロディの美しい「化石になるまで」、どこまでも透明でひんやりした大屋真太郎(Gt)のフレーズにゾクゾクする「R.I.P.」へと自然に繋ぐ。地声で語るように、予定調和に嫌気がさしながらも確かな自分のあり方を模索する心情が恐ろしく儚い調子で歌われる「R.I.P.」はまるで今、松本から溢れてくるような自然さで、サウンドと相まって鳥肌が立ってしまった。彼がEnfantsを始めた最も端的で深い理由がこの曲にはあると思う。

大屋真太郎

中原健仁

伊藤嵩

「R.I.P.」を演奏し終え、そのまま次の曲を演奏するのをやめ、「続けるつもりだったけど、ちょっと力も要りそうなんで、このぐらい気楽にやりたいんだよね」と、松本。張り詰めた演奏の求心力と素を全開にするMCとのギャップ。いや、でもこれはどちらも彼に違いないのだ。続く「Drive Living Dead」で一気に明るい場所に浮上するような軽快なビートに転じるが、歌われるのは自由と孤独の中で歌い続けているという現状認識だ。スローなオルタナバラードといった趣きの「惑星」は孤高という意味でレディオヘッドやエリオット・スミスを想起させる部分もある透徹したサウンドスケープを描く。さらに未発表曲で自意識が漂白されていくような心地に。オーセンティックな4ピースでここまで繊細な表現を可能にしているのはやはりどうしたって四人の関係性あってのことだと思わざるを得ない。

終盤、松本はインタビューなどでも語っているテレン終了から即座にEnfantsを始めたことについて、「バンドは1対1対1対1。だからドラムが抜ける時点で活動終了という運びになった。Enfantsは都度スタイルを変えていく、一応ソロプロジェクトってことになってる。でも俺はバンドだと思ってるけどね」と、今、最も彼が音楽を作りやすい状態を選べていることは分かった。「すぐに歌を作って歌って、自分の人生に納得したい。みんなが聴いてくれるのはついでだけど、そのついでに助けられてる」とも。そして「俺はこの曲を作ったし、ここに繋げたかったんだよ」という言葉からテレンの「ニューワールド・ガイダンス」のイントロへ突入すると、フロアの随所で悲鳴が上がる。サビの“イエー!”のシンガロングは叫びに近かった。

松本大

さらに未発表曲を披露しようとするも、持ち時間の70分をこの時点で過ぎていること、披露しようとしている新曲の歌詞に納得しておらず急遽書き換えたものの、足元のカンペは更新されていないと暴露。カンペの差し替えをスタッフに要請するも、時間を持て余し予定にはなかったテレンの「心身二元論」に突入。あまりの急展開に大屋が「お前マジでふざけんなよ」と笑いながら突っ込む様子はむしろあけすけな彼らの関係性を明らかにして、ライブ全体の風通しをよくしていた。Enfantsのレパートリーと接続しても違和感がないのはテレンもEnfantsも決してジャンルに拘泥していないからだろう。そして歌詞の詳細こそわからなかったものの、空間系のエフェクトがかかったベースにニューウェーヴ色を感じる未発表曲が無事披露された。

ラストは1stEP「Q.」のオープニングナンバーでもある性急なビートで掻き立てる「Play」。人生に大義はないし、ただハッピーに過ごしたいだけと歌うこの曲は松本が自分の音楽を全て自分由来にしたい、何か大きな演出された共同体への違和感から生まれたフラットな表明だと思う。自然に声に力が入り、自然に叫ぶ。ボーカリストとしての資質は地続きだけれど、明らかに今はなすがままに歌っているように映るし、大きな演出を必要としない生身の人間の音楽がそこにあった。

あらかじめアンコールは行わない旨を語っていた通り、2024年3月時点のEnfantsは演奏を終えるとあっさりステージを後にした。”Obscure=不明瞭“と題されたライブの答えはその場に居合わせた一人ひとりの中にきっとある。

なお、終演後、次回のワンマンが告知された。6月30日、表参道wall&wall、興味深い会場である。

SET LIST

01.Autopilot
02.HYS
03.デッドエンド
04.(タイトル未定)※未発表曲
05.化石になるまで
06.R.I.P.
07.Drive Living Dead
08.惑星
09.(タイトル未定) ※未発表曲
10.ニューワールド・ガイダンス
11.(タイトル未定)※未発表曲
12.心身二元論
13.(タイトル未定)※未発表曲
14.Play

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