アバンギャルディ 1stワンマンライブ 追加公演
2024年2月7日(水)なかのZERO 大ホール
あの“バブリーダンス”の生みの親である振付師・akaneの発案でメンバーを募り、自らプロデュースと振り付けを手がける19人編成の女性ダンスグループ・アバンギャルディが、1stワンマンライブを開催した。大阪、東京と行ってきた公演のなかから、ここではその千秋楽となった2月7日、東京・なかのZERO 大ホールのレポートをお届けする。
これこそ、世界を一撃する日本の最新鋭のダンス・エンタテインメントショー。なにもかもが衝撃的で、アバンギャルドで、そして、とことん笑った。
開演時間前。場内に入ると、ペンライトを手に座席を埋め尽くしている客層にまずは驚愕! メンバーと同世代ぐらいのダンス好きな人々が集まっているのかと思いきや、そこにいたほとんどの人は、昭和の日本、華やかに沸き立ったあのバブル期を謳歌してきた世代の人々だった。だからなのか、さっきからBGMで流れてくる昭和歌謡な懐メロポップスも、どこかウキウキした様子で楽しんでいる。昭和ムード満載、どこかレトロな異空間にタイムスリップしたような不思議な感覚に包まれた頃、BGMがYMOの「RYDEEN」に切り替わったところで、いよいよライブは開幕。
オープニングはメンバーが1人ずつステージに勢いよく飛び出してきて、自己紹介がてらソロダンスを披露していく。そこから、ライブはいきなり岩崎宏美の「シンデレラ・ハネムーン」へ。彼女たちの名前がワールドワイドに広まったアメリカのオーディション番組、あの『アメリカズ・ゴッド・タレント』(以下、AGT)のシーズン18に出場したときに使用したナンバーの登場に、場内から悲鳴が上がる。ダンサー全員がおかっぱ頭にジャンパースカートの制服姿というアイコニックなルックス。メンバーは19人、身長差があるのに動きは全員揃っていて、まるで生きている人形を見ているようで、ある意味奇妙で怖い。けれどもそのダイナミックな動き、完璧なシンクロで踊るダンスは圧倒的。途中、曲のテンポがスピードアップしてもそれが崩れることはない。なのに、みんなが一斉に変な顔をしたりしている。カッコいいのか怖いのか、コミカルなのか頭の中は冒頭から混乱状態。
そしてライブはムービーパートへと切り替わる。映像は懐かしのドラマ『女王の教室』のパロディ仕立てで、これがとにかくギャグ満載で面白い。映像を通して、観客にはここが私立アバンギャルディ学園であることが知らされ、映像を通して、akane扮する先生がスパルタ教師となり、生徒役を演じるダンサーたちを率いて様々な学校行事をライブと同時進行して繰り広げていくことが知らされる。まずは、現在の生徒たちの実力を確かめるということで生のライブへと切り替わる。アバンギャルディは、ここぞとばかり、あのジャイアントスイングを振りに取り込み、AGTの決勝を戦ったABBAの「Money, Money, Money」、続けざまに彼女たちの“バブリーダンス”の代名詞である荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」をバブル時代のディスコを彷彿させる照明とミラーボールが回る演出で堂々とアクト。しかし、再びライブは映像パートへと切り替わる。akane先生からは、こうして有名になって昨年はNHK紅白歌合戦でYOASOBIの「アイドル」でコラボステージを行なったものの出演時間は「たったの29秒」とお叱りを受け「みんなを最高のエンターテイナーに育てるためのカリキュラムを用意したわ」ということで、まずは水泳大会を実施。
ステージには水着とスイミングキャップ、ゴーグルをつけたメンバーが集合。akaneが振り付けを担当したジョー・リノイエの「Synchronized Love」(武富士のCM曲でもある)で水泳をダンスで表現。続いて、昭和の学ランと学生鞄を持ったメンバーが入れ替わりで出てきて、昭和のフォークグループ・ガロの「学生街の喫茶店」を、鞄を小物として使いながら踊ってみせた。そうして、飛び出し坊や、通称「とび太」というキャラに夢中になった生徒がストーカーのように追っかけていくロケ映像に続いて、大黒摩季の「あなただけ見つめてる」をパフォーマンス。それを見たakaneが、心身を鍛え直すという名目で運動会開催を告げる。
体操服に着替えたダンサーたちは、まず最初にラジオ体操で体を整えていく。もちろんこの体操もアバンギャルディ流にアレンジされていて、最後は全員が被っていた赤白帽を脱ぎ、猛スピードで頭をグラインドさせてヘッドバンギング!! これには場内も大爆笑。こうして少し(?)激しめな準備運動が終わったあとは、なんと観客も彼女たちの運動会に参加。大喜びしながら観客たちは応援部隊となって歓声をあげたり、競技に(かなり本気で)加わって「綱引き」、「大声対決」、「大玉ころがし」対決を行ない、この日は上手側の紅組が勝利を獲得した。こうして、運動会というアイテムを使って、学生時代にタイムスリップしたような気分でメンバーと一緒にライブを楽しませるエンタメ性の高いプログラムで、客席とメンバーの距離を縮めていったあとは、この学校最大のカリキュラムとなる文化祭へと展開。ここからは、メンバーが各々このために用意したとっておきの出し物を披露していく。
司会進行役のseiraの挨拶に続いて、文化祭はBIGBANGの「FANTASTIC BABY」からスタート。この曲のMVのBIGBANGに頑張って寄せたなんとも微妙なコスプレで笑いを取りながら“BOOM SHAKA LAKA”をキレッキレの動きでカッコよくダンス。
続いて始まったのはクラシカルな「トルコ行進曲」。全員がシンクロした動きが、華麗さを引き立てるこのバレエダンスを、ここでは、よく芸人さんがやっている“棒人形ダンス”の人形をリアルな人間に置き換えたバージョンでやっていく。途中までは全員がばっちりシンクロしてバレエを踊るのだが、途中から端っこにいたメンバーがすっ転んだり、逆に動いたり、体を張った芸(?)で客席の笑いを誘っていき、最後の衣装の超高速早着替えまで、とにかく笑いが止まらなかった。
さらに、おなじみの「ジャンボリミッキー!」は、本家とは似て非なるキャスト、キャラクターが続々と集結(笑)。観客たちはそれらの型破りのルックス、ダンスとマジックまがいの芸とギャグをミックスしたステージに、思わず抱腹絶倒。そうして、工藤静香の「嵐の素顔」が始まると、あの手でL字を描く振りをキレキレでクールな表情でおこないながらも、その合間にものすごく変な顔芸を入れ込んでいって客席に爆笑の渦を巻き起こし、松平健の「マツケンサンバⅡ」が始まると、ゴールドとピンクがきらめくド派手な衣装で、場内はたちまち灼熱のカーニバル会場へと大変身。楽しいムードにのせられて、客席も盛り上がり、こうして会場全体がトロピカルに華やいでいったところで、「一同起立!」という号令がかかり、観客たちは全員席を立つ。このあとは、通路に散り散りになったメンバーたちと一緒にZARDの「負けないで」をみんなで一つになって大合唱。文化祭はこうして感動的なフィナーレを迎えていったのだ。
しかし、そのあとの映像でakane先生から文化祭にaimuが活躍できていなかったとクレームが入る。そのaimuは、akane先生の指示で単身で女子プロレス団体“アイスリボン”へと弟子入り。ここで、本物の“ジャイアントスイング”などの技を次々と伝授されていったaimuは、ついにリングに立つことに。蝶野正洋本人による気合い入れ、過激な実況で昭和のプロレス黄金時代を支えたあの古舘伊知郎が実況を担当するというゴージャスな応援を受け、映像はここからライブへと切り替わる。ステージにはいつの間にかプロレスリングが登場。プロレス衣装に着替えたメンバーとaimu率いるクラッシュエンジェルス対極悪連盟のバトルを、X JAPANの「Rusty Nail」に合わせてパフォーマンス。ここでは過激かつ、アクロバティックな動きを使ったフォーメーションと、壮大なジャイアントスイングで見るものを圧倒していった。
そうして、このあとはメンバーによるグッズ紹介。そのグッズをバズーカに入れ、客席に飛ばしてプレゼントしたあと、「お知らせ」として5月15日から全国5カ所を巡る『アバンギャルディ2ndライブ(仮)』ツアーが決定したことをステージで発表すると、場内は大歓声に包まれた。そうして、制服に着替えたメンバーが「仰げば尊し」とともに卒業証書の筒を片手に整列したところで、私立アバンギャルディ学園の卒業式典がスタート。ここでは斉藤由貴の「卒業」をバレエ要素をたっぷりちりばめた振り付けで華麗に踊って卒業式を締めくくり、メンバーはステージを後にした。
「アンコール」の声を受けて始まった映像では“変顔の女王”、“衣装屋さん”など、このコンサートを見て分かった個々のキャラクターにちなんだキャッチフレーズで、改めてメンバーを紹介。もちろん、そのなかにはキャッチフレーズが“4人家族”というメンバーもいて、笑いを取ることも忘れない。その映像の後にYOASOBIの「アイドル」が始まると、イントロだけでものすごい大歓声が上がった。このダンスは、やはり何度見ても圧巻。本物は、さらに圧倒的だった。全員のジャンプ、ヘドバン、スカートを振り回すところまで全部がまるで機械のように精密に揃った切れ味の鋭いダンスになっている。息つく暇もないほど目まぐるしく変わるフォーメーション、突拍子もない動き、コミカルに変わる表情。やはり、この滑稽さと完璧さを兼ね備えたギャップあるダンスアクトは、彼女たちの唯一無二の武器。これで、見ている人を楽しませ、沸かせ、どこまでも感動させていく。さらにこのあと、スマホでの撮影タイムを挟んで、最後はメンバーのダンスレクチャーを受けて、大人気のキラーチューン、渡辺真知子の「かもめが翔んだ日」を渾身のキメ顔を入れながら全員でダンス。“かもめが翔んだ〜”というサビで、上空から白いかもめの切り絵が客席に舞い降りるという美しい景色を作り出して、アバンギャルディの1stワンマンライブ、千秋楽公演は幕を閉じていった。
アバンギャルディのライブを観て、ダンス=カッコいいという定義を覆された。カッコいいだけではなく、かわいいだけでもない。突然、コミカルでユニークな笑いも提供する。同じ格好の人たちが同じ動きをする不気味さすれすれの緊張感と、昭和の懐メロJ-POPを主体としたこだわり抜いた選曲、考え抜かれたエンタメ性の高い緻密なライブ構成で、とことん非日常的な感覚を生みだしていくアバンギャルディのライブは、いままで見たことも体験したこともない世界観だった。細かいタイミングで複雑な動きを次々と繰り出し、フォーメーションを変えながらも驚異的なシンクロ率を誇るこのダンス。この圧倒的なスピード感とキレを取得するために、彼女たちはどれだけトレーニングを積んだのか計り知れない。そんな緻密な構成のなかかに「笑い」をバランスよく共存させる。「バブリーダンス」というのは、ダンスのエンタメ性を広げて、ダンスでカッコよさと笑いを供給する。その可能性を示したパイオニアなのだと感じた。
ダンスは言葉が分からなくても伝わる面白さ、楽しさがあるカルチャー。日本を代表するひとつのダンスカルチャーとして、これから日本国内だけではなく、世界各国を巻き込んでブームを巻き起こしていく。そんなアバンギャルディを全国ツアーでみなさんに体感してもらいたい。
みなさん、ダンスで笑う準備はできてますか?