あらき、歌い続ける意味とは、10周年集大成のツアーファイナルで答えに辿り着く

ライブレポート | 2023.10.17 19:00

あらき ARAKI LIVE ARK !0 Attention
2023年10月9日(月・祝) Zepp Haneda(TOKYO)

 歌唱力、リズム感、表現力、立ち振る舞い、人となり。アーティストには様々な素養が必要とされるが、あらゆる面を見ても彼はステージに立ち続けるべき表現者であるとつくづく痛感した。それだけ言葉や一挙手一投足に説得力があり、嘘のないライブであったと思う。
 今年活動10周年を迎えたあらきによる、全国18会場を回るアニバーサリーワンマンツアー「ARAKI LIVE ARK !0 Attention」。10周年記念日の8月10日に開催したZepp DiverCity(TOKYO)公演で初日を迎え、名古屋・福岡・大阪のZepp公演には活動を通して知り合った盟友シンガーたちがゲスト出演し、地元青森ではFC限定公演を含む2daysライブを開催するなど全国各地を沸かしてきた彼が、10月9日のZepp Haneda(TOKYO)で自身最大規模のツアーを締めくくった。

 逆光のなかサポートバンドメンバーとあらきが登場すると、Omoiの「テオ」でライブがスタート。斬新で洗練された照明がたちまち会場を圧倒すると、それを越えるくらいのハイトーンボーカルと、フロアのシンガロングが華やいだ。あらきは観客の表情を見渡しながら積極的に声を掛け、優雅かつ自然体の身のこなしを見せる。彼は歌い手としての活動を始める前にバンドのボーカリストを務めていたことも知られているが、あの風格と気品を兼ね揃えた佇まいは、すべての音楽キャリアから育まれているものだろう。
 エキゾチックなムード漂う「Midnight Effect」は後ノリのグルーヴが心地よく、ダークなムードのなかにも小気味よい陽気さを感じさせる。バンドメンバーや観客たちの作り出す空気感に身を委ねながら歌う彼の声もはつらつとしており、あっという間に会場にいる全員が手を取り合うような、あたたかい空間が出来上がっていた。

 この10年間の髪色や髪型を今日のヘアセットに反映していることを明かしたあらきは「これが崩れるくらいには頑張ろうと思いますので、最後まで楽しんでいきましょう! ではゴキゲンなナンバーでもうちょっと身体をあたためていこうと思います」と軽妙な語り口で、ラップパートが印象的な「A New Voice」へといざなう。ハイトーンから低音まで歌いこなすレンジの広いキーだけでなく、盛り上げ上手で観客を引き込むパフォーマンスやテンポのいいMCもできて、さらにはラップまでユーモラスかつスマートに決められる、まさにショーマンだ。ただただ楽しそうに歌う姿に、観ているこちらも胸がすく。
 Neruの「脱法ロック」では声色を取り入れたりなどして会場のテンションを上げ、自身が作詞を担当したミクスチャーロック「有頂天」で挑発的なムードを高めてゆくと、「8.32」で一気に空気を変える。歌詞を一つひとつ丁寧に伝え、アウトロのフェイクで美しいファルセットも響かせると、アコギを抱えて蝶々Pの「About me」へ。バンドと一体となり、内省的な世界観をポジティブに届けた。

 さらにシンセやデジタルパーカッションを用いたキタニタツヤの「化け猫」をスタイリッシュかつムーディーに歌い上げた後の、ピノキオピーの「転生林檎」は圧巻だった。迫真のストーリーテリングにも息を呑んだが、ラストのサビを1オクターブ上げて歌うという展開は低音からハイトーンまでスムーズに出せる人間にしか作れない。張り裂けそうな声で歌う“愛して”や、ハイから急にローに戻るというスムーズなスイッチングなど、その表現力にただただ惚れ惚れしてしまうばかりだった。

 7曲連続で歌い切ったあらきは「大舞台でありながら、気負いせずにやれている気がします。それもこれも、いつも見掛ける皆さんの顔があるからです。これほど心強いことはないですね」と笑顔を見せる。その後も自身が作詞作曲をした「Freefall」や、自身が作詞をし堀江晶太が作曲をした「イスカノサイ」などグルーヴィーなロックナンバーで観客とより強く思いを通わせ、「こういう声をもらえるから何度でも回復するんだよな。皆さん頼もしいです」と感謝を露わにした。
 そして「この曲にも皆さんにも感謝の気持ちを込めて、超絶フルパワーで歌わせていただきます」と告げ、9月末に自身がカバーした動画が3000万再生突破したばかりのDECO*27「ヒバナ」を歌う。タイトル通り火花を散らすような高揚感をバンドメンバーと観客とともに作り出し、そのままDECO*27提供曲「Fiction」へとなだれ込んだ。純粋な情熱がぶつかり合う空間は、あらきが10年という期間でリスナーとまっすぐ向き合い続けてきたからこそ作り出せるのだろう。会場全体にうわべではない信頼関係がほとばしっていた。

 この先、5年10年と一緒に歩いていきたい曲のひとつという「会言葉」を歌唱した後、「赤裸々な話をしたいと思う」と前置きし、何のために歌っているのか悩みながらツアーを回っていたことを明かす。そして彼が導き出した結論は「皆さんが“顔晴(がんば)れる”歌を歌いたい」。「皆さんの夢も希望も不安も、自分が一緒くたに歌っていければ、皆さんは顔晴っていけるし、僕も顔晴っていけるし。そういう気持ちと10年の気持ちを込めて歌わせていただきます」と強く優しい眼差しを浮かべると、先日公開されたばかりの新曲「encore」を本編ラストに届ける。「まだまだ歌っていたい」という歌詞をより輝かせる、エモーショナルかつダイナミックな歌声だった。

 アンコールでは「もっと皆さんが明日から顔晴っていけるように、僕の残りの体力を皆さんに還元させていただきます」と話しnikiの「平面説」、DECO*27の「サイレーション」を立て続けに披露する。彼が楽しそうに歌うのも、ここまで華やかな立ち回りができるのも、目の前にリスナーがいるからなのだと腑に落ちる。観客のシンガロングに耳を傾ける瞬間はさらに表情がやわらかくなり、力強い歌声が生まれることが見て取れた。
 バンドメンバーにツアーの感想を求めた後、あらきはコロナ禍に入る前に制作した、観客の歌声が入ることで完成するという楽曲「Ark」について「力いっぱい歌っていただけたら、また新しい“Ark”が聴ける気がします。また僕に皆さんの声を聞かせていただけたらと思います」と語る。彼の思いに応えるように、同曲で観客もまっすぐと歌を捧げた。
 「この未来が もう待ちきれない」などツアーのラストに相応しい歌詞が印象的な「Attention to me-s」をエネルギッシュにのびのびと歌い丁寧にあいさつをしてステージから去ると、ステージ上のモニターにはツアーを1公演ずつ振り返るエンディングVTRが流れる。するとVTRのラストに番狂わせがあり、再びバンドメンバーと、大きな撮影カメラを抱えたあらきがステージに現れた。
 「最後はバカやって終わりましょう! 心置きなく暴れちゃってください!」と言い、最後にサプライズアンコールとして「イスカノサイ」を再パフォーマンス。予期せぬ展開に観客もさらにテンションを上げ、ハッピーなムードで大団円を迎えた。
 彼がステージを去った後にモニターに映し出された手書きメッセージの中にこんな一節があった。
「最近強く思うのは、行先ではなく目的が大事ってこと。ボクらはどこに向かうのかはさほど大事じゃないように思える。行く先々で何をするのか、それを体現できたツアーだったと思う」

 この日集まった人々の表情が晴れやかだったのは、あらきがここに集まった全員とやりたかったことに対して迷いがなく、さらにはそれを実現できたからだと思う。最初から最後まで“顔が晴れる”=笑顔でいることを重んじたステージは、“楽しむ”という感情はもちろん、強い意志や相手を思う優しさが感じ取れた。一つひとつの行動に意味を見出す彼だからこそ作れた空間だったと言っていいだろう。10年の集大成とこの先の未来を明るく、熱く照らす、太陽のようなツアーファイナルだった。

SET LIST

01.テオ
02.スーサイドパレヱド
03.Midnight Effect
04.A New Voice
05.脱法ロック
06.有頂天
07.8.32
08.About me
09.化け猫
10.転生林檎
11.Freefall
12.ブリキノダンス
13.イスカノサイ
14.ヒバナ
15.Fiction
16.会言葉
17.encore

ENCORE
01.平面説
02.サイレーション
03.Ark -strings arrange ver.-
04.Attention to me-s
05.イスカノサイ

公演情報

DISK GARAGE公演

PIKO fest 2024 ~最強すぎる歌い手デッキ組んでみたwwwwwwwww~

2024年3月10日(日) 豊洲PIT
出演者(50音順) : ピコ / あらき / +α/あるふぁきゅん。 / un:c / luz【New Face!】神谷 玲 / skip-A(すきっぱ) / ましゅー 

チケット一般発売日:2023年10月21日(土)10:00

  • 沖 さやこ

    取材・文

    沖 さやこ

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  • 撮影

    Kazuya Imada(ELENORE)

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