luz 8th TOUR -Joker-
2023年7月23日(日) Zepp Haneda(TOKYO)
東阪ワンマンツアー「luz 8th TOUR -Joker-」。初日の大阪公演は20代最後の日、最終日の東京公演は30歳の誕生日に開催される2daysスケジュールからもプレミアムなライブになるだろうとは予想していたが、彼がこの人生の節目に並々ならぬ思いを抱いていることを印象付けたのは、誕生日を迎えた瞬間のツイートだっただろう。今後の決意と覚悟を込めて本名を明かし、両親と自分を支える人々への深い感謝を伝える文章からは、苦楽の多い30年間を生きてこれたことへの喜びが滲んでいた。
そして迎えたツアーファイナルのZepp Haneda公演。“Joker”は“どこにも属さない札”や“ピエロ”といった意味があり、トランプと直結して“裏と表”や“赤と黒”、“キングとクイーン”など、相反するイメージを想起させる。確かにluz自身、インターネットのシーンから頭角を現しながら自身の感性が反応する音楽性を貫き、シーンに新たな刺激をもたらしてきたと同時に、“光”という意味を持つ言葉を名前に掲げながら“闇”と向き合い続けてきた。彼がマルチクリエイター・奏音69とイラストレーター・RAHWIAと組んでいるユニットのRoyal Scandalにもトランプをモチーフにした楽曲やスタイリングも多い。何より勝負を仕掛ける切り札である“Joker”は、彼にお誂え向きだ。このライブも言葉の意味が持つコントラストを巧みに組み込んだものだった。
本編は全17曲。曲間で言葉を投げかける瞬間はあるもののMCタイムは設けられず、前半ではカバー曲やエレクトロスウィングも多く含んだ艶やかなセクション、バンドのインストセクションを挟んだ後半ではオリジナル曲でヘビーなラウドロックセクションを作った。
活動記念日の7月21日にアップされた最新歌ってみた楽曲の「カプリスキャスト」で幕を開けると、FAKE TYPE.とのコラボ曲「Ruthless」へとなだれ込む。「声出せるのにそんな小さな声でいいのか!」など積極的に観客に呼び掛け、バンドの演奏に身を任せながらたくましくもしなやかな立ち回りを見せた。Royal Scandalの「クイーンオブハート」ではバンドメンバーを後ろからハグしたり、額を突き合わせたりするなど、楽曲のセンシュアルなムードを高めていく。そこで鍵となるのがluzのボーカルだ。彼の声は色気だけでなく爽やかさも持ち合わせている。この絶妙な温度や濃度は、彼の個性のひとつと言っていいだろう。その後に披露した「酔いどれ知らず」や「ダーリン・ブルー」などの憂いを帯びたメロディの楽曲でもその声のムードはよく映えていた。
「ロミオとシンデレラ」や「ラブカ?」などカバーを立て続けに披露して会場を盛り上げると、一息置いてアカペラで歌い出したのはロックバラードの「光彩」。彼が最初に息を吸い込んで歌い出した瞬間、会場の空気が変わったのがわかった。歌詞を一つひとつ噛み締めるように真摯な歌声を響かせるluzと、それをじっくりと聴き入る観客。それはとてもあたたかい愛情に満ちた空間だった。
そんな余韻のなか、ステージ袖からひとりマイクを持った人物が現れる。フロアがざわめくなか「アイビーラスト」のイントロが鳴ると、その声が大きな歓声に変わった。同曲のフィーチャリングアーティスト・oscuroこと前職ぼくのりりっくのぼうよみ・たなかがサプライズゲストとして登場した。《ここは最悪の踊り場/天国と地獄のあいだ》という歌い出しのリリックとリンクし、ここは前半と後半をつなぐ中間地点に当たるのだろう。物語の流れを変える、ジョーカー的なセクションだ。仄暗くスリリングでありながらも、耽美でドラマチック。ふたりのコンビネーションが生きたボーカルワークが会場を魅了した。
打ち込みのサウンドからバンドメンバーによるハードなロックナンバーのインストセクションを挟むと、黒をベースにした衣装に身を包んだluzが再度登場。「M.B.S.G」からヘビーなバンドサウンドとクールな気だるさも併せ持つ歌声で会場を掌握する。攻撃力の高いサウンドを背負って観客をひたすら煽るものの、「せっかく来たんだ、みんなで楽しもうか!」など言葉の端々に自然と優しさが滲むところも彼の人間性をよく表していた。観客はヘッドバンギングやクラップ、コールなどで追随し、「涅槃」では《キョウソ スウハイ》の言葉に合わせて儀式のように両手を動かす。観客からの熱量に触発されてluzの興奮が高まっていくのが、躍動感を増していくボーカルからも読み取れた。
その後も「FAITH」や「Identity Crisis」などで会場をかき回し、最新デジタルシングル曲「幽世」で本編ラストを締めくくる。Jokerをテーマにした物語を走り抜けた彼は、すがすがしい表情でステージを後にした。観客もしばらくその物語の余韻から抜けられなかったのか、アンコールを求める拍手をするまでそれなりの時間が掛かっていたのも、会場を自身の世界観に没入させたという意味でとても象徴的なワンシーンだったと思う。
アーティストとしての美学を感じさせる作品性の高い本編とは対照的に、アンコールはひとりの人間としての彼を強く感じられる時間だった。YOASOBIの「アイドル」とAdoの「踊」のカバーを披露したluzのもとに、バンドメンバーとたなかがサプライズバースデーケーキを彼に進呈。驚きながらも素直に喜びを表現し、無邪気に振る舞う彼を観客も大きな声で「おめでとう!」と祝福した。
たなかとの念願の初共演に喜びを示し、気心知れたバンドメンバーと談笑した後、「luzのライブに行きたくても怖くて行けない」という意見をもらうことに触れると、「みんなが作り上げた景色をいろんな人に見せたいし、知ってほしい。だからせっかくだし撮っちゃっていいんじゃないですか!?思い出にもなるし!」と「Dearest, Dearest」からスマホ撮影とSNS掲載の許可を出す。新しいこと、面白いことをやりたいと新たな挑戦をする彼は非常にすがすがしい表情を浮かべていた。
すると最後に彼は、あらためて自分の思いを丁寧に言葉にし始めた。10代の頃に母親を病気で亡くしたこと、もっと自分にできることがあったという後悔、未来を想像できない苦しい人生だったこと、支えてくれる人々のおかげで13年間音楽を続けられた感謝を告げる彼は、「この30年、何度も間違った選択をしようとしたこともありました。でもそうならなかったのはみんなのおかげなんです。帯刀光司という名前から“光”を取ってluzという名前をつけて、理想の自分を作ってきた。何もなかった福井の少年が、13年経ってこんなにいろんな人に愛されているなんて思わなかった。それくらいみんなのことを大事に思っています」と声を震わせる。「みんなからもらった幸せを今度は返したいです。まだまだ未熟だけど、ひとりの大人としてみんなを幸せにします」と力強い眼差しで語ると、観客は拍手でその思いに応えた。
「30代はただひたすら、みんなに幸せを返していく人生にしたいです。“光”は僕にとってみんなです。一つひとつの光が、今の僕を作っています。これが終わりじゃなくて、またここから始めよう。この曲をみんなで歌える日をずっと待っていました」と告げ、届けたのは「Despair」。luzと観客たちは手と手を取り合うように歌声を重ね合わせる。その空間は光のように輝いていた。
あらためて深々と頭を下げたluzは、「逃げたいとき、つらいときたくさんあると思う。でも僕は絶対そばにいること、忘れないでください。いつもそばにいてくれてありがとう! 絶対また会おうね!」と言い残しステージを去っていった。彼の壮絶な10代の人生に光を灯したのは、間違いなく彼を認めてくれたリスナーの存在だった。彼が昔からファンを“家族”と呼ぶのも、母親からの愛情を一身に受けてきた彼の人生に起因しているだろう。今年の3月末に独立し、より自分の成し遂げたい表現が追求できる環境を作った彼は、30歳という節目でさらなる飛躍を誓った。ゲームをかき回すのはジョーカーの宿命であり特権だ。試練を乗り越えながらまたひとつ大人に近づいた彼は、愛情をエネルギーによりスケール大きく邁進していくに違いない。そんな期待に胸が焦がれた。
SET LIST
01. カプリスキャスト
02. Ruthless
03. ジャンキーナイトタウンオーケストラ
04. クイーンオブハート
05. 酔いどれ知らず
06. ダーリン・ブルー
07. ロミオとシンデレラ
08. ラブカ?
09. ダーリン
10. 光彩
11. アイビーラスト
BAND inst
12. M.B.S.G
13. 涅槃
14. FAITH
15. FANATIC
16. Identity Crisis
17. 幽世
ENCORE
01. アイドル
02. 踊
03. Dearest,Dearest
04. Despair