眩い黄色のテーマカラーが瞼を擦り、ラウドに、光が起き上がる。封切りは「Jump Out Loud」だ。バッキングが コーラスが 浪川大輔が、解き放たれたように突き抜けていく!
ギターがエンジンを吹かせて煽る。浪川が「声を聞かせて!」と求める。待ち侘びた、コール&レスポンスで何度も気持ちを確かめ合う。苦しい日々に心の中で終止符を打ち、大きく前へ進むために、今夜その誓いを交わすために。
「激アツ超絶Saturday Night!!」のイントロと共に、歓声が上がり、会場は完全に仕上がりを見せた。Dr.が、Gtが上手で煽る。“みんなで声を合わせましょう!”の勢いを更に加速させて「Hurricane Rock Star」「ジキルとハイド」へと加速した。一瞬の隙も見せない熱気で溢れていた。
大きく振りかぶるバンド、上手下手にかけ抜ける浪川大輔。眼差しを真っ直ぐに離さないギャラリー。ノンストレスであるために此処があるのだと再確認するようで、それが昼公演を経て今、境地へ到達する流れを互いの魂が打ち合わせていたようで。
「声出し最高ーーー!!」
浪川大輔が、叫んだ。
楽しく、おもしろく。それこそが浪川大輔ライブの醍醐味であるが、今夜はさらに超絶ロックナイトのタグを持つ。熱が冷め止まぬうちに「combat」「デリンジャー」「run」へと連れていく。ハードロックの要、ギターソロにも熱が入る。舞い暴れる鍵盤、願い届けるように歌う浪川大輔。激しいドラムスが鳴るや、デビュー曲「ROCK STAR」だ。バンドパフォーマンスも加速度を増して止まらない。今度はキーボードソロで吠えまくり、カットアウトで大歓声が起きた。
「combat」「デリンジャー」あたりで早速指がつりそうになったとカミングアウトする愛すべき浪川大輔。塩分や水分を摂るにもバンドに暖かくいじられて、皆が笑う。我々がノンストレスという集団の存在に日々救われていると知るひとときでもあった。
次に鳴らされたのは人気の高いアルバム『賽(さい)』より、今夜限りのスペシャルメドレーだ。「夜咲きの勿忘草」のイントロ0.1秒で会場が湧いた。「恋花火」「世々ノ道」「暁」とアンセムが駆け巡っていった。この一瞬だけでも、噛み締める喜びがある。
浪川にとってロックは、常にそばにあり、憧れでもあった。デビュー曲のタイトルも「ROCK STAR」だ。何かに反発したいわけじゃない。それだけ浪川にとって、ノンストレスメンバーの心臓には音楽としてのロックが生きているのだ。
ライブに声が戻ってきた解放の初日である今宵、浪川大輔は、さらに音楽のギフトを届けてくれた。まずは、「地球丸ごとハグしたいんだ」。軽快に、だが真剣に浪川の声が音に混じっていく。アニメ『ヘタリア World★Stars』のイタリアの声そのままに、陶酔するほどの職人技に目が細まる。「君に届け」が流れると、この曲を選んでくれた!と言いたげに弾む歓声が上がり、一瞬でピュアネスに染まった。浪川大輔の凄みは、スタジオ外でも、ライブであっても、歌うことであっても、声でして目の前の世界を変えてしまうところだと思う。カバーラストは「ever free」だ。世代ボーイズ9割支持を得るだろう、伝説のロッカーhideの名曲だ。もしかしたらまだ何者でもなかったかもしれない浪川は、メンバーは、この曲とどんなふうに付き合い、何を思っていたのだろう。そんな彼らは今、ステラボールのステージで駆けつけた人々とこの曲でロックを味わっている。
歌い終わりに、カバー選曲の裏話を話してくれた。
世界全体が不安定な今だからこそ、という理由でも「地球丸ごとハグしたいんだ」を選んだというくだりも、「ヘタリアの声は、苦しい」と不意に漏らす一言で爆笑を起こしたくだりも、全てに浪川大輔とノンストレスの魅力がダダ漏れしていた。「君に届け」は、浪川自身がブレイクするきっかけとなった思い出の作品の主題歌でもあり、「ever free」は浪川が好きなhideの楽曲の中でも今日の自由なライブに合わせての選曲だという。
浪川大輔のライブは、初見参加でもノンストレスに、トークも素晴らしく楽しいのだ。それに、浪川大輔という大看板を掲げながらも、バンドメンバーが等しく皆に愛されている。フランクに突っ込み合い笑い合える空間がある。ああ、そんな場所があったなら。誰の何を気にすることなく、笑い合える空間があったなら。その空間が浪川大輔のライブにはあると知っているから、明日を迎えられるの人も多いのだろうと思う。
「Up to the rainbow」でラストスパートのエンジンをかける。より多くの人が見えるようにお立ち台に立ち。ロックであっても一人一人の心に置くように丁寧に届けようとする浪川が尊い。より真っ直ぐは眼差しで応戦するギャラリー。悔いのないように、悔いのないように。
ギターリフが始まり、「リアルタイム」が鳴り始めると、待ち侘びたように空気がソリッドに一変してドキリとした。ド・アンセムの風格を放った驚異的な勢いは、センターで両手を広げて叫ぶ浪川大輔の限界を越えさせようとしていた。解放の今夜、どこまでいけるのか。「ELEVATION」「ノンストレスナイト」と、アンセムの連続コンボが放たれる。“それが僕たちの全てなんだ” 浪川が魂を削って築いたリリックに交わるように、記念すべき今日を描いていた。
暗闇で鳴り響く、本日2度目のダイスケ(ダイスキ)コール。
清々しくメンバーが登場して、今夜のさまざまを振り返って笑いあっていた。ドラムのキム兄がパスタ(key.)の胸を触って「うん、緊張してるね。」と確かめる謎の儀式があることや、歌唱中に浪川大輔のマイクが飛んでいくハプニングをいかにして乗り切ったのか。これだけのエネルギーを放出してもなお、最後まで皆の笑顔は爽やかだった。
初めの一歩の前にある衝動を大切にしたいと、アンコールで歌い届けたのは「鼓動」だった。キャリアだけでなく人生の原点を振り返る時でもあったロックナイト。まもなくこのユートピアを出て、我々はまた、それぞれの世界へと出かけていく。また会える日を誓うように2曲目で「Again」を熱唱した。思いを高らかに鳴らし、音を声を届けていた。浪川は手を伸ばすように一人ひとりへ、届けていた。最後は花束のような「ありがとう」を贈った浪川大輔とバンドメンバーたち。散々楽しませてくれた後にこれから生配信か、我々は幸せ者だ。
現実世界の客電が灯り、扉が開く。1秒でも会場で余韻を味わいたい。終焉のオケBGMに合わせてギャラリーが未だ朗らかに合唱している。そのピュアな光景がなんとも美しくグッと胸を掴まれた。するとどうしてバンドが再登場してきて、その場のノリで「空色追想歌」をサプライズ披露したのだ。もちろん、正真正銘の予定外だ。フォークアフタヌーン出だしで穏やかに奏でていたあの曲が、今度は真っ直ぐビートに乗った音粒となって会場に降り注いだ。
声出しと共に踏み出した一歩は、予想を遥かに越えての大きな一歩であったと誰もが確信したと思う。
人が、声が、ライブに戻りつつある今、マスク下の笑顔までもが戻る頃、また浪川大輔が我々に素晴らしい体験を届けてくれると信じたい。