下北沢 NEED NEED NEED
2023年2月22日(水)下北沢CLUB Que
出演:ニューロティカ、レ・ロマネスク[guest 宍戸美和公]、画鋲
「今日、すごい悔しいんだよ! 出る前から負けてるってヤツ!?」
そうボヤキながらも楽しそうな笑顔を見せたのは、トリで登場したニューロティカのアツシ(Vo)。長年、ライブハウスを主戦場にして、ジャンル不問の異種格闘技戦も多く経験してきたベテランバンドがそう感じるほど手強い相手だったろうし、それだけに濃厚で楽しい夜だった。2月22日(水)下北沢CLUB Queにて行われた『レ・ロマネスク×画鋲×ニューロティカ』という異色のスリーマン。会場はモノ好き、おっと面白いことへのアンテナの高いお客さんで満員御礼! 超個性的なバンドがガチンコでぶつかる対バンは、どこか80年代末~90年代初頭のライブハウスの興奮を思い出させてくれ、そこはかとなくアングラ臭が漂う地下のライブハウスを笑いと興奮で包んだ。
開演時間となり、ステージに登場したのは、TOBIとMIYAのど派手なピンクの衣装が強烈なインパクトを放つ、レ・ロマネスク。チャカポコと鳴る軽快なトラックとサポートギタリストの演奏に乗せて、始まった1曲目は「3月4日」。3月3日の祭りをすぎると、1年のほとんどを箱の中で暮らす人形の悲しさを歌った、桃の節句を控えたこの季節にぴったりのこの曲。ポップだけどヘンテコで、心に引っかかりまくる歌や歌詞や曲構成。MIYAのダンスも華やかな、明るく楽しいステージで観客の気持ちをガッチリ掴むと、「今日はコンサートに来たと思わないで下さい。参加型の変なアトラクションに間違えて入ったと思って、前向きに捉えて下さい」とTOBIが挨拶し、フロアから笑いと拍手が起きる。
「今日は配信もありませんので、犯罪系の曲を2曲お送りします」と、「そんな曲紹介あるかよ!」とツッコミたくなるMCから、MIYAがホイッスルを鳴らして賑やかに盛り上げた「ジュテームのコリーダ」、TOBIの演技力が映えるムード歌謡調の「魔の宅配便女」と続き、特殊な愛の形を独創的な表現で届けた、レ・ロマネスク。さらに「祝っていた」、「飴と飴」と続き、彼らの“好き”や“面白い”や“カッコいい”が詰まった、独特すぎる楽曲世界やバンド世界に包まれていると、「本来、俺が好きだったライブハウスって、こういう強烈な個性や、見たこともない表現や新しい価値観に出会える場所だったよな」と、ふと思った。あの頃は良かったとか、現在がどうとか、野暮なことを言うつもりは全く無いけど。初めて見た、レ・ロマネスクのステージにそんなことを思っていた。
ライブ後半は宍戸美和公をゲストに迎え、彼女がMVの主演を務める、日本一番短い駅名である、三重県津市のご当地ソング「津の女」を披露。“つ”のハンドサインを観客と合わせて大いに盛り上がると、続いて披露した曲は、日本一長い駅名のご当地ソング「トヨタモビリティ富山Gスクエア五福前(五福末広町)駅の別れ」。「歌えるかどうか本当にギリギリなので、日本一長い地名で町起こしとか考えないで欲しい!」とボヤき、実際にメロディから溢れて歌えないというおもしろ展開もありながら。ラストはレ・ロマネスクが出演するNHK Eテレ『お伝と伝じろう』の主題歌でもある「伝わレレレ」で心の奥の奥まで思いを伝え、トレビアーーン! にフィニッシュ。短い持ち時間ながら、観る者の心にしっかり印象の残る濃密なステージだった。
SEが鳴り、ステージに登場したメンバーが定位置に着くと、立ってるだけでパンクで画になる3人の姿に拍手と歓声が上がる。一瞬の沈黙から、よーかいくん(Vo&Ba)の「行けーーっ!」の叫び声を合図に、1曲目「画鋲」で勢いよく始まったのは、中高年ショートコアバンド・画鋲のステージ。三宅弘城(Vo&Dr)の力強く前のめりなビートによーかいくんの荒々しいベース、宮藤官九郎(Vo&Gt)のエッジィなギターが重なる激しいパンクサウンドと直情的なトリプル・ボーカルが放つ、パンクでエネルギッシュなステージでど頭からフロアの熱を上げると、間髪入れずに「222」へ。すると2曲のショートコア・チューンを勢いよくぶっ飛ばしたところで、空気をガラッと変える緩~いMCに突入。
「初めまして、久しぶり。知ってる人は知ってる、知らない人はいま知った、画鋲だ!」とよーかいくんが挨拶すると、ライブ前にInstagramで公開していた、“今日のメニュー(セットリスト)”を発表。「まず、「こうねんき」「けんたいき」「だんせいき」「ししゅんき」! これは人間の色んな季節を……」(よーかい)「「だんせいき」は違うよ! そんな季節は無いよ!!」(宮藤)なんて、しょうもないやり取りもありながら。全24曲を駆け抜けることを宣言すると、「おっちゃんたち、頑張るからな!」(よーかいくん)「休憩挟むとしたら、俺が手を挙げるから。一応、最後まで行こう」(宮藤)と保険をかけつつ、ファストで激しく、バカバカしいショートコア・チューンの怒涛のラッシュが始まる。
1曲1分程度の楽曲を間髪入れずに次々と畳み込み、観る者に考える隙も与えない画鋲のライブ。日本のパンク/ハードコアを愛し継承したサウンドは抜群にカッコいいし、キャラを活かした歌い分けや厚みのあるコーラスで魅せるトリプルボーカルは斬新で見どころ満載だし、耳に飛び込んでくるワードはどれもバカバカしいし、後先考えずに全力で演奏する中年たちの汗は美しい。また、しっかりパンクバンドのライブだけど、ヒリついた緊張感やモッシュの危険性も一切なく、曲終わりに「あ、(次は)オレだ!」と素で焦る宮藤の微笑ましい姿に温かい笑いが起きたりと、どこまでも平和なのも画鋲のライブの魅力。
「なんとなく知ってるお客さんがいるってバンドの感じになってきたね。『風俗へ行け!』とか、決まりがあるように合わせたり」(宮藤)と自然にMCを挟んで、上手いこと休憩しながら駆け抜けた24曲目のラストは、BOØWY「ON MY BEAT」のカバー。疲れも見せずに布袋寅泰ばりに足を上げ下げする宮藤や、曲が終わらないお約束のくだりを見て、「中学生のコピーバンドかよ!」と爆笑。ロティカのRYO(Gt)がMCで、「画鋲は中2のまま止まってますよね」と話していたが、「とにかくカッコいいことがやりたい! 面白いことがやりたい!」といった、まさに中2ライクな初期衝動が詰まったライブを見て、これを中年になった現在も本気でやれてるのがすごくカッコ良く見えたし、羨ましくも思えた。
そして、この日のトリはニューロティカ。カタル(Ba)の「Yes!ニューロティカ」の合図で、「やりたいことをやってたら、レ・ロマネスクの衣装に近づいたよ!」と、ピンクのピエロ衣装で登場したあっちゃん。「嘘になっちまうぜ」でライブをスタートして、ど頭からハイテンションなステージでフロアを沸かせると、勢いそのままに「翼なきもの達」へと続く。と、ここで予定になかったMCが入り、「もうちょっとハジケていいんだけどさ、今日はインパクト的に負けてるんで。どっかモヤモヤ感があるんですよ」とあっちゃんがボヤくと、「そうね、なんか浮足立ってるもん」と笑うカタル。「俺たちもインパクト付けようか? ズボン脱いで歌おうかな?」なんて言いながら、「バカになったもんの勝ちだ! どうだ、どうだ、どうだ!」と叫び、続く「憧れのRock'n Roll航路」が始まると、ナボ(Dr)のパワフルなツービートや、♪踊れや踊れ!と煽るあっちゃんに、「いらぬ心配は無用!」とばかりにフロアが大きな盛り上がりを見せる。今年59歳にもなるのに、こんだけバカになれるロックンロールピエロなんて、心配しなくてもインパクト十分です!
MCでは「なんだよ~、画鋲の時は下ネタで笑ってたじゃんかよぉ~!」と文句を言いながら、しょうもない下ネタで“ややウケ”を取り、ロティカを初めて見る人にもあっちゃんのキャラがよく分かったところで、「東京花火」へ。センチに歌い上げるこの曲で、「こんな歌も歌えるんだぜ」とギャップを見せ、会場中の手拍子から始まった曲は最新曲「涙腺グルグル」。ボヤキや自虐や情けないところもさらしながら、曲が始まればライブバンドとしての威厳を見せるロティカだったが。MCになると再び、美顔治療の話や毛生え薬の話で失笑を生んだりと、緩急付けたライブ(?)で観客を大いに楽しませ、大いに戸惑わせる。
「五十の夜」、「永遠ピエロ」と続いた終盤戦は、ピエロとして、パンクバンドとしての覚悟や悲哀や誇りを歌ったちょっぴりシリアスな曲が続き、本編ラストは前進前進、また前進! な「やっちゃえ!」でポジティブに勢いよく駆け抜ける。アンコールでは、画鋲とレ・ロマネスクをステージに呼び込み、「3日前にお願いした」という画鋲の演奏による貴重すぎる「チョイスで会おうぜ」で、♪チョイス!チョイス! と会場中が声を合わせて飛び跳ねて、楽しく賑やかにフィニッシュ! 「楽しいね、この3組!ツアーやろうよ、3箇所くらい。順番シャッフルしてさぁ」と言うあっちゃんに、本気なのか社交辞令なのか、「周りましょう、周りましょう」と答える宮藤。確かに一夜限りの幻みたいなイベントにするにはもったいない、奇跡のスリーマン。再び3組が集結し、地方でも見れる日が来るかも!?