LIVE812 presents Get The Classics ASKA premium concert tour-higher ground-アンコール公演
2022年1月7日(金)府中の森芸術劇場
人と人の絆がこんなにも美しくて力強い音楽を生み出すのか。感動と驚きが同時にやってきた。胸の内側から激しく揺さぶられ続けた夜となった。ASKAの「ASKA premium concert tour-higher ground-アンコール公演」ツアーの初日となる1月7日の府中芸術の森劇場の公演を観た。
今回のツアーは本来ならば昨年9月からスタートする予定だったのだが、コロナ禍の影響で延期となり、1月7日からの開催となった経緯がある。大きな特徴となっているのはASKAとバンドと弦楽ストリングスによる“三位一体”のコンサートであることだろう。前回のツアーでも同様の編成でステージが行われたが、あらゆる面でさらに進化していると感じた。より高く、より深く、より力強く、そしてより美しく。
オープニングの「Overture」から一気に引きこまれた。ソロ演奏をフィーチャーし、これから始まるライブへの期待を高める見事な導入部だ。奏でられる旋律の数々によって、ゆっくり会場内に音楽のエネルギーが満ちていく。「待たせたね〜」というASKAのおなじみの言葉が本編の始まりの合図だ。盛大な拍手と熱烈なハンドクラップが加わって、ライブが始まった。前回のツアーの大阪・熊本公演中止と今回のツアーの延期からの開催という事情があり、「待たせたね〜」という言葉の説得力がさらに増していた。だが、待っただけの甲斐のある素晴らしいコンサートだ。
ASKAのエネルギッシュな歌声とバンドとストリングスのダイナミックな演奏によって、開放感あふれる世界が出現していく。1曲目から全開。<ここを越えて 愛に答えろ>というフレーズを体現するような全身全霊の歌と演奏だ。2曲目ではタフさとしなやかさを備えたASKAの歌声が気持ち良く入ってきた。前に向かって着実に進んでいくような推進力を備えた演奏によって、こちらまで気合いが入っていく。3曲目ではASKAの伸びやかでやわらかな歌声に包まれて温かな気持ちになった。“ストリングスも含めて1つのバンド”と言いたくなる一体感あふれる演奏も見事だ。しかも個々のミュージシャンの“個の魅力”と“チームの魅力”とが絶妙のバランスで両立している。この日のライブのさまざまな場面で、ミュージシャンの見せ場も用意されていた。演奏メンバーは澤近泰輔(Pf、編曲)、鈴川真樹(Gt)、是永巧一(Gt)、荻原基文(Bs)、SATOKO(Dr)、SHUUBI(Cho)、一木弘行(Cho)という7人に加えて、弦楽アンサンブルのGet The Classics Stringsという編成。
「笑って歩こうよ」「僕のwonderful world」など、ここ1、2年で発表された新しい曲たちも演奏された。音源として聴いていた時にも名曲だと認識していたのだが、ライブという場でこの編成で披露されることによって、さらに歌が本領を発揮していた。新しい曲たちの魅力を再認識・再発見する瞬間がたくさんあったのだ。いや、新しい曲だけではない。お馴染みの曲にも新たな表情や新たな意味が加わっていた。
この曲が来たか! そんな新鮮な驚きの連続。近年のASKAソロ曲はもちろんのこと、90年代のASKAソロ曲やCHAGE and ASKAの曲から選ばれた“今のありったけ”の数々が披露されていく。前半は前回のツアーではやっていない曲が立て続けに演奏される構成となっていた。どの歌も今の時代にリアルに響いてくる。
中盤は壮大な広がりと内省的な深みを備えた曲が続く展開だ。曲の最初から最後まで緊張感を持続していく歌と演奏が見事だったのはASKAソロの90年代のナンバー。クールでハードな空気感をブルージーなギターとソリッドなストリングスがクールでスリリングな空気を生み出していく。ストリングスは一般的には“優美で繊細”という印象があるかもしれないが、荒々しさや激しさを表現することもできる楽器である。ロックなストリングスがバンドサウンドと絶妙に融合している場面もあった。澤近泰輔のアレンジの妙もこのツアーの聴きどころのひとつ。ASKAとバンドとストリングスとが三位一体となることで、壮大な歌の世界がさらに広がりを見せていたのは「PRIDE」と「歌になりたい」だ。スケールの大きな歌と演奏はこのツアーの醍醐味のひとつ。SHUUBIと一木弘行のコーラスが歌の世界を広げていた。声出し不可ということで、一緒に歌うことが出来ない観客の分まで、心を込めて歌っていることが伝わってきた。
今回のツアーの大きな要素のひとつになっていたのはドラムのSATOKOの参加だろう。ツアーが延期になってなければ、彼女の参加はなかった。ASKAの盟友であり、前回のツアーでドラマーとして参加していた菅沼孝三が昨年11月に他界し、「ASKAさんをたのむ」との遺言を娘のSATOKOに残したことからASKAバンドのドラマーとしての参加が決定したのだ。“手数王”として知られた父親のドラムセットを使用しての参加。楽器だけでなく、手数王のDNAも健在。さまざまな思いをエネルギーに変えていくような演奏は見事だった。受け継いだものと自らが切り開いたものがミックスされていた。彼女のプレイがASKAはもちろんのこと、メンバーに与えた影響もかなり大きかったのではないだろうか。
ハイライトに次ぐハイライトという展開だったのだが、そのハイライトのひとつとしてSATOKOのドラムソロコーナーがあった。ここでは驚きの演出が施されていて、会場内が大きな感動で包まれたのだ。まさかスティック回しに涙することがあるとは思わなかった。
本編の後半は感動をさらにエネルギーに変えていくようなASKAの歌と演奏が展開された。コロナ禍という今の時代とシンクロするようなリアルな歌声。ASKAのボーカルが困難な時代に光を灯していくようだと感じる瞬間がたくさんあった。例えば、個人的にも大好きな曲「月が近づけば少しはましだろう」。ストリングスの調べが月の光のように降り注ぎ、ヒューマンなASKAの歌声が内面の深いところに届いてきた。渾身のフェイクも圧巻だった。これまでにライブで何度も聴いていた曲だが、これまででもっとも確かな光を放つ希望の歌として響いてきた。
「この時代に、ここに一緒にいることに何かの意味があるんだと思います。大変なこともいっぱいあるでしょう。でもとりあえず、一緒にくぐりぬけていこう」
そんなASKAからのMCもあった。本編のラストのナンバーでは観客のハンドクラップも加わって、明るい空気が会場内に充満していく。音楽のかけがえのなさがダイレクトに伝わってくる熱くて温かなフィナーレだ。ハンドクラップが熱烈な拍手へと変わっていった。だが、これで終わりではない。感動と驚きはアンコールでも続いた。アンコールの1曲目は「パラダイス銀河」。ASKAが作詞作曲した1988年の光GENJIの大ヒット曲だ。演奏が始まった瞬間に、サイレントではあるのだが、息を飲むような、大きなどよめきの波動が伝わってきた。もちろんすぐに割れんばかりのハンドクラップが加わっていった。「パラダイス銀河」という曲の持っているハッピーな高揚感ととともに、「みんなを笑顔にしたい」というASKAの思いも伝わってくる。“ありったけ”と“しゃかりき”のミラクルな化学変化が素晴らしい。
そして「WALK」。ASKAの歌もバンドとストリングスの演奏も特別としか表現のしようがない。<君を失うと 僕は止まる><いつも側に居て 勇気づけて>というフレーズに新たな息吹きが吹き込まれていた。ドラマーが泣きながら演奏していた。いや、きっと泣いていたのは彼女だけではないだろう。ステージ上の全員の思いがひとつに重なって、奏でられた特別な「WALK」だ。この夜、チームの全員がまるで家族みたいだなと感じる瞬間があった。メンバーの奏でる音が人間味にあふれていて温かかったからだ。手数王が守護神のように見守っていたのだろうなと感じるステージでもあった。
終演後に観客に挨拶するASKAとメンバーに対して、拍手が鳴り止まなかった。「行ってまいります!」というASKAの言葉にも大きな拍手。ツアーに向けてのインタビューで、「今のありったけ」とASKAが抱負を語っていたが、まさにその言葉どおりだった。「今のありったけ」とは「かつてのありったけ」を全力で凌駕していくこと、そして真摯に音楽という形にしていくこと。ありったけで臨むからこそ、観客を勇気づけ、笑顔にし、そして泣き顔にするライブになっていくのだろう。
会場の外に出て空を見上げると、月が出ていた。熱気あふれる空間から冷気の中へ、マスクをした状態で移動してメガネが曇っていたためか、それとも網膜の表面の水分の含有率がいつもよりも高かったためか、月がにじんで大きく見えた。つまり月は(物理的な理屈はともかくとして、心理的には)近づいていたのだ。