「決意」を伝えた21曲──ハルカトミユキ、2016年最初の挑戦
ワンマンとしては、昨年10月3日の日比谷野音フリーライブ以来となる、東名阪ツアーの1本目、赤坂BLITZ。日比谷野音の前は、ハルカとミユキふたりだけで「どこへでも歌いに行きます」と路上や終演後のライブハウスなどあちこちへ出かけてはフリーライブを行い、自分たちが出演したイベントでもしていないイベントでも出口で野音のフリーチケットを配るなど、DIYな活動を展開。それが功を奏して日比谷野音は見事満員になったが、そのDIYっぷりはそこで終わらず、この赤坂BLITZのチケットもふたりで手売りを行っていた。前日にハルカ、「1日って早いなー。明日の今頃はもう歌ってるんだな」とツイートしたりして、この日にかける並々ならぬ気合いがうかがえたが、当日の開演時刻を迎え、ミユキ&ギター:松江潤&ドラム:中畑大樹&ベース:TATSU に代わり根岸孝旨(なんちゅう豪華なトラだ!と思いました)、に続いてステージに現れた彼女は、全身から青い炎を放っているかのような、はりつめたオーラをまとっている。笑ってるのでも怒ってるのでも困ってるのでもない、「気合い入ってる」という言葉を人の顔に置き換えたような、すごい表情。
1曲目、「恋は魔法さ」でスタート。「絶望ごっこ」「シアノタイプ」「マネキン」「バッドエンドの続きを」「new moon」「September」──と、ずっしりと、みっちりと聴かせるタイプの曲を続けていく。フロアもそれに呼応してか、みんな身じろぎもせずにステージを凝視している。
その空気が動いたのは、8曲目に歌われた「肯定する」。ふたりにとってターニングポイントとなった、重いテーマに正面から向き合って聴き手を解放へと導くこの曲で、フロアの空気も、ステージの空気も、フワッと軽くなったように感じた。
続く「青い夜更け」、そして最初の代表曲「Vanilla」で前半のピークを作り、ここ以降は後半、と言っていいくらいはっきりとトーンが変わる。ふたりもフロアをあおりながら、アグレッシヴな曲をセットリストに織り交ぜていく。「世界」、CMJK(プロデューサー・アレンジャー/元電気グルーヴ・Cutemen・Confusion など)と共作した「ワールドワイドウエブは死んでる」、「ニュートンの林檎」、そして「プラスチック・メトロ」からもっともハードな「振り出しに戻る」へ。
ギターを置いてハンドマイクでフロントまで出ていくハルカ、時に演奏を放棄して踊りまくり走りまくるミユキ。こんなアッパーなハルカトミユキ、初めて観た気がする。フロアから突き上げられる拳の数が、どんどん増えていく。
「宇宙を泳ぐ舟」「tonight」「火の鳥」の3連打で、本編終了。えっもう終わり?まだ12,3曲ぐらいしかやってなくない? 数えた。しっかり19曲やっていた。というくらいあっという間に感じた。曲名を告げたりした程度で、MCが皆無だったせいもあると思うし、ステージから放たれている熱量がそう感じさせたのもあると思う。
アンコールで披露されたのは、「ドライアイス」、そして「LIFE」、と、ハルカトミユキの決意や意志や存在意義や目的などがそのまま歌われたような、決定的な2曲だった。再び身じろぎもせず聴き入り状態に戻ったオーディエンスにお礼を言ったハルカ、7月27日にニューアルバムをリリースすることを発表し、ツアーのファイナルを9月24日に日比谷野音で行うことを改めて伝え、ステージを下りた。
客電が点き、2,3分くらいかぼーっと余韻に浸ったあと、ロビーに出ると、さっきまでステージにいたハルカとミユキがさーっと目の前を横切って行った。え?と思ってふたりが行った先を見ると、日比谷野音のチケットを求める長い行列が。即座にデスク前に立ち、ひとりひとりと会話しながらチケットの手売りを始めるふたりを見て、「これがあたりまえになってるのってすげえなあ」と、改めて思いました。
●Report/兵庫慎司
●Live photo/Kazumichi Kokei