9月8日、幕張メッセ国際展示場4〜6番ホールで開催された吉川晃司の35周年ツアーのファイナル公演は、記憶に深く刻まれるスペシャルなステージとなった。台風15号が関東に接近する緊迫した状況の中、1万2千人の観客が集結して、熱狂的かつ感動的な空間が出現したからだ。
「台風なんざ寄せつけやしません。台風あっちいけの念を出しています」という吉川の言葉がこの日のライブを象徴していた。観客の安全への気づかい、感謝の念など、様々な感情を胸に抱きながら、吉川はすべての思いを音楽へと昇華させるべく、ファイナルにふさわしい見事なステージを展開した。
2月1日と2日の日本武道館公演からスタートして、全国18都市19公演、6万5千人を動員したツアー。吉川とともにステージに立ったのは生形真一(Gt)、ウエノコウジ(Ba)、湊雅史(Dr)、ホッピー神山(Key)の4人。少数精鋭のメンバーによる完成度の高さと自由度の高さを兼ね備えたバンドサウンドも大きな魅力のひとつだ。しかも回数を重ねるごとに、さらにブラッシュアップされていた。
今回のツアー、オープニングSEで「月光浴」が流されてきたのだが、ファイナルということもあってか、生で演奏されて、どよめきが起こった。吉川が登場すると、さらにその声が大きくなっていく。オープニング・ナンバーの「Juicy Jungle」では緑色のテープが発射されて、お祭りムードが色濃くなった。吉川が踊りながら歌い、観客もテープを振りながら踊り、歌っている。ライブが始まった瞬間から会場内には濃密な一体感と高揚感が漂っていた。COMPLEX時代の「BE MY BABY」、80年代のヒット曲「LA VIE EN ROSE」と、序盤からクライマックスのような盛り上がりだ。
「ごきげんよう! ファイナルの日がやってきました。歌う阿呆、演奏する阿呆と観る阿呆、同じ阿呆なら?」と吉川が観客に問うと、すかさず客席から「踊らにゃ損々」との返答。吉川と観客との意思の疎通はきわめて良好だ。
「35周年なんで、懐かしいあんな曲からそんな曲までやっていきますよ。17歳の時に弾いていたギターです。まだ元気です」という言葉に続いては、デビュー当時愛用していたネックのないギターを弾きながら、「You Gotta Chance〜ダンスで夏を抱きしめて〜」を披露。35周年のステージならではのサプライズだ。さらに「にくまれそうなNEWフェイス」「RAIN-DANCEがきこえる」「サヨナラは八月のララバイ」と初期のヒット曲が立て続けに演奏されていく。吉川の歌声もパフォーマンスも80年代当時を彷彿させるようなフレッシュなパワーがみなぎっている。バンドの演奏も原曲のテイストを活かしながらも、今の息吹きが吹き込まれていた。懐かしさとみずみずしさとが共存する歌と演奏が見事だった。
今の吉川だからこその歌声を堪能したのはミディアム・ナンバーが続く中盤だ。花道からセンターステージへと移動して、ホッピー神山のキーボードをバックにしての「I'M IN BLUE」では寂しさや情けなさをさらけだしていくような歌声が見事だった。人間の弱さをこんなにも繊細かつ緻密に表現していけるところに、歌い手としての吉川の懐の深さが表れていた。包容力あふれる歌声に聴き惚れたのは「ONE WORLD」。前半のハイライトとなったのは「Dream On」だ。吉川のタフな歌声とバンドの骨太な演奏が一丸となって、崇高なエネルギーを生み出していく。闘い続けている人間が歌うからこそ、この曲が光り輝いていく。エンディングで吉川がいったんステージから去って、バンドがイマジネイティブなセッションを展開。ここでの自在な演奏も聴きごたえがあった。
再び登場した吉川がギターで参加してのエンディングからそのまま「MODERN VISION」に入っていく構成も鮮やかだった。吉川と生形のギターのかけ合いもスリリングだ。「Nobody's Perfect」では吉川が映画『仮面ライダー』シリーズで演じた鳴海荘吉を想起させるハットをかぶって、スケールの大きな歌声を披露。曲が終わると、シンバルキック用のシンバルの上にハットを乗せていた。まるで狼煙のように火柱が上がって始まった「SAMURAI ROCK」、吉川と生形のダブルギターが全開となっていく「HEART∞BREAKER」と、気迫あふれる演奏が展開されていく。吉川と交互に生形がボーカルを取る場面もあった。ここからはノンストップでたたみかけていく予定だったのだが、吉川のイヤーモニターが壊れるアクシデントがあって、しばし修理のために中断。
「壊れたっていうか、壊したかな。(音が聞こえなくて)歌えなかったら、みんな、歌ってよ、頼むわ」と吉川が言うと、観客がウォーと応えた。「1990」では豪快かつ爽快な歌と演奏に導かれるように、観客もシンガロングで参加。「アクセル」でも吉川が激しいステージ・パフォーマンスで観客をあおっていた。悲鳴にも似た歓声が起こったのは「モニカ」だ。デビュー当時を彷彿させるタンクトップ姿で軽快なステップを踏みながらの歌に、観客が飛び跳ねて、全身で喜びを爆発させながら歌っている。「サンキュー!」と吉川が連呼すると、悲鳴にも似た声があがった。ウエノの骨太なベースで始まった「恋をとめないで」でも大きなシンガロングが起こった。歌詞の一部を変えて、<ファイナルの夜だろ>と歌うと、幕張メッセが歓喜と感動に包まれ、ひとつになっていく。
吉川がギターを手にしての「The Gundogs」「GOOD SAVAGE」では野性味あふれるバンドサウンドが炸裂。吉川、生形、ウエノの3人がステージの前に出て並んで演奏する光景は壮観だ。生形もウエノもシャウトしている。メンバー全員が気迫あふれる渾身の演奏を展開。本編ラストの曲は吉川がデビュー10年の節目で作った「BOY'S LIFE」だった。吉川が上手へ下手へと歩きながらハンドマイクで歌っている。この曲の歌詞の<手遅れと言われても、やれる気がしてるのさ><いつまでも夢みたい>というこの歌の内容は35周年の今も有効だ。「愛してるぜ!」とシャウトして、大歓声と盛大な拍手の中、本編は幕を閉じた。
アンコールで登場して、吉川からこんなMCがあった。
「よくぞ、みなさん、集まってくださりました。来年のツアーもやります。新しいホールが(東京ガーデンシアター)できるので、そこで5月に3daysやる予定です。そこからツアーが始まります。来年もしっかり音楽をやっていきたいと思っています」とのこと。
アンコール1曲目は水球日本代表Poseidon Japan公式応援ソング「Over The Rainbow」。七色の光が降りそそぐ中、伸びやかな歌声が鳴り響いた。さらに「SPEED」、「せつなさを殺せない」へ。吉川の歌声に観客も熱烈に応えてシンガロングしている。最後はやはりシンバルキックでのフィニッシュ。何回か空振りしたのだが、そこでも大歓声が起こった。この日歌われた歌の中には愛とともに不屈の精神が宿っていた。
「ありがとう。また会う日まで。気をつけて帰ってください」と最後の挨拶。吉川と観客との絆の深さをまざまざと感じた夜だった。ツアー後にはアルバムの制作も本格化する予定だ。ファイナル公演は大きな節目であると同時に、新たなる始まりの第一歩でもあるだろう。
SET LIST
01. Juicy Jungle
02. BE MY BABY
03. LA VIE EN ROSE
04. You Gotta Chance〜ダンスで夏を抱きしめて〜
05. にくまれそうなNEWフェイス
06. RAIN-DANCEがきこえる
07. サヨナラは八月のララバイ
08. スティングレイ
09. I'M IN BLUE
10. ONE WORLD
11. Dream On
12. MODERN VISION
13. Nobody's Perfect
14. SAMURAI ROCK
15. HEART∞BREAKER
16. 1990
17. アクセル
18. モニカ
19. 恋をとめないで
20. The Gundogs
21. GOOD SAVAGE
22. BOY'S LIFE
EN
01. Over The Rainbow
02. SPEED
03. せつなさを殺せない