BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark
2019年8月20日(火)新木場Studio Coast
全国ツアーにドーム公演とライブハウス公演が入り混じり、そこに違和感を持たせないバンドは、日本ではBUMP OF CHICKENくらいではないだろうか。彼らにとって約3年5ヶ月ぶりのフルアルバム『aurora arc』。計18本にわたるそのリリースツアー「TOUR 2019 aurora ark」は3万6千人規模の埼玉県のメットライフドーム2days公演からスタートし、ファイナルとして11月3、4日に東京ドーム2days公演が予定されている。同ツアー7、8本目となる8月20、21日、新木場Studio Coast公演でバンドは一時東京へと帰還。その1日目となる8月20日公演は、ライブハウスならではの活力にあふれたライブとなった。
暗転するやいなや観客たちも前へ前へと押し寄せる。メンバーも安全を気遣い、「みんなで助け合って仲良く楽しみましょう」「つらくなったらすぐ助けを呼びましょう、周りのみんなも助けましょう」と呼びかけながらも、観客のありあまるほどの熱量に興奮しているよう。いきなり蓋の空いた水のペットボトルを軽やかに客席に投げ込んで観客を驚かせるなど、ライブハウスで育ってきたバンドらしい、いたずら好きの少年のような顔も覗かせた。
ライブハウスという距離感は、彼らの音楽活動に対するマインドをダイレクトに感じさせてくれるものだった。さまざまな演出を盛り込んでいるとはいえ、ステージングの大きな主軸は4人の演奏。観客の呼びかけも届きやすく、言葉でもコミュニケーションを取りながらフランクにその場を楽しむ彼らの姿も微笑ましい。「Butterfly」では直井由文(Bass)が終始観客へ語り掛けるようなパフォーマンスをし、升秀夫(Drum)も曲中で立ち上がりクラップを煽る。増川弘明(Guitar)も観客と視線を合わせてのびやかにギターを弾いた。一抹の憂いを感じさせる美しいメロディと繊細なギターフレーズが華やぐ同曲は、観客の声が入ることでさらに新たな彩りを加える。歓喜の感情のもと放たれるアウトロの音像の迫力はまさに圧巻だった。
その手腕は鮮やかなギターが鳴り響く「オンリーロンリーグローリー」でも発揮。BUMP OF CHICKENはいつの時代も、どんな闇のなかであっても必ず光があることを教えてくれるバンドだ。4人の音と藤原基央(Vo.&Gt.)の言葉があれば無敵になれるような感覚や、その音を全身で求める観客の姿に、彼らの音楽が多くの人々の人生を照らしてきていることをあらためて実感した。
藤原は言葉を噛みしめて、観客に捧げるように歌を唄う。特に「話がしたいよ」は、こういう気持ちのもとステージに立っている、音楽を続けているんだと訴えかけてくるようだった。彼は前々から「観客の数のぶんだけ1対1がある」「“あなたたち”ではなく“あなた”に歌っている」という意識を持っていることでも知られているが、その思慮は年齢を経るごとに深くなっている。ただ「あなた」に歌っているだけではなく、「あなた」が貴重な時間を使って自分たちのライブに足を運ぶことに感謝をし、そんな「あなた」がどんな人間で、どんな生活をしているのかを知らないことに対して切なさすら感じてしまう――それほどまでに深い想像力と鋭い感受性がBUMP OF CHICKENの核なのではないだろうか。「流れ星の正体」の藤原のつぶやくようなソフトな弾き語りに3人の音が入り、観客の熱視線と想いが重なって曲の厚みが増していくという流れは、まさにこのバンドの音楽の在り方の象徴的シーンだった。
ドームという規模でも彼らのスタンスはきっと変わりはないのだろうが、やはりライブハウスという凝縮された環境はその純度が高い。観客の歌声や笑顔が届くと、それを受けて笑顔を見せるという一幕や、藤原が観客と拳と拳を突き合わせる場面も、ライブハウスならではの瞬発力が気持ち良かった。ライブ終盤では藤原が「ああ、あと10曲くらい演りたい!」と名残惜しさを語り、メンバーもこの日を迎えられた感謝と幸福を伝える。23年強にわたるバンド人生で様々な冒険を経てもなお、リスナーひとりひとりと向き合う姿勢を崩さず、これだけ優しさを持っている彼らなら、間違いなくこの先のツアーも、ライブハウスでもドームでもどんな場所でも、観客とともに充実した時間と音楽を作ることができるだろう。