甲斐バンド THE BIG GIG AGAIN 2016
2016年8月7日(日) 日比谷野外大音楽堂
TEXT:兼田達矢
PHOTO:三浦麻旅子
8月に入ると、「ブラウザを開くと必ず」と言ったある種、特殊な状況が続いていた。ブラウザを開くと必ず、甲斐バンドの日比谷野音公演のWOWOW生中継を伝える広告バナーが目に飛び込んでくるのだ。何も事情を知らない人でも、というか知らない人ほど余計に、8月7日に日比谷野音で行われるライブのことが気になったことだろう。
8月7日に日比谷野音で行われたことは、ひと言で言えば、伝説の更新ということだった。33年前の1983年8月7日、いまでは都庁の建物が建ってしまった場所に約3万人を集めて行われた、都市型フェスの先駆とも言える一大イベント“THE BIG GIG”のセット・リストを、2016年の甲斐バンドがその通りに演奏するというもの。この日のライブ・タイトルには“THE BIG GIG AGAIN”と、“AGAIN”という言葉が添えられていて、それは日本語で言えば“再現”ということになるわけだが、実際にそのステージを見た後では単なる“再現”ではない、やはり“更新”という言葉を使いたくなる。というのも、目の前に立った2016年の甲斐バンドの存在と演奏が圧倒的だったからだ。
基本的には、やはり33年前の“再現”が意識されていたと思う。アレンジも当時のままだし、最近のキャリア・アーティストのライブにありがちな途中休憩が挟み込まれたりせず、全23曲のステージを一気に駆け抜けていった。一部の曲でゲストとして土屋公平が登場したものの、彼のプレイも甲斐バンドの音をしっかりと補強する方向の演奏で、つまりは余計な演出など入れ込むことなくステージ全体が“甲斐バンドの伝説的なライブの再現”という一点に収斂されて、素晴らしいロック・エンターティメントとなった。その上で、そうした“再現”指向に忠実であるからこそ滲み出る、成熟したバンド性というものがあるだろう。“伝説の再現”というひとつの方向にメンバーそれぞれが自身の技術や経験を惜しみなく捧げ、だから全体のなかでそれぞれが生き生きと個性を発揮し、結果として躍動する大きな全体、すなわち「2016年の甲斐バンド」を表現してみせたのだった。
伝説の更新ということで言えば、地の利、時の利もあっただろう。33年前には新たな開発を待つ摩天楼街が感じさせる“新時代の予感”がライブに彩りを添えたが、この日は数々の名演も生んできた“ロックの聖地”が持つ神話性と緑濃い周囲の環境が新しい伝説の背景となり、さらには甲斐のMCの言葉を借りれば「歓声よりもうるさい」ほどの蝉時雨と優しく吹き抜ける風が2016年夏の印象をしっかりと刻印してくれる。
“THE BIG GIG”は33年の時の流れとともに正しく更新され、そして2016年8月7日、“THE BIG GIG AGAIN”という新たな伝説が語り継がれる最初の夜となった。