Mom presents 『PLAYGROUND』 release party
2018年12月6日(木) TSUTAYA O-nest
“クラフトヒップホップ”という独自のジャンルを名乗り、作詞、作曲、アレンジをはじめ、iPhone/Macのフリー・アプリ「GarageBand」を使ってのトラック制作、音源のミックス、カバー・アートワーク制作、MVの監督まで、ほぼすべてのクリエイティブをセルフ・プロデュースしている現役大学生の新人、Mom(マム)。
そんな期待の新人であるMomが、11月に発売したファーストアルバム『PLAYGROUND』のリリースパーティ「Mom presents 『PLAYGROUND』 release party」を、2018年12月6日(木)、TSUTAYA O-nestにて開催した。
Mom自身が大好きだという2組のアーティストーーさとうもか、betcover!! を迎えて行われた約2時間半は、彼自身がDIYで活動を行なってきたことを体現するような手作り感溢れるリリースパーティとなった。
まず、受付を済ませて会場に入ろうとすると、Mom特製のパンフレットが手渡された。
「友達や恋人との付き合いで仕方なくここに来ているという方も中にはいらっしゃると思いますが、全然怖いイベントではないですし、僕自身も“超”が付くほどの真人間ですのでご安心ください。それでは心ゆくまでPLAYGROUNDの世界を楽しんで!」
お客さん全員に楽しんでほしいという心配りに加え、Mom自身の言葉で書かれた出演2組へのコメントや似顔絵、その日の物販紹介、さらにはお手製の迷路まで、細かいところまで手が込んだパンフレットに、イベントへの親近感が湧いてくるようだった。
チケットはSOLD OUTしており、満員のお客さんで溢れた会場。冬の寒さとは対照的に熱気が溢れる中、さとうもか、betcover!! の2組がライヴで会場をより熱くさせると、この日の主役であるMomが登場。そこから約50分に渡るパフォーマンスを見せた。
Momの1stアルバム『PLAYGROUND』は、手作り感がありつつ非常にクオリティの高い作品だ。ほぼすべてをMacとiPhoneだけで作り上げたとは想像できないチルなトラックと多少のナードさを感じる作品だからこそ、たくさんのお客さんがいる前でどのようなライヴを行うのか、楽しみでもあり、その世界観が壊れてしまうのではないかという勝手な心配もしていた。
しかし、それは杞憂だった。
ライヴが始まって驚いたことは、Momの歌のうまさ。音源の世界観と遜色のない安定したピッチと芯の太さは、聴いていてとても心地よい。音源をそのまま再現しているというより、素のMomの歌声を加工しすぎることなく音源にパッケージした、と解釈したほうが適しているような地力を感じさせる歌声だった。
ライヴパフォーマンスは、パートナーのDJ nasthugがトラックを流してミックスをしながら、Momが1マイクで歌うスタイル。のっけからお客さんに呼びかけるような形で一緒に楽しもうという姿勢は崩さない。ときにお客さんに声を出すよう呼びかけながら一緒に盛り上がろうとしていく。最初はステージと客席に壁があったが、「Kiss」で「声出す練習!」といって「Kiss」のコールをしたり、横揺れのチルなトラックで徐々にお客さんたちの体が動いていくにつれて、会場の雰囲気が柔らかくなり、とてもリラックスした空間に変わっていった。
ステージを所狭しと動き周り、お客さんをしっかりみつめながら歌うMomの姿は、音源や写真でイメージする物静かそうな青年とは違って、自信に満ち溢れていた。
途中DJ nasthugがステージ裏にさがり、Momがアコースティックギターを片手に弾き語りをする場面では、お客さんにリクエストを求めながら、小沢健二の「いちょう並木のセレナーデ」をカバー。そして、自身の楽曲「東京」を弾き語りで歌った。もともとはギター少年で、コピーバンドを組んでいたこともあるMomだからこその表現スタイルで、50分のライヴをよりバラエティ豊かなものにしてみせた。
終盤、「輪ゴムになりたい話してもいいですか?」という一言からはじまったMCが印象的だった。
「ちょっと前に、落ち込むことがあって。そのとき、地元の自販機でネクターを買って飲みながら考えていたんですけど、人生ってプライベートとか仕事とかいろいろなものを、ストッパーで留めた1つの束でできているなって。もっと細分化したら、恋人とか、友人とか、上司とかあると思うんですけど、それをキュッと束にして人生というものはできている。でも、その何か一個がダメになったときに、(ストッパーの間に隙間ができて)全部落ちてダメになっちゃう。そのストッパーは人によるんですけど、映画とか、小説とか、音楽とか、そういうものだと思うんですよ。それを考えたとき、ストッパーの部分に輪ゴムがあったら中身が落ちないってことに気づいて、僕はいま超輪ゴムがほしいと思ったんです。それで、自分も人のために曲を書いてもいいのかなって思ったり、思わなかったり。今、新しいアルバムを作っているんですけど、そういう気持ちで作っているので、これからもこうやってライブに遊びにきてもらえたらと思います。明るくいこうぜ!」
自分のアイデアや作りたいものを愚直に音楽にしてきたMomが、自分以外に向けて音楽を作っていこうと宣言した、これからの活動を通してもターニングポイントとなるリリースパーティになった瞬間だった。同時に、そういう気持ちがあるからこそ、Momは終始、お客さんとともにこの場を楽しもうとしていたのだろう。
最後はアルバムから「夏の魔法'18」「Boyfriend」を歌い、お客さんたちがゆったり体を揺らし、各々にシンガロングしながらこの日のライヴパフォーマンスは全て終了した。
「ちょっと早いけどクリスマスプレゼントです。ありがとうございました!」とMomが話しステージを去ると、新曲「SUPER STAR」が会場のスピーカーから流れた。曲に合わせるかのようにステージ上に装飾されたキャラクターの目が光ると、客席から驚きと笑いが起こった。そんな和やかでやわらかい雰囲気の中、全員で静かに耳を傾け、アンコールの拍手が鳴り止まない事態も起こりつつ、リリースパーティは幕を閉じた。
アルバムをリリースしたばかりだが、ただ今制作中だという新曲がすでに待ち遠しくてたまらない。これからの活躍に一層の期待をしてしまう、手作り感とお客さんを楽しませようと終始工夫されたライヴだった。