インタビュー/長谷川 誠
LINDBERGの再始動後初となるニューシングル「EXTRA FLIGHT SINGLE」は今の彼らだからこその深みのある歌が並んだ素晴らしい作品となった。ピュアで大きな愛にグッと来たり、深遠な問いかけにハッとしたり、深い悲しみに揺さぶられたりする。全曲作詞は渡瀬マキで、平川達也作曲の「キミハキミ」、川添智久作曲の「パスポート」、小柳“Cherry”昌法作曲の「アタシは今すぐ愛するアナタを抱きしめる」の3曲が収録されていて、最新の彼らの息づかいが封じ込められている。これは新たなる飛行の始まりを告げる作品でもありそうだ。7月10日から“LINDBERG LIVE TOUR『HOP! STEP! JUMP! 2016』”がスタートして、8月5日には東京 TSUTAYA O-EAST公演も予定されている。ボーカルの渡瀬マキに新作とツアーについて聞いていく。
──ニューシングル「EXTRA FLIGHT SINGLE」は再始動後初の新作ということになります。そもそも新曲の発表は2009年12月以来なので、6年7か月ぶりということになります。
えっ、そんなになりますか(笑)。ライブのMCで「出すから出すから」と言い続けてきて、こんなに引っ張ってしまいました(笑)
──これだけ時間をかけたのはどうしてなのでしょうか?
かけたというよりも、かかってしまったんですよ。4人だけでやろうとしても、どうしようか?って思案したまま、まったく進まなかった。もともとLINDBERGって、自分たちだけでなくて、プロデューサーやディレクターがいて、一緒に進んでいく体制でやってきたバンドで。そういうやり方に慣れているというか、その方が向いているバンドなんだと最近気付きました。というのは、智ちゃん(川添智久)には智ちゃんのLINDBERG愛とLINDBERG像があり、Cherry(小柳“Cherry”昌法)にはCherryのLINDBERG愛とLINDBERG像があるから。タッちゃん(平川達也)にも私にも当然あるわけで。誰かひとりが先頭に立って進んでいけばいいんじゃないかって思われるかもしれませんが、そうすると、バンドのバランスが崩れてしまう。制作作業は続けていたんですが、具体的な形にするには4人だけでは難しくて、どうしたらいいのか考えていたら、こんなに時間がたってしまいました。結局、バンド以外の人間が必要なんじゃないかという結論に至り、LINDBERGの生みの親であり、私たちがデビューした時からのプロデューサー(月光恵亮氏)に「LINDBERGと久々にやってみない?」って連絡して、ようやくスタートを切ることが出来ました。
──制作していく上で、以前と変化したことはありましたか?
プロデューサーとは何十年かぶりに一緒にやったんですが、とんとん進んでいく感じがまったく変わってなくて、スタッフが驚いてました。「よくあの説明で通じますね」って。ツーと言えば、カーみたいな感じで、スムーズに理解してスムーズに進行していきました。
──それは積み重ねてきた歴史があるからなんでしょうね。ライブも再始動する前と後でそんなに変わらない感じですか?
変わらないですね。ただ年を重ねて体がちょっと動かなくなってきて、ジャンプの高さが低くなったというだけで(笑)
──25周年のライブビデオを見ていても、バンドの絆の深さがうかがえました。
間は空いているんだけど、絆みたいなものはありますよね。もちろん小さなケンカみたいなことはありましたけど、根底でそれぞれがLINDBERGというバンドを愛していますから。だからこそ、それぞれの独自の活動もできるということだと思います。
──スタジオでのメンバー間のやりとりで変化したところは?
それもまったくなく、なんの滞りもなく。だいたい曲の作曲者が「ベースはこうしてほしい」「ドラムはこうしてほしい」ってリクエストするところから始まって、みんなでアイディアを出しながら進んでいくんですが、その感じもまったく変わってなくて。ただ、器材が昔とは違って、進化しているので、驚いているというのはありました(笑)。「えっ?パソコン1個だけでいいの?」って(笑)。今時のレコーディング風景に驚いているぐらいですね。
──それ以外は変わっていないところがらしいというか。それがバンドといういものなのかもしれないですね。
そうだと思います。
──シングルの2曲目の「キミハキミ」は去年のツアーでも披露されていましたが、いつぐらいからあった曲なんですか?
曲自体は去年の春くらいにはあったと思います。それをどういうアレンジにしていくか、プロデューサーを交えて作っていきました。
──久々の新曲の一発目ということでの重みもあったと思うんですが、そのあたりは?
たまたまこの曲が一発目になったんですが、メンバーそれぞれが作った新曲を3曲出そうということになっていて、この曲が先に完成したというだけなんですよ。
──ピュアで大きな愛が描かれた素晴らしい歌だと思いました。「キミハキミ」のサウンドが上がった段階で、どういう歌詞を書こうと思ったのでしょうか?
今、私は何を歌えばいいんだろうってずっと考えていたんですよ。“Belive in Love きっと誰もが悲しみの夜をのりこえて”的なことはもう100曲以上書いてきたし、そうした曲って、20代前半〜後半にかけての私の感覚に基づいて書いたものだったんですが、今は二人子どもを産んで、子育て真っ直中の47歳の熟女(笑)なわけで。今の自分が何を書こうかっていう時に、結局、これまで経験してきて、今感じていることしか書けないので、女性であり、母親でありという部分を素直に出してもいいんじゃないかと思って書き始めました。
──“壊してしまわないように つないでいた手を離した”というフレーズも胸にせまってきました。
自分の子どもとは言え、いち人間であり、いつか独り立ちして、私の手を離して、巣立っていくわけなので、そういうことも引っくるめて描いていこうと思っていました。この曲のキャンペーンで名古屋に行った時にインタビュアーの方がたまたま子育てまっただなかだったんですが、その方はズバリ、「子育てしている私にはグッと来ました」って言ってくださって、あっ、伝わったんだなって。自分としてはあえてパーソナルなところで書いていったんですが、恋愛中の人にはまた違った感じでとらえられるかもしれないし、いろんな愛としてとらえてもらえたらいいなあと思っています。
──パーソナルなことを深く描いているからこそ、普遍的に響いていくということなんでしょうね。温かみのあるラップで始まっていくところも新鮮でした。
過去にもアルバムの中ではラップ調のものや16ビートのものも結構やっているので、アルバムを聴いてきているファンの人たちにとってはそんなに大きな驚きはないかもしれないですけどね。私たちの中ではもともとある要素の中のひとつを出し切ったというところはあります。
──アルバムではなく、シングルでこういう作品を発表しているというところが違いということになるかもしれないですね。
確かに一般的なLINDBERG像とは異質な曲調ではあるので、そこでまた違った印象を持っていただけたら、それはそれでうれしいですね。
──27年やってきて、歌い手としての意識で変わってきたところはありますか?
子どもを産んで、筋肉もちょっと衰えてきて、というところはあると思うんですよ。衰えることに反抗することはできないですから、まずそれを受け入れるところから始まりました。でもいろんな経験を積み重ねてきたわけで。昔のように歌いたいと思っていなくて、今の私の歌を録れたらそれが最高と思っていました。
──ニュアンス豊かな歌声が素晴らしいなと思いました。1曲目の「パスポート」も生と死という深遠なテーマを描いた深い曲です。
年齢的にも死というものが身近になってきて、そういう黒くて大きなものを意識する機会が増えてきました。多分、今回の3曲に共通しているのは身近なパーソナルなとこを描いていること、そしてそのパーソナルなことと大きな愛とか死とかいったことが対比されていることだと思うんですよ。大きな愛、死、深い悲しみと私の小さな愛の対比を意識していました。「パスポート」は実在する女性と男性がきっかけで書いた曲です。結局どんなにお金を持っていても、ダイヤモンドを持っていても、死ぬ時には持って行けないし、誰とどうやって生きてきたか、どれだけ愛しい大切な思い出があるかが大事なんじゃないかなって。もちろん今を生きることは大事なテーマだけど、過去の思い出があるからこそ、今、やっていけるというところもあって。そのためには結局、今を生きなきゃいけないってところに繋がってくるんですが、そういうことを改めて書くことによって、自分でも確認したかったというか。私は平川達也と結婚しているじゃないですか。彼を見ていると、ちょっといいカバンが欲しいなとか、ちょっといいアクセサリーが欲しいなと思う自分を恥じてしまうところがあって。
──平川さん、無欲な方なんですね。
そんなことはどうでもいいという生き方をしている人なんですよ。もちろんお金も大事だと思います。生活できなかったら、困りますから。だけど、仲間と友達と家族の中で十分、豊かに暮らしていけるということを、彼と接していると思い知らされるというか。そう言いつつ、友達と買い物に行って、“このバッグいいね”ってタッちゃんの顔を思い浮かべながら買ってしまったりするんですけど(笑)。でも基本的にはそういうことはずっと思っていて、やっと今回、歌詞に書けました。
──虚無感や無常観が漂っていたり、独特の浮遊感があったり、でもサビではポジティヴで力強さもあったり、様々なニュアンスが詰まっている奥の深さ、幅の広さも魅力的です。
今、そういう時期なのかもしれないですね。またちょっと時間がたったら、違うものが出てくるのかもしれないですが、どの曲も“Now:LINDBERG”はこんな感じですってものになった気がします。
──Re:LINDBERGからNow:LINDBERGへということですね。3曲目の「アタシは今すぐ愛するアナタを抱きしめる」からは今の時代に対する悲しみや怒りも伝わってきました。
これもホントに対比ですよね。私は息子が生まれたばっかりの頃に911のテロがあったんですが、その時、レコーディングしていて書いた曲「our love」の歌詞をでも“くずれ落ちてく ふたつのビル”と“隣で眠る小さな手の温もり”という言葉を対比して描いていきました。パーソナルな愛がそれぞれの中にあったら、ああいうことは起こらないのにな、みんな、幸せになりたいのに決まっているのに、どうしてこんなことになっちゃうんだろうって日々思っていて。全員が隣の人を愛したら、戦争なんか起こらないはずなのに、どうして出来ないんだろうっていう不条理さへの怒り、憤りから生まれた歌詞ですね。
──歌詞とオルタナティブでノイジーなサウンドも見事に連動していますね。
きっと私たちのファンの人たちはこういう曲、好きだと思いますね。
──久々のシングルが完成した今、思っていること、感じていることはありますか?
今はともかく“Now:LINDBERG”を早く届けたいですね。まだちょっと先やけど、30周年も待っているから、今から準備して行かなきゃいけないと思ってます。
──このシングルを作ったことによって、バンドは新しい扉を開けたのではないかと思うのですが、そのあたりは?
次は今回の作品とは全然違う世界観が出てくるかもしれないし、自分でも楽しみですね。今までやってこなかった対バンライブもやってみたい。私たちもとっくにそういうことも楽しめるお年頃になっていたというか。新しい刺激をたくさん受けたいし、新しいことを積極的にやっていきたい。“LINDBERG、そういうこともやるんだ。だったらオレらも声をかけてみよう”って、ことになるかもしれへんし。そうすると、友達も増えるし(笑)
──ツアーはどんなステージにしていきたいと思っていますか?
きっちりLINDBERGの歴史を見せたいですね。『HOP! STEP! JUMP! 2016』というタイトルが付いているので、3部構成ではないけれど、初期、中期、後期みたいな流れが見えてくるものにしていきたいです。
──歴史が見えるということは、代表曲以外のレアな曲もやったりするのでしょうか?
惜しみなくいろんな曲をやっていこうと思っています。ずっとやってなかった昔の曲もやろうと思っているので、“どうやってたっけ?”ってリハーサルというよりもリハビリしつつ(笑)、最新の曲もやりつつ。レアな曲もメッチャあるので、ファンにとってはぞわぞわした感じのコンサートになると思います(笑)