若いころとは全然違いますね。そもそも20代のころはライブがあまり好きじゃなかったんですよ。得意じゃないし、好きじゃなかった。本来、ボーカルに向かない性格っていうか。ボーカリストって、エンターテインメントという稼業ができないと、いけないポジションなんだけど、俺は音楽が好きなだけですからね。
ライブでもボーカリストだけはずっとお客さんのほうを向いているわけで、ボーカリストだけは客商売なんですよ。でも客商売に興味がなかったもんだから、昔はライブが全然好きじゃなかった。普通だったら、俺みたいな性格のヤツはステージに立つのをやめて、裏方に引っ込むんでしょうけれど、意地っ張りなので、ロック映えのする音楽、ステージ映えのする音楽が好きなのに、ライブをやらないのはどうなのよって、つい意地になってやっているうちに、だんだん楽しくなってきた(笑)。で、30過ぎてからやっと“楽しいぞ”っていうのがわかってきて、ホントに楽しくなったのは実は40過ぎてからですね。それからはずっと楽しいです。
ライブって、お客さんとステージ上の人間とで同じ時間を共有するってことなんですよね、それってすごいことだなって。だから共有した時間が楽しい思い出にさえなってくれればいいわけですよ。一番大事なことは俺の音楽を聴かすってことじゃなくて、とにかく楽しかったという思いが残ってくれることなわけで。それは演奏中じゃなくて、しゃべっている瞬間かもしれないし、俺がこけた瞬間かもしれないし。実際に昔観たあるライブで、単にこけただけなんだけど、かっこいいなっていうのが記憶に残っていたりするわけで。楽しい思い出、素敵な思い出として残せることが重要なんですよ。当然、音楽としても最低限ちゃんと演奏しないと、話にはならないわけですけどね。俺が40過ぎてわかったことなんて、エンターテイナーの人は最初から感覚としてわかっていることだと思いますけど。
アルバムに関しては、前の作品からもう5年も経ってるんだから、いい加減だそうよっていう気持ちもあったし、還暦ということも少しは関係があるかもしれませんね。
『サザエさん』の波平って、確か54歳だったと思うんですが、自分が子どもの頃にイメージしていた60歳とは全然違うなってことは思いますね。えっ、60かよ、びっくりだなって(笑)。人生は有限なものだから、その中で何が出来るのか、という認識は常に持っているべきだとは思っていたんですよ。明日死んでも後悔しないように生きる、というのが理想で。でも若い頃って、人生は有限だと理屈ではわかっていても、いやいや時間はまだあるよって、つい思っちゃうじゃないですか。60歳になって、いい加減、そろそろホントに有限だからさって、実感として強く感じたところはありますね。俺はあと何枚アルバムを作れるのかな?みたいな。自分の頭の中のイメージである素晴らしい音楽はいつかは出来るだろうって思っているんですが、いつかなんて言ってる場合じゃないぞ、とかね。時間は有限と言いながら、自分の作品となると、悠長にかまえすぎなところがあって。もうちょっと寝かせておこうかって、ここまで来てしまった。寝かせておくと、変わったりもするんですが、寝かせ続けてもキリがないので、いやいや、さすがにもう出そうよって(笑)。
自分の中で、音楽にはいろんな良さがあるんですが、一つの分け方として、練り込む楽しさと瞬発力の楽しさがあって、ここ1、2年、ROLL-B DINOSAURで瞬発力を楽しむ音楽を作っていたので、自分のソロ作品では思い残すことなく練り込み要素をこってり楽しみたいという気持ちが強いですね。
そういうところはあると思います。音楽って、よりよい明日のために作る、よりよい明日を見ながら作るところはあるけれど、同時に、今まで生きてきた時間を俯瞰しながら作ることもあるわけで。「CAFE BROKEN HEART」もそういう濃いものが練り込まれた作品ではあると思いますね。ただし、濃すぎるもの、聴いた人の胃がもたれるものを作るのは嫌なわけだし、音楽を作る上で、人生を俯瞰する視線があるとは言え、自分の人生をリスナーに押しつけたいわけじゃないので、深いもの、濃いものを作っても、聴く側は自然に楽しめるものにしたいんですよ。複雑な出汁をとっているけど、舌触りとしてはあっさりしてる、みたいなことが今回のアルバムのテーマなんだろうなと。
前のアルバム『W FACE』は自分の中のロック的なものとロック的でないものの折り合いがつきにくいってことで、2枚組にしたんだけど、今回の作品では自分なりの新たな折り合いのつけかたをしようとしてるところがあって。ロックであるかないかって、単純にエレキギターが入ってる入ってないとか、ドラムがうるさいうるさくないとかってことじゃないわけで。そういう意味では、「CAFE BROKEN HEART」も自分の中ではロック的な楽曲だと思っているし。そこの折り合いの付け方をずっと模索してるところがあって、今回はそこらへんがおもしろいものになりそうな気がします。
まだ発表してない新曲をやることになると思います。本当はレコーディングが完了して、アルバムが完成しました、ツアーをやりますというほうが話としてはわかりやすいんだけど、計画的には行かずに、いろいろ同時に進行しているので、今作っているアルバムの中から新曲をやりつつ、アルバムを作ってるんだよっていう空気感ごとお届けするツアーになるんじゃないかと思います。
ツアータイトルに関してはさほど深く考えてなくて、干支を交えた親父ギャグシリーズがここしばらく続いていて、ついに今年、還暦ってことで暦が還ってきて、いよいよきたぞ戌年ってことでつけただけで(笑)。ただ、ステージをやるとなったら、結局俺はロックが好きじゃんってところは否めないわけで、アルバムがどんな内容になるかとは別に、自分も楽しめるものにはなるでしょうね。基本的に、いまだにエレキギターを弾き出すと、中学生に戻るところがありますから(笑)。
引退ってことはないですね。俺はもともとミュージシャンになろうと思う前は画家になろうと思ってたんですね。そのあと、ギターを弾き出してから音楽のほうが楽しくなっちゃたわけだけど、そういう意味では作品を残すこと、作品を残すスキルをアップさせていくということにしか、意識はないので、引退がどうのって、意味がよくわからないんですよ。実際に歴然と俺は日々、スキルアップしている実感があるし、やっていく中でやっとわかったってことがたくさんあるので、次に作るものはもっといいはずじゃんって思っていて、それ以外のことは何も考えてないです。とは言え、当然俺も音楽業界の中でプロとして生きているので、需要がないと、どうなんだろうってことはわかるんだけど、音楽業界でプロとして生きている俺よりも前に、音楽を作るのが大好きな俺がいるわけだから、メジャーで需要がなくなったら、インディーズでも出すだけですから。で、指が動く限り、ギターを弾いたり、ピアノを弾いたりするし、曲を作れる限りは、作るし。幸いにも聴いてくれる人がいてくれたら、「聴いて聴いて!これ、よくね?」って聴いてもらうし。そんな感じで過ごしていくんだろうなと思います。
PRESENT
サイン入りシングルCD「CAFE BROKEN HEART」を3名様に!
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