SKY-HIのライブは人を引きつけてやまない。そして、SKY-HIのライブは2度、人の心をふるわす。1度目は1MCのラッパーとして、ステージに立ちながら、THE SUPER FLYERSというフルバンドとダンサーを従え、華やかなでカラフルな音が飛び交うステージでときには踊りながら、ときにはギターやピアノを弾きながらラップをするという、キラキラしたポップスター性、エンタテインメント性の高いパフォーマンスに、心がわくわく躍らさせるとき。次は、ライブを通してSKY-HIが心に置いていったメッセージに気づいたときだ。数分後なのか、何年か後なのかは分からない。けれども、これまで何気なくスルーしていたことに「これって、SKY-HIがいってたことじゃないのか?」とハッとして意識をもっていかれ、SKY-HI の嘘のないメッセージに気づいたときのズシンとくる痛みをともなった心の震えを感じたとき。SKY-HIはポップスターでありながらも、なぜいま、音楽を通して人の心をふるわす現代のメッセンジャーとして話題を呼んでいるのか。そんなことをSKY-HIにぶつけたインタビューを2回に渡ってお届けする。
マイク持ちは時代を映す鏡でないと。「言葉」で生きていく仕事だから、そこが1回でも濁ったら存在意義がなくなる
──SKY-HIのメッセージ性、時代の代弁者としての存在、それを言葉にしていく勇気。自分はSKY-HIは現代の尾崎豊なんじゃないかと思ったことがあったんですね。
マジすか?(笑)全然関係ないけど、1週間ぐらい前から尾崎裕哉君と曲を作ってました。
──昨年「Round A Ground 2017」に出演してらっしゃいましたもんね?
それで「これはヤベエ」と思ってさっそく一緒に作りました。
──まずSKY-HIはなんでこんなにもリスナーの心をヒリヒリさせるようなメッセージを歌うようになったのか。そこから聞いていきたいんですが。
たぶんですけど、音楽を作ることやライブをすることと、普通の人生のなかの生活の距離がずっと近い状態にあるんですね。その理由は2つあって。まず1つが、自分自身が音楽に助けられていて。音楽を作るというルーティーンが生活のなかにないとなにかが破綻してしまう日々が多かったので、歯を磨いたりご飯を食べるのと同じところに音楽を作ることがあるということ。それが1つ目。もう1つは、聴いてる音楽がそういうものが好きだったからだと思います。仮想の現実を作って、現実逃避させることで楽しませるあり方を否定はしないけど、自分はそういうものを好きにはなれなくて。「だってそんなの嘘じゃん」で終わってしまうから。なにもかもが本当である必要はないけど、嘘をつくことだけはできなくて。嘘がつけないからステージ上では裸の状態になる。それがさっきいっていただいた尾崎豊さんとかは顕著だったから、そういうところはおこがましいけどシンパシーを感じる部分だから、分かる。他にも昔いってくれた方がいて。だから、2人目でした(微笑)。
──ほほー。そうでしたか。
ラッパーは特にそうだけど、マイク持ちは時代を映す鏡でないと。やっぱり「言葉」で生きていく仕事だから、そこが1回でも濁ったら存在意義がなくなる。どんな音楽をやってもいいんですよ。自分は、そこのハイブリッドさでいったら、もはや「ラッパー」っていわれなくてもいいぐらいのテンションでやってます。ただ、変わらないことがあるとしたら、言葉の重要性ですね。「音楽」はコミュニケーションの最高手段だと思っているから、そのコミュニケーションのなかで、唯一具体的に物事をいえる言葉っていうのはすごく大事にしたい。でも当然、エンタテインメンショーだから、楽しませることは第一にしています。
楽しませて楽しませて楽しませた後にメッセージをすっと渡して帰る。それが理想のライブ
──ライブは特にそうですよね?
ええ。そういうサービス精神は年々育っていくんですけど、それとバランスをとるようにクサいものに蓋をしたくはない。それが音楽への、来てくれたリスナーへの恩返しになるかなと思って。クサいものに蓋をして、その瞬間だけを生きる生き方が幸せだとは自分は思えないから。
──その嘘のない言葉で、少しでもリスナーを救えたらという気持ちはあるんでしょうか?
そうですね。いつの時代でもそうなんでしょうけど、『幸せな時代ではない』というのは常に俺の中にもあって。いま景気はよくなってるといわれてるけど、そんなこと誰も実感してないとか、そういうことだけじゃなくて。24時間365日がずっと幸せだったらいいんですけど、幸せな方に目をむけやすい人にはそれのお供になれればと思うし。不幸せなほうに目がいきがちな人には…人間って得てして「幸せは瞬発力、不幸は持久力」だから、1回不幸せを感じるとそれが続いてしまうから。それを変えるのは自分自身しかいないんですよ。結局は。
──自分で変えるしかない、と。
それをやる手段として、さっきいった通り音楽は究極のコミュニケーション術だから。俺がなんかいって、それをフロアのリスナーが聞くというよりは「聞いた結果、自分のなかで何かが生まれる」。そういう可能性がある手段って、「音楽」しかなくて。だからこそ、自分は享楽的なだけで終わらせるのはもったいないと思ってしまう。自分のライブのなかでも、もちろんそういう瞬間は絶対に大切にしたいと思って作っています。「楽しい!」って、すべてを忘れられる瞬間があると、いい意味でフラットになれるから。
──ああー。我を忘れて楽しんでたら嫌なことも吹っ飛んで。ふと我に返ったら気持ちがフラットに戻る瞬間、確かにありますね。
フラットじゃないと穿った目なしにメッセージを聞くことはなかなかできないから。だから、楽しませて楽しませて楽しませた後にメッセージをすっと渡して帰る。それが理想のライブだとはずっと思ってますね。
──そうすれば、リスナーの胸の奥の奥の届いて欲しい場所へポンとメッセージを置いてこれる。
うん。普通に会話してるとき、ライブみたいにめちゃくちゃ興奮するのってないじゃないですか?だから、本当にめちゃくちゃに酔っ払ってベロベロになった者同士が真面目な話をする感じ?そういう意味ではお酒よりもタバコよりも、一番体にいい健全なドラッグかもしれないですね。笑
──その真面目な対話の仕方が、1MCのラッパーとは思えないショーアップされた華やかなステージを思いきり楽しませた後に、「俺の親友が死んじゃってさ」という風に真面目なトークしだすので。観てるほうは、あのテンションの落差でグサグサ真面目トークがきちゃうんですよ。
うははははっ(笑)。恐縮っス。
──そこで完全に心がSKY-HIと1対1になっちゃうんです。まんまと(微笑)。
まず、分かる人にだけ分かればいいというものにはしないというのは、メジャーデビューすると決まった頃に決めていて。分かる人にだけ分かればいいやという道と、誤解を受けることを覚悟しながらももっと広く、全国民を対象としてやっていくのか。そこが人生の分かれ道で。僕は後者を選ぶんですけど。後者を選んだのは、死ぬときに「あのとき、もっとこういうことやってたら広がってたかも」って後悔するかなと思ったから。あとは、身近に現行のヒップホップマナーをやっててカッコいい先輩とか後輩もいたから、ちょっと違う「可能性」を見たいなと思ったのも理由の1つ。そこで「もってそうだな、自分」と思ったので。
──「もってそう」と思えたところがすごいですよね。
たしかに。これウケますよね。フハハッ(笑)。音楽性、手法的なところも、こっちの道を選んだからこそ出てきたもので。踊りながらラップするとか、まあK-POPがこれだけ流行っちゃうと話が変わってきちゃうんだけど。踊りながらラップするとかピアノ弾きながらラップするとかにしても、手法が先じゃないんですよ。曲は短くても2分はある。ライブでそれが2時間とかになったとき、リスナーを飽きさせないためになにをしようかなという考えのなかから、結果でてきた感じなんです。