インタビュー/永堀アツオ
DI:GA onlineでは7ヶ月ぶりの登場となる安藤裕子。彼女はその間に、自らの意思でメジャーレーベルを離れたことを発表し、「夜明け前」と題したプレミアムライブを開催し、自主制作シングルCD「雨とぱんつ」を発売した。そして、峯田和伸やLEO今井、indigo la Endとの対バンライブに出演。2018年7月にはデビュー15周年を迎える彼女にとってどんな1年だったのか。「安藤裕子 Premium Live 2017-2018 〜ゆく年くる年〜」を控える彼女に今年の1年間を振り返ってもらうと共に、アニバーサリーイヤーに向けた展望を語ってもらった。
──今回のプレミアムライブのタイトルが「ゆく年くる年」ということで、ゆく年から振り返っていただきたいと思います。前回のプレミアムライブのタイトルは「夜明け前」でしたが、夜は明けました?
そんなにパッキリと明けるものじゃないんですけど、精神的には、自分でスタートさせないとなっていう気持ちにはなりました。結局、曲がバカスカ生まれるわけではないけど、何がやりたいかを自分で引っ張り出して考えたいっていうのは感じていて。だから、来年は、せっかくメジャーを離れて、思惑のない時間を持つのであれば、音楽的に『え?安藤裕子、何やってんの?』みたいなことを1回やりたいなっていう感覚があって。ずっとメジャーから離れるつもりは……図々しいことながらないんですけど(笑)、例えば、この1年を自分の自由な時間として持つとしたときに、曲をコンポーズするだけではなくて、アレンジとかプロデュースという部分で、商業的なものから離れたものをやりたいと思うんですよ。せっかくメジャーにいないのならっていうのは考えてます。
否定的な意味はないけど、安藤裕子というプロジェクトを始めるにあたって、かつて、安藤雄司(エイベックスのディレクターでプロデューサー)、山本隆二(ピアノ、バンマス)、安藤裕子という3人が出会った時に、我々は売れたかったんです。全然タイプの違う3人だったから、3人の妥協点を探そうとしたんですよ。その時に見つけたのがシティポップだったり、荒井由実感であったりしたと思うんですね。そこだったら、3人が気持ちよく作業できるというポイントでやってきて。順調に育ったし、音楽的にも自分たちが納得できるものを作ってこれたなという感覚があって。10何年、自分でもよくやってこれたなという道のりだったと思っているけど、そこに未来予想図を描けなくなってしまった自分がいたのも現実ではあったから。要は、結構やり尽くしたんですよね、その世界観の中でやる音楽を。
で、新たな道を開くために、1回キテレツなことをやりたいなっていう感覚があるんです。『何?安藤裕子、どうした?』って思われたいっていう自分もいるんです。ちょっと商業グセがつきすぎてるから。こういう風にやっておけば安心でしょっていう癖がつきすぎちゃってるんですよね。アルバムを出すにしても、自分の趣味思考に偏った作品を作るのであれば、その全く反対の整頓された曲を対に入れる感覚があって。
──バランスを取っちゃうんですよね。
そうそう。その癖を1回壊したいっていうのがあります。あと、自分がデタラメをする作品を誰かとアレンジを詰めていく上で、今までとやり方を変えたり、一緒にやる人間のタイプを変えようっていう構想を持ってて。その人たちから吸収したいし、方法論も得たいし。新たな部分を自分で得たいという感覚がありますね。それをやった上で、変な話、自分の巣であるポップスに帰りたいなっていう感覚がありますね。
──今年はその前段階というか、いろんなタイプのミュージシャンと共演してますよね。「2017.8.9 Three Man Live ~安藤裕子×峯田和伸×LEO今井」はいかがでした?
楽しかったですよ。足を止めていたのは、今までやってきた安藤裕子を体現できない違和感みたいなものがあったからで。好き勝手やっていいライブができるっていうのは、すごい楽しかったですよね。有名な曲をやるわけでもなくて。峯田くんとLEOくんっていう、自分が好きな人を呼んで、遊んでもらうっていう。完全なる、ただの自分のお楽しみでしたね(笑)。
──「Reborn-Art Festival 2017」にも出演しました。
小林(武史)さんとは近年ご縁が繋がったというのもあり、お声を掛けていただく機会も増えました。最初は音霊だったと思うんだけど、そのあと、2015年に島根の美保神社でSalyuちゃんと小林さんが二人でやるイベントにご一緒した時に、カニを一緒に食べて仲良くなって。小林さんは音楽が、歌ものが大好きなんですよね。あれだけ富と名声を得たとしても、純粋に好きなんだと思います。ピアノを弾きながら、歌ってる人の顔を見てるときの表情が本当に幸せそうなんですよね。私、そこをすごい尊敬できるところだなって思ってて。自分が煮詰まって、歌うということに疑問ばかりになってしまった時に、この人は信じられないくらいのJ-POPに携わって、たくさんの楽曲を作っているのに、なぜこんなに楽しそうに弾いているんだろう、すごいなって思ったんですよね。彼はきっと、自分が弾きたい曲に合うヴォーカリストを常に探しているんだと思うんですけど、私にやってほしいことのイメージが彼の中にあって。私の場合は歌よりもナレーターとして呼ばれることの方が多いんですけど(笑)、歌に煮詰まってる時だったので、朗読もめっちゃ楽しかったですね。メロディもしなやかで、歌唱劇もすっごく面白かったから。
──12月にはindigo la Endとのツーマンもありました。これはどうして一緒にやることになったんですか?
2015年くらいにテレビでゲスの極み乙女。の演奏を見たときに、曲がいいし、ほな・いこかちゃんのドラムが可愛くて。あの目線、あのタイトなドラム、ビジュアル的にすごいかわいいな〜ってツイッターに書いたら、お客さん経由で繋がって。ライブにお呼ばれして行ったんですよ。演奏がめちゃくちゃうまいし、すごいカッコ良くて、これは面白いと思って。そこから、もしよかったら私のライブも来てくださいっていうやりとりをしてて。もしも機会があれば一緒にっていう話がなかなか実現しまいまま時間がすぎて、そしたら今回、2年越しで、インディゴの方でお誘いをいただけて。川谷くん、才能あるので面白いんですよね。興味があるし。実際に生でそばで見たかったりして、いいなと思って。私も、自分が家族(スタッフ)と離れるかどうかって考えてた時期だったから、お話をいただいたりしても指針が見えないからってお断りしたりもしてたんですけど、川谷くんとは2年越しでお会いできてなかったし、やりたいなと思って。どっちかというと、自分が見てみたいからやるっていう感じでしたね。見てみたいっていう。
──ざっと2017年を振り返ってきましたが、どんな1年でした?
結局は、夜明け前の年なわけじゃないですか。年が開けるのは来年かな。今は、旅の準備をしているというところですかね、夜が明けるから、いろんな荷物の整理をして、旅の準備をするっていう感覚じゃないかなと思います。
──どこに旅立ちます?
来年は実際によく旅をしようと思っていて。この何年か自分の活動に悩んでいたから、地方に全然行ってないんですよ。勝手な想定では、春くらいから、できれば自分でも興業を打ちつつ、他にもどこかでやってるイベントを探して地方に訪ねていく時間を増やしたいなって思ってますね。あとは、悩んでぼんやりしていたら、気がついたら来年15周年なので、なにかはやりたいなと思ってます。あ、あと、私、台湾に行きたいんですよ。誰にも呼ばれてないんですけど、台湾でライブがしたいので、どなたか誘ってくださいって書いといてください。
──(笑)わかりました。早々とくる年の話になってしまってますが、プレミアムライブはどんな立ち位置になりそうですか? 夜明け前に旅の準備をして……。
来年、自分がちょっと趣味に偏った作品を作ろうと思ってるんですね。それは、今までのサウンドとは100%違うものになると思う。予算も限られてるから、生楽器で録れるものやスタジオを使って録れるものはほぼないかもしれないから、ずいぶんサウンドも変わると思う。その中で自分が好きな音、面白いと思うことをやりたいなという感じがあるので、それをやるにあたってこの冬は、安藤裕子がやってきたポップスをやりたいなと思いますね。
──今回のプレミアムライブは自主制作CD「雨とぱんつ」のレコーディングメンバーで、「インディゴラブストーリー」にも参加したホーン隊が入ってます。
今までのプレミアムライブは弦との相性を追求してきたから、割とバラードが多かったんですけど、こないだの人見記念講堂で弦とはやりつくした感があって。最近、気持ちが暗いから暗い曲も多かったんだけど、管が入る曲って、明るい曲が多いんですよ。そういう曲をやりたいなと思って、わりかし選曲的にはそういうのが多いのかなと思います。いわゆるポップスというようなものを選曲しているような気がします。気のせいかもしれないですけど(笑)。
──(笑)旅に出る安藤裕子にファンファーレを鳴らすライブになりそうですね。ある意味、集大成と言っていいですか?
いや、集大成は来年にしましょう。ポップスバージョンの確認にしましょう(笑)。ストリングスで重厚感のあるものはやったから、次は軽やかなポップスを確認するっていう。これまでやってきたきことの総決算は15周年の時にやるべきですよね。その合間に、自分が勝手に遊ぶために、もう1回、安藤裕子のポップスってこういうのだよねっていうのを確認しておこうかなっていうのがありますね。
──安藤裕子のポップスを歌うことには前向きになれてます?
ある意味、ちょっと吹っ切れた感がありますよね。行く道というか、どこに行っていいかわからないで、海の底に沈んでるような感覚が長かったので。でも、どっか1個決断をしたから、あとは浮かび上がるしかないかなっていう感覚がありますね。
──好きなことをやるって決めたわけですからね。
そうですね。遠く離れたところで、『あいつ、何やってるんだよ……』って思われるようなことやりたいなって。『やべーな、あいつ。今後どういうことをやりたいと思ってやってんだよ』って言われたいっていうか(笑)。ああ、やっちゃったって。賛否両論を得たいですよね。これをやった故に、『うわ〜』って思うひとが8割で、残り2割が、『何この人、気持ち悪い、面白い!』って思ってくれることをやりたいって思ってますね。