インタビュー/フジジュン
──ニューアルバム『異次元からの咆哮』を完成した人間椅子。今回、制作にはどれくらいかかったんですか?
順を追って話しますと、3月にツアーが終わって。その段階では頭の中にアイデアはあったんだけど、まだ何も形になっていなくて。そこから4月から7月のレコーディングに向けて曲を作り始めて、本格的に曲を作り始めたのは5月くらいで。5~6月と曲作りをして、7月にレコーディングをスタートした感じです。
──紙資料に<世界が、我々に見えているものだけでないとしたらどうでしょうか>と始まる、和嶋さんが解説するアルバムコンセプトがありますが。こういったコンセプトは、曲を作りながら見えていったものだったんですか?
まず最初に、僕らがいままでやってきた感じは崩さずにやりたいというのがあって。あとは前作『怪談 そして死とエロス』が怖くもありキャッチーさもあって、聴いてて飽きないすごく良いアルバムになったなと思っていたので、その流れを汲んで作れないか?と考えていて。前作同様、目に見えないものを書きたくて、怪談ってあの世のものですから。あの世からもうちょっと広げて、異次元というところで書きたいというコンセプトは、曲作りの段階で出来ていました。あと、僕が去年くらいから「芸術的なアルバムを作りたい」と鈴木くんに言っていたみたいで。
言ってました、確かに。そこで僕にとっては、すごく難しい注文されたなと思ってたんだけど(笑)。
僕らはハードロックバンドで、iTunesで曲をかけると“ヘヴィメタルバンド”ってジャンル分けが出るんですけど。ヘヴィメタルの枠に収まりきりたくないなというのは常に思っていて。枠を崩していきたいと思った時、「芸術的なアルバムにしたい」って言葉が出たんでしょうね。もちろんヘヴィメタルも芸術だけど、それだけじゃないものというか。
──前作で手応えを感じたからこそ、もうひとつ高みを目指したいと思ったんですかね?
そうだね、それはあると思います。前作から次のギアを入れるような、そんなアルバムが出来たら良いなと思いました。新しいアルバムを作って、「前の方が良かったですね」と言われるのが一番寂しいので。次に行くためには、音楽的にもっと自由で面白い感じを入れたいというのはありました。
僕は“芸術的”と言われたので、和嶋くんが変拍子だったり、アッと驚く展開を考えてくるんだろうなというのはなんとなく思ってて。ハードロックの様式美だけど、すごく考えられた芸術的なハードロックでくるだろうなと考えた時、僕はあえてストレートな感じや古臭いハードロック感を出したいなと思って。僕の作った8曲目の「痴人のモノローグ」とかは、「いつの時代のハードロックだろう?」と思わせる不思議な感じも気に入っていて。和嶋くんとの対比も上手く出せたと思います。
鈴木くんも古いハードロックがあったり、速い曲があったり、ヘヴィな曲があったり、各曲違う曲が出来てきたし、僕もプログレッシブな曲を作ったり、グラムロックな曲を作ったり、ポップな曲を作ったりとそれぞれが得意なところを出せて。結果として聞き飽きせず、メッセージ性のある楽曲が揃ったと思います。まさに各曲に異次元感があるというか。いろんな次元の曲が聴けると思います。
──今作は一曲一曲に個性がありながら、全編通しての物語性もあるので何度も繰り返し聴けるし。12曲を聴き終えた時、どこか清々しさと美しさを感じました。
いや、僕も同じことを思って。聴いていると清々しさというか、さっぱりした感じがするんです。だから、このアルバムには癒やし効果があるのかな? と思ってて。
癒やし効果は無いでしょう!?(笑)
遊園地って例えが合っているかわからないけど、色んな趣向のアトラクションがあって。見終えた時に「今日、楽しかったな」と思う感覚に近いアルバムにはなったと思いますね。
じゃあ、お化け屋敷かな?(笑)
それも含めて色んな出し物がある感じかな?我々、戦慄する気味の悪い感じは今後も追求しようと思ってるんですけど、マニアックになりすぎてもいけないと思うところもありまして。やはりエンターテイメント性も重要だと思うし、最近、お客さんが増えてきたのはそこにも理由があると思ってて。これは傲慢に取らないで欲しいんですけど、100人が来てくれる音楽と1,000人が来てくれる音楽、10,000人が来てくれる音楽って、やはり作り方が違うと思うんです。で、僕らに動員が増えてきたのは、多くの人が聴いてくれる音楽を自然と作れているからだと思うんです。100人が聴く音楽が好きな人には「違う」と言われるかも知れないけど、1,000人が聴く音楽が好きな人は「良い」と言ってくれるんじゃないか?と思っていて。それはどちらが正しいって話じゃないんですけどね。
面白いね。だから、サザンオールスターズはあんなにポップなんだろうね。
あれは10万人が聴く音楽だからね。だから、100人が聴く音楽が好きな人は否定するかも知れないけど、感動するんだよ。我々は10万人とは言わないけど、10,000人が聴くヘヴィメタルを目指したいよね。
──僕も人間椅子の楽曲はもっと多くの人に引っかかるキャッチーさを持ってると思うし、今作を聴いてもただマニアックなものには決してなってないと思います。
マニアックなものって若干の一人よがり感があって、やはり10人、100人が聴くものになってしまうと思うんだよね。そこで我々は1,000人が聴く音楽に10人がニヤッとすることも入れたいし、今作はそういうアルバムになっていると思います。
──さっきお話していた“芸術性”というのは、曲作りにどう作用したんですか?
僕は普遍性のある物が芸術だと思ってて、芸術とは決してマニアックなものではないと思っているんです。
なんだよ、先にそう言ってくれれば悩まなかったのに。
その時は上手く言葉に出来なかったんだよ(笑)。今回、僕がやりたかった芸術は売れる前のゴッホじゃなくて、みんなが認めるゴッホだってことを、曲を作りながら認識していったところがあって。例えば、曲を作っていて「これはマニアックになりすぎる」と思ったら方向転換して、繰り返し聴けるように作り直したり。今回は流行りの言葉でいうとブラッシュアップと呼ばれる作業を、今まで以上に何回もしました。
──ノブさんはアルバム完成しての感想はいかがですか?
毎回そうなんですけど、二人の個性が曲に良く出てるなとすごく思います。レコーディング中にリフを聴いたり、歌を聴いたりしてる時も「どっちもらしいな」と思って聴いていたし。僕が歌った「悪夢の添乗員」も和嶋くんが作詞作曲してくれたんですけど、僕らしさがちゃんと出ていて、すごく嬉しかったです。僕はレコーディングでもライブでも、二人の個性を際立たせるためにドラムを叩いてるんで。今回も自分の目標としてるところには達せたかな?と思っています。プレイは聴いてくれる人により分かってもらえるように、シンプルにという気持ちが強くなりつつ、「こんなこと演ってるぜ!」って気持ちが強くなっていたり。あと今回、バスドラのチューニングの途中でたまたま良い音が鳴って、「今回はこのまま行こう」とかなりゆるいチューニングで叩いたら、僕らしさもかなり出せて。ちょっと新しい試みにも挑戦出来たので、すごく満足しています。
──「悪夢の添乗員」はどういった経緯からノブさんが歌うことになったんですか?
みんなで曲作りしていく中で、それぞれがボーカルチェンジしていくと、またアルバムに幅が出るので。そこにノブくんのボーカルが入ることで、さらに広がりが出るなと思って作ったんですけど。元々、途中まで作って断念していた曲があって、「ノブが歌ったらちょうど良いかな?」と思ったら、煮詰まってた曲が一気に出来たんです。
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