インタビュー/青木優
──アルバム、すごくいいですね。力強いし、抜けがいいし、聴いてて勇気がもらえる作品です。
ありがとうございます!良かった……こちらとしては、5人のベーシストとやった印象が一番大きいのと。あとは作詞作曲の時点でバランス的に楽しい曲が多かったこと、それからライブ感のある音をちょうどいいバランスで録れたのが良かったですね。
──楽しい曲が集まった理由は何なんでしょう?
おそらくバンドとして一番状態が悪くなったのが4年ぐらい前で、それから活動休止をしたんですね。で、その休んでる間に、みんな自分の人生の中でピロウズってどういうものなのか、それが大切なものなのであれば、どのぐらいの情熱でその姿勢を見せないといけないのかを考えたはずなんです。ふたりもそうした宿題をクリアしたような状態からバンドを再開したんですけど、今思うと、そこからゆっくりと変化していったんだと思いますね。それで、どんどん楽しくなっていったと思うんですよ。レコーディングをしたりツアーをやったり、3人でいる時間が前よりもスムーズなんです。本音を言っても空気が乱れないような間柄になって音楽を進めたほうがいいのは当たり前なんだな、というか……今さらですけどね(笑)。ちょっと歩み寄ったことによって、音楽をやりやすくなった。
──これだけ長くやっているのに、そういうものなんですね。
そうですね。まさかのことなんですけど、26年やってて今がメンバー同士が一番仲がいいという、不思議な状態です(笑)。僕のピロウズへの意識もちょっと変わって、「自分の頭で鳴ってるものが正解と思ってるようじゃバンドやる資格ないな」と思って、真鍋くんのアイディアも受け入れようと思ったし。あと、歌詞については、個人的に楽しくなっていったんだと思います。40代前半の僕はあまり良くなかったんですよ。年齢を重ねることを受け入れる準備ができてなかったし、まったく目標にしてなかったくせに、武道館をやったあとにちょっと戸惑っちゃったりして……僕はちっちゃい敵を見つけて、それに向かってエネルギーを発してきたのに、敵がいなくなったんですよ。音楽業界の人がみんなピロウズに優しくなったこともあって、どうしていいかわかんなくなっちゃったというか(笑)。
──それまでは認められないことに対して、さんざんひねくれてたじゃないですか。
そうなんですよね。だからいろんな変化が同時にやってきて、戸惑ってた時期があったんです。でも僕はそこをようやく通り抜けて……たぶん今、人生で心が一番穏やかだという自覚があるんですよ。なので、楽しい曲を書いたのかな。ただ、その「楽しい」というのも、笑うような楽しさばかりじゃなくて……何か感情が動いて、演奏するのが楽しめるというか。笑ってなくても。そういう曲が揃いましたね。
──そうですか。では、その「カッコーの巣の下で」に<手をつないで行こうぜ/そこに愛があるなら>という歌詞がありますが、ここで手をつないでいるのに真鍋さんやシンちゃんの姿はあるんでしょうか?
いや、これにはまったくないです!彼らとは、そこまではムリですね(笑)。この曲はある時たまたま出会った人の話を聞いたのがきっかけなんですよ。僕は両親とか家族の愛情に恵まれて、平凡な家庭で育って、その中で勝手にスネたりグレたりして、アウトロー気取ってたんです。でも世の中にはそうじゃない世界もあるわけですよ。育児放棄をされてたり、ずっとお腹を空かしてる子がいたり……頭おかしい奴もいるし、ヤクザもいるし、もうすさんでる意味が全然違う、そういう家庭が密集してる街があると。まだ小学生とかで、絶望の日々を過ごしてるような環境があると聞いたんです。
──はい。かなり厳しい状況ですね。そういうところでずっと生きていくには。
で、僕は基本的に応援ソングを書くタイプでもないんだけれども、心が動いたので、そのテーマで曲を書いてみようと思ったんです。それで……こんなこと言うと「甘い」って思われるだろうけど……「どんなにツラい状況で、どんなに地獄でも、もし幸せを願うんであれば<明日何かが変わるかもしれない>という願望と意志を持って、諦めないで、くじけないでほしいな」って思ったんですね。それしか方法はないと僕は思った。それは明日どころか、10年後もムリかもしれない。でも人生が続くんであれば、もしかしたら11年後には変わるかもしれない。だったら、いいじゃないですか?だからこの<手をつないで行こうぜ>は、男女間でもあるけど、きょうだいでもあるようなイメージで書きました。
──そうなんですね。じゃあ、この曲のタイトルは……?
タイトルは、好きな映画の『カッコーの巣の上で』のパロディで、なんとなく「カッコーの巣の下で」ということにしておいたんですよ。カッコーの巣って精神病棟のことを言うんですよね。そこで気づいたんですけど、カッコーって他人の鳥の巣に卵を産み付けて育てさせる習性がある鳥で、つまり育児放棄の代表格なんですよ。これは偶然だったけど(笑)、めちゃめちゃジャストなタイトルになった!と思いました。
──なるほど……あの映画も悲しい話だけど、最後に少しだけ希望を見せてくれますよね。それからこのアルバムの最後の3曲では、ロックンロールで生きていくことの宣言がされていると思うんです。とくにアルバム・タイトル曲では、バンドマンとして人生を送る姿を描いていますよね。
そうですね。とくにひねることもなく、そのままです。
──そんな人生について、今はどう感じてます?
即答しますけど、自分の人生はとても気に入っています。それは今が楽しいからなんですけどね。僕はピロウズをいま26年やってますけど……たとえば今日、解散したとします。
──今日、ピロウズが解散!? たとえば、ですね。
たとえば!たとえば解散したとします。で、ここから新しいことをやって、10年また違うバンドをしたとしても、歳をとって、死ぬ時に……「おじいちゃん、何して来たの?」って人生を問われたら、絶対「ピロウズってバンドをやってたんだ」と言うと思うんですよ。「俺の人生はピロウズというバンドをやってたんだ」ということが一番で、これはどうやっても、そうなんです。今はそのことに納得がいってますね。もちろん、うまくいかないことやツラい時期はあったけど、何もかも思い通りにいくことなんてないし。時間かかったけども、僕を理解してくれる人も現れたし、結果も出たと思ってるので、必要な過程だったと思ってるんですよ。だから自分の人生は気に入っていますね。
──でも、そう思えるまで頑張れるミュージシャンは少ないと思いますよ。だって同時期にデビューしたバンドとかアーティストで今残ってる人って、ほとんどいないですよね?
そうですね、僕らの5年後輩も10年後輩も、ほとんどいないです。僕らよりもバッと売れて、バッと消えた人もいっぱいいるし。でも、もしピロウズがビジネスとして成り立ってなかったら、たぶんムリだと思います。そこまでは絆が強くなかったと思います。
──あ、そう思いますか?「売れなくても、音楽やバンドが大好きだから続けよう」というのはムリだったということですよね?
いや、それは絶対そう。ビジネスを超えてやるような間柄じゃない。ただ、どんな時期も、僕が最低限、明日に期待できるようなレベルのソングライティングをしていたつもりではあるんです。だから急に勝手なことを言い出しても、ふたりは付き合ってくれたんじゃないかな。だから一心同体でやってこれたんだと思います。そこは強かったのかな、と。
──うん、なるほど。わかりました!では今回のツアーはどういうものになるでしょうか?
いや、まだ何も考えてないです。ライヴハウスのツアーなので、仕掛けとかセットもないし、僕ら、ギリギリまで何もしないと思います(笑)。ただ、今回のアルバムにも参加してくれた有江(嘉典)くんが全箇所サポートしてくれるので、彼と一緒にこんなに廻るのは初めてだから、楽しみですね。それから個人的には、花粉症の季節とかぶってないので、ベストを尽くしやすいです!(笑)
インタビューこぼれ話
編集部:ライブバンドとして、ツアーも毎回かなりの本数を行うthe pillowsですが、日本で行ったことのない会場はあるんでしょうか?
いっぱいありますよ。福井に行ったことないし、三重もないし。四国も、今回の徳島は初めてなんですよ。それまでは高松と松山ばかりでしたから。九州にしても宮崎には去年初めて行きましたね。全県ツアーでもやらないと、どうしても行かない場所ばかりです。滋賀にも行ったことないです。島根は松江でやったけど、その前にやった米子にも来てくれた人が多かったですね。
編集部:the pillowsが、ホームと感じている会場はありますか?
店長とか店員さんと仲いいのは下北沢Que、高円寺HIGH、あとは新宿のredclothですね。どれも出演はほとんどしてないけど(笑)。
それから俺の地元ということもあって、札幌ペニーレーン24にはホーム感あるかな。ここには「さわおクーラー」があるんですよ。俺がゴネてゴネたら空調を入れ替えてくれたんです。もう暑すぎて!ほんとに地獄のような暑さだったんです。だってローディーがセッティングして戻ってくるだけで汗がしたたるほどなんですよ?
そもそも北海道なので、冷房に甘いんです。地下2階だから空調も回りが悪いし、その上に劣化していくもんだから、ほんとにツラい時があって、「冷房換えないと、今後もう出ない!」って言ったことがあったくらいなんです。「何なら買ってやるよ!」とまで言いました。それで買い換えたって聞いたら、すごい額で……とても俺が払えるような値段じゃなかったです(笑)。でも怒髪天の増子さんから「山中でかした!」ってメール来ましたからね。「ライヴがすごいやりやすいよ!」って(笑)。みんな、思ってたんでしょうね。
で、そこの屋上の室外機にサインを書いたんですよ。それもあって「さわおクーラー」って呼ばれてるんです(笑)。
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■「カッコーの巣の下で」(New Album「STROLL AND ROLL」収録)