インタビュー/三宅正一
──スリーピースバンドになって初めて完成させたニューアルバム『光源』は、完全にニューフェイズを示す作品であると同時に最高傑作だと思います。それぞれの手応えはいかがですか?
小出祐介(Vo,Gt) 前作『C2』と聴き比べてみたんです。今までは前作と相対的に音を聴き比べてみることってあまりしてなかったんですけど、『光源』が完成して『C2』と聴き比べてみたら、全然音が違うなって思いましたね。
堀之内大介(Dr,Cho) (小出から)メールがくるくらい違うんですよ(笑)。
小出 こんなに出音が変わったのかと思って。
堀之内 僕はまず全8曲でここまでしっかりフルアルバムとして成立させられたことがよかったなって。普通はフルアルバムだったら10曲以上の収録曲ってなりがちだけど、8曲で今のBase Ball Bearを全部詰め込むことができたので。それが一番よかった。
──全8曲のフルアルバムというのも今の時代らしいパッケージだと思うんですよね。さらに内容的にもこれで過不足ないと思えたのは大きいですよね。
小出 そうですね。『夕方ジェネレーション』(1stミニアルバム/2003年11月リリース)は7曲でミニアルバムだったから。
堀之内 俺たちのなかでは8曲でフルアルバムになるという(笑)。
小出 でも、ちょっと思い出したんですけど、『夕方ジェネレーション』を作ったときは7曲で足りないと全然思ってなかった。むしろ言いたいこと全部言えたと思ってたんですよね。今回の場合は9曲あったんですけど、8曲でもう十分だと思えたんです。それは残りの1曲をボツにしたというわけではなくて。
──今後、何かしらの作品にはいるかもしれないし。
小出 そうそう。これ以上要らないくらい1曲1曲が濃厚で、アイデアが詰まってる。あと、トータルの体感的なことも含めて、35分以上から長くても短くても違うなと思ったんです。
関根史織(Ba,Cho) 最終的に8曲になったのも、作品がそれを求めたからだと思えるんですよね。そこに向かって導かれたような感覚があるんです。
──3人になって制作の方法論も根本的に変化したと思います。
小出 そうですね。かなり健康的な制作でもあったと思います。プリプロダクションの段階から本番のレコーディングまで、同じ行程を何度も繰り返したんです。
──曲をブラッシュアップするために。
小出 そういうことですね。曲をずっと更新し続けてきた。まず最初に街スタ(街中にある一般的なスタジオ)に入って3人で曲を作ると。それぞれが曲を持ち帰ってフレーズを決めてデータを送り合う。僕が制作ソフトを使って全体を組み立てる。そこからまた街スタに入って見直しをして、フルサイズを作り切る。そのあとデモもフルサイズにする。この段階でもうシンセなども入れてある。次は、レコーディングスタジオでそれぞれのパートの音を生音に差し替えて、歌もちゃんと録って、最終的なデモができる。そして、本番のレコーディングに入るんですが、前に録った最終デモのデータを使いながら録っていけるんですよね。つまり曲の全貌を把握しながら本番を録れるので、僕らもエンジニアさんもイメージがブレないわけです。そんな感じで、最初の曲作りから最後のレコーディングまで、まるで油絵を描いていくようだったんです。ちょっとずつ色を塗り固めていくみたいな。
──素晴らしい。
小出 これまではこういった丹念な制作はできてなかったんですよね。本番のレコーディングまで未確定な要素がたくさんあったし、最後に詰め込むみたいな感じで。そうすると今までと今回ではフレーズ同士の相互関係や濃密さが全然違ってくるんですよ。
──まさに濃密なグルーヴが浮き上がっていると思った。シンセやエレピ、ブラスの音も入ってるんだけど、それはあくまで装飾や奥行きを担っていて、根底には3人の音の強靭で濃密なグルーヴが表出しているのが大きなポイントだと思います。
小出 こういうグルーヴ感があるのもそうだし、僕らと同世代のバンドのなかでは珍しい感じの作品になってると思いますね。
──同時代性に富んだ音が鳴ってますよね。
小出 それをめがけて作ったわけではないですけど、僕らの世代でここまで今っぽい音にアクセスしたバンドはあまりいないのかなって思いますね。他の同世代のバンドが今っぽくないというわけではなくて、固有のスタイルを持っているバンドが多いんですよね。僕らも固有のものはあるんだけど、今聴きたいサウンドに正直になった結果、トレンドにもちょっと接近するみたいな。