インタビュー/永堀アツオ
アニメ『ガンダムUC(ユニコーン)』や『進撃の巨人』、ドラマ『医龍』シリーズや朝ドラ「まれ」、「マルモのおきて」などを手がけた人気劇伴作家、澤野弘之が、キャリア初となる単独ホールライブ『澤野弘之 LIVE【emU】2017 〜BEST OF SOUNDTRACK〜』を2日間に渡って開催する。すでに、これまでのキャリアの中からの選りすぐりの作品をはじめ、5月13日(土)に"アニメ「進撃の巨人」ベストセレクション"、14日(日)に"アニメ「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」ベストセレクション"の演奏予定作品が発表されているが、先行チケットの販売が好評につき、各日から曲目を抜粋してお送りする追加公演も決定。2005年にドラマ『Ns’あおい』の劇伴を手がけ、若干25歳の新鋭として劇伴シーンに現れてからはや12年。これまでの劇伴活動の集大成となりそうなライブに向けた思いを聞いた。
──‘15年9月に、今回のライブタイトルになっているサウンドトラック・ベストアルバム『emU』をリリースしましたが、ご自身にとってはどんな作品になってますか?
劇伴の仕事をはじめてからちょうど10年目の時に出してもらえたのが良かったですね。その前の年にヴォーカルベストを出したんですけど、自分が音楽活動を始めたのは、インストゥルメンタルだったし、これまでに関わったドラマや映画、アニメの音楽を全部まとめたものを出したいと思っていたので、思い入れの深い作品になってます。
──2枚組、全37曲をご自身でまとめてみて、どんなことを感じました?
作品ごとに作風やアプローチは変わっていたとしても、自分の作る曲は当初から変わらないのかなって感じたりしましたね。
──その変わらない芯の部分ってなんですか?ジャンル的にはかなり幅広いですよね。メタリックなミクスチャーロックもあれば、ビックバンドジャズやアルゼンチンタンゴまであって。
そうですね。これはあくまで主観的なんですけど、マニアックなものよりポップなものを作りたいというか、それぞれの作品のエンターテインメント性がより増すような音楽にしたいっていう気持ちは変わってなくて。簡単にいうと、盛り上がるところはオーバーに盛り上がるっていうアプローチは昔から変わらないなって思ってます。ただ、初期の頃は日常を描いたドラマが多かったので、今のようにスケールの大きな音楽を作ることは滅多になくて。今はわりとアニメ作品が多くて。巨人が出てきたり、ロボットが出てきたりするので、必然的にスケールの大きい音楽を作ることが多くなった。根本的な気持ちは変わらないけど、いろんなアプローチをさせていただけているので、作ってて楽しくなるところはありますね。
──ドラマにあまり携わらなくなったのはどうしてですか?
単純にスケジュールの問題ですね。ドラマの場合、放送の1ヶ月とか2ヶ月前にお話をいただくことが多かったんですよ。アニメは1年前からオファーをいただいたりするので、ドラマのお話をいただいても、スケジュールが埋まっていてできないということが多くて。でも、4月から久々に、小栗旬さんと西島秀俊さん主演のドラマ『CRISIS(クライシス) 公安機動捜査隊特捜班』をやるんですよ。それも1年くらい前から言われていたので、スケジュールが丁度合ったという感じです。
ドラマ『医龍』は劇伴業界で仕事をしていく上で影響があった作品。特に『BLUE DRAGON』は、自分が作りたい壮大な曲が作れたので、そのあとの作品にも通じるテーマがあるかもしれないですね。
──アクション系の刑事ドラマになりそうなので、どんな曲がつくのか楽しみですね。ちなみに、これまでの活動の中で転機になった作品を挙げるとすると?
一番わかりやすいのはドラマ『医龍』ですね。劇伴業界で仕事をしていく上で、わりと重要というか、影響があった作品だなと思います。ドラマ音楽を担当するのは、『Ns’あおい』に続いて2作品目だったんですけど、自分がずっとやりたいなって思っていた音楽を詰め込むことができて。サントラも反響があったおかげで、劇伴業界への名刺代わりになったというか。特に『BLUE DRAGON』は、自分が作りたい壮大な曲が作れたという意味でも、そのあとに携わっている作品にも通じるテーマがあるかもしれないですね。
──アニメ作品の中だと?
いろいろあるんですけど、1つは『ガンダムUC』ですかね。もともと、自分が劇伴音楽家を目指したきっかけが、ジブリや『攻殻機動隊』だったので、アニメ作品の劇伴をやりたいなと思っていて。ドラマの作品をやってた時もたまにオファーは来てたんですけど、そんなに多くなかったんですね。でも、『ガンダムUC』がヒットして、そこで僕の音楽にも興味を持ってもらって、いろんなアニメのお仕事をいただけるようになった。そもそも、『ガンダムUC』の音楽をやる時に、この作品が自分にとって重要な作品になるんじゃないかなっていうのは、どっかしら思っていて。それまでは基本的には時間に追われて作ってることが多かったんですけど、『ガンダムUC』の時はスケジュールを3ヶ月間、空けてもらって。徹底的にこだわって作った作品だったという意味でも、思入れが強いし、転機になってますね。
──2年後にはアニメ『進撃の巨人』のサントラもヒットしました。
音楽的な思い入れももちろん強いんですけど、それ以上に、作品自体が社会現象になるくらいヒットして。劇伴音楽ってマニアックなものだったりするんですけど、見る人が多くなれば、その音楽に興味を持ってくれる人も増えますよね。僕が作ったサントラの中では特に多くの方に聴いてもらえたし、アニメファンの方やアニメ業界の方にも自分の作る音楽を知ってもらえた作品になったかなって思います。
──『進撃の巨人』の荒木監督とは、『ギルティクラウン』や『甲鉄城のカバネリ』でもタッグを組みました。
荒木監督の作品をやるときはモチベーションが上がるし、気合が入りますね。歌が入ってる曲に関しても、インストゥルメンタルの曲に関しても、『甲鉄城のカバネリ』は昨年に出したサントラの中で個人的にとても気に入ってますね。
──とても順調ですよね。先月末に初のアーティストブックも発売されましたが、これまでを振り返ってみるとご自身ではどう感じますか?『医龍』の時は当時、25歳の若さだという点でも注目を集めました。
アマチュア時代は、どうやったらこの業界に入れるんだろうって悩んでたんですね。今でこそ、若い人も増えましたけど、当時は、『若いと劇伴音楽ってやらせてもらえないのかな?』『音大を出てたり、キャリアがある方じゃないとやれないのかな?』って考えてたんですけど、『医龍』をやった後、いろんな作品のオファーをいただけるようになって。関係者に会うと、『若いですね』って、びっくりされたんですよ。自分的にも、どうだ!っていう嬉しさというか、年齢やキャリアなど関係なくやれるんだぞっていうことを知って欲しいっていう気持ちがあったんですけど、あっという間に時間が経っちゃって。ただのおっさんになっちゃったけど(笑)、幸せなことにいろんな作品をいいスパンでやらせていただいているなって思います。