感激したのは1人でやると、拍手が “良かったよ、イエイ!”っていう感じじゃなくて、深いというか、思いが込められているというか。皆さんの拍手にこっちが鳥肌が立って、こっちこそ、ありがとう!みたいな。
──これまでのキャリアで初となる1人での弾き語りツアーもありました。全国各地の様々な会場で演られてますが、これは修行的な要素もあったのではないですか?
めっちゃ修行でした。でもやるほどに、1人というのがおもしろくなってきました。
──そもそもどうして1人でやろうと?
一昨年、初めてビルボード東京で1人で演ったんですが、最初は”絶対に1人じゃもたない。自信ないよ”って感じだったんですが、まわりのスタッフから説得されまして。ファンの人からしたら、私の作った曲、私の歌、私の演奏、すべて私が発しているものだということがうれしいんだよって言われて、なるほどなって思ったんですよ。以前、ルーファス・ウェインライトのライブを観に行ったんですが、あの声と歌の支配力で全部持っていってしまった。ギターは下手なのに、すごく良くて。上手い下手だけじゃないんだなって痛感しました。自分の作品を演るわけだし、これは歌手としてだけでなく、作家としてやるという考えもあるなって。バート・バカラックにしてもあれだけの高齢でビルボードでピアノを弾いて、ミュージシャンたちに指示を出して、自分の世界観を表現している。そう考えると、だんだんおもしろくなってきた。とは言え、たった1人で演奏するってビビるじゃないですか。”まず必要なのは度胸だぜ。度胸を付けるには場数を踏むしかないぜ”ってやり始めたら、1人だからこそのアイディアを考えたり、工夫を凝らしたりするようになってきて、さらに楽しくなった。おまけにバンドではなかなか回れないようなところでも1人だったら行ける。普段は行けないところに行こう、変わったところ、おもしろいところでやろうってことで、結局28公演になりました。
──酒蔵で演ったりしてますもんね。
秋田の酒造道場「仙人蔵」、兵庫県の「布引ハーブ園」など、どこも楽しかったですね。京都の磔磔[takutaku]のあの独特の空気も印象深かった。忌野清志郎さんのサインがあって、歴史のある場所に私も足跡を残せたのがうれしかったですね。単純にPRINCESS PRINCESSの最後の全県ツアー以来20年ぶりに行った県がたくさんあったので、やれて良かったなと思いました。
──ずっと待っていたという人もたくさんいたんじゃないですか?
初めて生で観たという人も意外に多くて。PRINCESS PRINCESSで活動してた頃は”まだ学生でチケットが取れなかったんです”とか、”まだ小さかったんです”とか、”いつか観たいと思っている間に解散しちゃって”とか。感激したのは1人でやると、拍手が全然違うことですね。
──違うというと?
“良かったよ、イエイ!”っていう感じじゃなくて、拍手が深いというか、思いが込められているというか。お客さんとうまくかみ合った日は、ソデに戻っても拍手が鳴りやまなくて、クラシックみたいにもう1回出て行ってお辞儀したりということもありました。皆さんの拍手にこっちが鳥肌が立って、こっちこそ、ありがとう!みたいな。そういう体験も新鮮でした。
人の思いと音楽って密接な関係にあるなって実感したし、いろんなことを考えたツアーでした。これからは私の音楽を必要としてる人のために歌うのも悪くないな、そうい考え方もありだなって思うようになってきたんですよ。
──たった1人で小さな会場でやることで、音楽を通じての人と人とのつながりがより密度の濃いものになるんでしょうね。
音楽家として、貴重な栄養をたくさんいただきました。近年、震災の被害にあった土地で歌う機会も増えたんですが、そういう時にはこちらも特別な気持ちを持ってステージに立っているし、聴かれているみなさんもいろんな思いを持っていらしているんだろうなと感じていました。
──今年の弾き語りツアーでも気仙沼「はまなすホール」や福島「いわきPIT」などで演られてますもんね。
人の思いと音楽って密接な関係にあるなって実感したし、いろんなことを考えたツアーでした。今までは自分のために歌ってきたし、今だって自分のために歌っているんだけど、これからは私の音楽を必要としてる人のために歌うのも悪くないな、そうい考え方もありだなって思うようになってきたんですよ。若い頃もまったく考えてなかったわけではないけれど、より現実的に強く感じた1年でした。自分の音楽はこうです、聴いてくださいという表現も充実させていきたいですけど、同時に、信念を持って意義のあるメッセージを発していけたらと思っています。たまたまかなり前の記事を読む機会があって、世界最高得点を出したフィギュアの女子の選手の話が胸に残ったんですよ。その選手が小さい頃に住んでいた国はずっと戦争下にあったため、他の国に亡命して、その国の選手としてオリンピックに出場したんだけど、”戦争反対”というテーマを掲げて、そういう曲を選んで滑ったと書いてあって、感動しちゃって。せっかく注目してもらえる立場にあって、メッセージを発する術を持っているなら、微力ではあっても、そういうこともやっていいのかな、長年音楽に携わっているんだから、少しは役に立ちたいなって思うようになりました。
──”ひとり旅”は修行とのことですが、ミュージシャン、プレイヤーとしてはどんなことを感じましたか?
もうね、毎回、下手だなって思いながらやってました(笑)。できるようになればなるほど、下手だと思うんですよ。1個できるようになると、2つぐらいできないことが見えてくる。なので、できないことが確実に増えたツアーでした(笑)。失敗やハプニングもたくさんありましたが、それもおもしろくて。ルーパーを使って、iPadで自分で録音した音源を出したら、機械が止まらなくなったり。ピアノの鍵盤が一個鳴らなくて、調律師さんをステージ上に呼んで、公開で調律してもらったり。そうしたハプニングの数々も演出の一環みたいな感じで、それも私っぽくていいんじゃないかな。失敗もその日の最高のレアな出来事みたいな。修行でもあったけれど、おもしろくて、1人でやる楽しみを覚えてしまったツアーでした。