告知なしでゲリラリリースした「右手」について
──そんな、最新作「右手」。この作品は2月19日にゲリラリリースされましたが、告知なしでのリリースというのは、どんなところからのアイデアだったんですか?
矢口いままでって、「新曲を出します」って告知して、1ヶ月くらいあって。テレビやラジオで宣伝してっていうのが多くて。新曲が出るまでの期間がすごく長かったんですけど、お客さんの喜びが続く期間って、そんなに長くは続かなくて。気付いたら、「明日リリースやん」みたいな感じになってるんじゃないかな? と思って、「前日告知とかでよくないですか?」っていうのはずっと言ってて。ライブハウスで現場を大事にしてるから、ライブハウスで瞬間瞬間で事件を起こすだけじゃなくて、SNSとかでも事件を起こせたらいいなと思ったんですが。結局、面白いことをやりたいんだと思います。
──確かに現在って、SNSで即座に情報が得られるから、みんなにとってはリアタイで起きてることが全てというか。
矢口そう。サブスクでシングルを出してっていうのも、どのバンドもやってるから。好きな人しか喜ばないニュースになってるんじゃないか?って。だったら、知らない人にも「ペルシカリア、面白いことしてんな」と思ってもらえるように、ゲリラ的に出してみようみたいな気持ちもありました。僕たちって、周りと同じことやってて売れるバンドでもないなっていうのは、ライブハウスでもSNSでもすごい感じるんです。だったら他のバンドと違うこと、自分たちにしか出来ないことって言ったらカッコいいですけど、面白く発信出来るものを提案して、探していきたいなと思ってます。
矢口結生
──楽曲的には“冬”をテーマにしていて、最初から季節感を意識して作るという初めて挑む挑戦もあったり。楽曲に展開があって物語性があったりと、すごくアグレッシブに作れた曲だったと思いますが。それぞれ、「右手」が完成しての感想はいかがですか?
フルギヤ僕はいままで楽曲を作るにあたって、自分の我を出したいタイプというか。「他のギタリストがあまりやってないフレーズで」みたいな作り方をしてたんですけど。いま、バンドの方向性が見えてきたタイミングで、それだと良くないなというのは思って。イントロだったら、メロディックに分かりやすく、音数を少なくして。曲の方向性としっかり合うようなサウンドを意識して作ったというのはありますね。
フルギヤ
矢口フルギヤはいままで我を出そうとしすぎて、エンジニアさんに「これ、音が当たってるよ」みたいに言われても、「これでいいんです」って通そうとしたり。「パンクっぽい曲にしたいから」って送ったら、意味分かんないくらいムズい曲を出してきたりしてて(笑)。
──わはは。フルギヤくんは資料で、「歌と反発せず、寄り添うように意識した」とコメントしてますが。俺は「右手」を聴いて、シンプルだからこそ、そこにメンバーそれぞれの個性がしっかり出ているように感じたし。方向性が見えているというのに繋がると思うんだけど、全体通してバンドの性格が見えてくるような印象を受けました。
矢口EP『俺様は世間に用がある』(23年)くらいは全員が我を出してて、我が渋滞してるみたいな感じがあって。それぞれ譲れないところがあって、ケンカしながらレコーディングしてましたけどね(笑)。
フルギヤあれ、なんだっけ? たぶん、「チョーキング始まりがイヤだ」とか、そんな話だったと思うんだけど。
中村そう。で、二人が揉めてて、俺と中垣に「どっちが良い?」って聞いてきて。俺たちは「どっちでもいいから、二人で折り合いつけてくれよ!」って思ってた(笑)。
中村達也
矢口あはは。そんな時期も経て、ようやく同じ方向が向けるようになったんです。
──中垣くんと中村くんは「右手」の制作や出来ての感想いかがですか?
中垣『神様は~』の制作は1ヶ月使って、4人でスタジオにこもってみたいな作り方をしたんですけど。そこで寝泊まりとかも一緒にして、矢口がなにを求めているかが、自分の中でも分かってきたし。この曲にどういうフレーズが必要で、どういうアプローチをすればいいのか?みたいなところも見えてきて。その上に歌詞があって、寄り添ってみようかって変化があったんで。気持ち的な部分の変化も大きかったですね。
中垣
中村ドラムでいうと、「右手」って目まぐるしい展開があるんで。ツービートも使えばエイトビートもあって、サビはめっちゃシンプルみたいな、あらゆるドラムパターンが詰め込まれてるんですけど。みんなが曲を作ってる時に描いてる、ライブでやる時のイメージが揃ってきてるから。展開が目まぐるしくても、要所要所でハマってるように作れたというのはありますね。
──矢口くんはレコーディング終えてみて、デモを作った段階でイメージした楽曲になったんですか?
矢口思ってた通りになりました。レコーディングってそれが正解になっちゃうんで、怖いんですよ。出来上がって、「誰かしら納得いってないんじゃないか?」と思うこともあるし。でも、いま僕らに必要なことというか。『神様は~』でやったことの延長線上にあるものが出来たし、本当に一人でやってた時期のような切なさも出てたらいいなと思って。
──アップテンポな曲調や展開もあるけど、全体を切なさが帯びてて。そんな魅力もしっかり出てますよ。あと中村くんの話を聞いて思ったけど、いろんなリズムパターンがあって、展開があってというのは、いろんな表現方法を試してきたからの成果ですよね。
矢口確かにそうですね。僕、一人で作ってた時、ドラムの打ち込みが分からなくてAIに打たせてたんですけど。AIって、基本的にエイトビートしかやってくれなくて(笑)。そのまま5年間やってたら、いまもエイトビートの曲やってたと思います。