material club、6年ぶりのアルバムをリリース!作品、そして大阪・東京で開催するライブについて、小出祐介に話を訊いた

インタビュー | 2024.11.14 19:00

2020年の春先、世がコロナ禍になる直前のあたりから、Joy Divisionのファースト・アルバム『Unknown Pleasures』のジャケットがプリントされたTシャツを、街で頻繁に見かけるようになった。そのブームは、コロナ禍が明けるまで続いた。というか、現在でもけっこう見かける。おそらくリアルタイムでは、日本国内でリリースされてもいなかった、イギリスはマンチェスターのインディー・バンドの、ファーストアルバムのジャケットである。
ボーカルのイアン・カーティスは、このアルバムを出した後に、首を吊って死んでいる。残されたメンバーが始めたNew Orderがブレイクしたため、その前身バンドとして、あとから知られて評価された、そういう存在である。
New Orderの出世作である「Blue Monday」は、イアンが亡くなったのが日曜で、メンバーがそれを知ったのが月曜だったから、そのタイトルであり、その時のことを歌った曲である、と、言われている。
Joy DivisionやNew Orderの所属レーベルだったファクトリー・レコードの専属デザイナー、ピーター・サヴィルとユニクロが契約をして、彼の作品をTシャツにするラインを始めた、その中で特にこの『Unknown Pleasures』がバカ売れした、ということを知ったのは、しばらく経ってからだった。
そうか、じゃあシンプルに、デザインがいいってことで、売れたのね。と、わかったが、それでもまあ、正直、モヤモヤします、我々のような人種は。いや、知らない人は着ちゃダメ、なんてことはないですよ? 別に他人がとやかく言う筋の話ではない。でもねえ。

以上、Base Ball Bearの小出祐介を中心としたmaterial clubの6年ぶりの作品となるセカンド・アルバム『material club Ⅱ』のインタビューのリード文で、なんでこんなことを延々と書いているのかというと、書かないとご存じない方には真価が伝わらない曲が、この作品には入っているからです。
『material club Ⅱ』は10月30日リリース、全8曲を収録。ファースト・アルバムは、accobinこと福岡晃子(ex.チャットモンチー)と小出の二人宅録ユニットで、そこに多数のゲスト・ミュージシャンが参加する形で制作されたが、今回の『material club Ⅱ』は、そのふたり+前作にもゲスト参加したパスピエの成田ハネダ+今回初めて加わったtricotのキダ モティフォ+ex.CHAIのYUNA、という、5人編成のバンドになっている。
11月3日(日)大阪・Music Club JANUS、11月29日(金)東京・渋谷CLUB QUATTROと、東阪のライブも控えている。

material clubをやろうとは、全然考えてなかった

──6年前のファースト・アルバムは、なぜBase Ball Bearとは別に始めたのか、聴けばわかる内容でしたが、今回そのへんがちょっと混沌としてません?

まあ、今回、バンドですからね。バンドにしたのは、打ち込みがめんどくさかった。

──(笑)。

それがいちばんの大きな理由です。material clubをやろうとは、自分では考えてなかったんですよ。「いつかはやろう」っていう話は、あっことしてたけど。
時系列としては、2018年にファーストアルバムを出したあと、Base Ball Bearが本当に3ピースで、サポートメンバーもなしの活動をやっていく段階に来て、コロナ禍があって、2022年に日本武道館をやる、っていう流れになっていって。
その中で「やっぱりバンドいいよね、おもしろいね。これが自分の生業ですよね」っていう確認が、自分の中でとれたっていうか。特に2021年から2022年、『DIARY KEY』っていうアルバムを出してから、武道館をやるまで、ロード・トゥ・武道館みたいな1年で、ウワーッと盛り上がっていったわけですよ。
で、武道館終わりました、そのあと制作の打ち合わせがあって。「Base Ball Bear、何をやっていきますか? オリジナルのアルバムを出す場合は、フルアルバムだと10枚目になりますね」と。記念すべき10枚目じゃないですか? 自分的にも「これだ!」っていうアルバムを作りたい。でもここまでストイックな時間をすごしてきたから、10枚目に向かってまたさらにストイックにアルバムを作る、ってなったら、ずっとストイックで全然遊びがないな、と思って。
Base Ball Bearは、かつて、3.5枚目っていうアルバムを出してるんですけど(2010年リリースの『CYPRESS GIRLS』と『DETECIVE BOYS』の2作品)、それ的な感じで、9.5枚目みたいなのを作るのはどうですかね?みたいなことを、会議で話したんですよ。そしたら堀之内(大介)さんに「だったらmaterial clubやったらいいんじゃないの? 聴きたいけどね、俺」と言われて。関根(史織)さんも「いいじゃんいいじゃん」と。それは全然考えてなかったけど、言われてみれば、確かに今やるのがいいのかもしれない、今やらないとまたどんどん後ろに行っちゃう、と。ただ、打ち込みはやりたくないので、残る可能性は、バンドしかないわ、と思って。
Base Ball Bearは3ピース・バンドだから、3ピース・バンドでは出てこないアイデアが出るような……かつ、material clubでも、自分が中心になってひっぱっていくっていうよりも、メンバー全員のアイデアが有機的に溶け合ったバンド音楽をやりたい。っていうところから、メンバーに声をかけていった感じですね。

2nd ALBUM『material club Ⅱ』ジャケット

歌詞ってもっといろんな表現ができる、豊かなものだと思うけど、みんな感情と物語しか歌っていない

──ファースト・アルバムの曲はどれも「これを伝えたいんです」という主張がはっきりしていたと思うんですが、今回はいかがでした? あまりなかった?

いや、うーん、ないようで、あります。ファーストは、架空のラボラトリーみたいなものの中で、私とあっこが音の実験をしている、みたいな画を浮かべながら全曲を作ったんですが。今回は「マテリアル」=「物質的である」とはなんなのか、っていうことを考えていくのが大きなテーマになっていて。
自分が常々思っていることとして、今の、日本の音楽における歌詞には、感情的で、共感的で、ウェットなものがすごく多いなと。あるいは、お話として作られているもの。プロットみたいな歌詞ですね。これらは、自分が好きな歌詞からは、だいぶ遠いところに来てるなと思っています。時代的にね。
この流れを、誰かがある程度戻さないといけないと思う。歌詞ってもっといろんな表現ができる、豊かなものだと思うんですけど、みんな感情と物語しか歌っていないから。TikTokとかショート動画の世の中だから、15秒勝負だということで、みんなそうなるんでしょうね。字幕映えのする言葉を選ぶとそうなっていくんでしょう。でも、自分はそれは好きではないので、明確にカウンターとして、真逆の手法をとりたいな、と。

──というのは?

視覚優位である、ということです。目で見えたものを正直にちゃんと描写する、っていうことをやっていこうと思いまして。だからそこに、必要以上に感情の描写を盛り込まない。

──ラストの「Altitude」は、その究極ですね。

究極です。目に見えるもののみで曲が進行していく。物語が存在しないんです。上空からカメラがどんどん下りてくるだけで。

──そうやって目に見えているものを羅列してメロディに乗せることで、こんなに情感が生まれるんだ、という──。

ということを逆説的に証明するために、10分の曲にしている。それが音楽っていう時間芸術、タイムコード0分0秒から始まって、時間経過と共に表現がなされるアートフォームなんだよ、っていうのが、感情を描かないことで、よりわかるというか。

──「画面に表示したあなたの画質は これからも悪くなるだろう」とかね。スマホのカメラは進化していくから、昔撮った写真の画質は悪くなる、という事実を言うだけで、こんなにいろんなことが伝わる。

そういうことです。

──「年代がバラバラのマンションに 光は等しく注いで側面に影を生む」も──。

うん。だから、すんごい街を見ました。すんごい散歩もしたし(笑)。「Altitude」の詞の原形は、ツアー中に考えてたんですよね。すっごい天気がいい日で、北海道に行く時だったと思うんですけど、東京も晴れてて、北海道も晴れてる時で。めちゃくちゃ見えるんですよ、外の景色が。羽田空港から離陸して、真下の東京のビル群が、どんどん遠ざかって行くんですけど……こんなに芥子粒みたいなもんが、いっぱい密集してんのか、と思って。で、新千歳空港に着く時、だんだん海側から陸に接近して行って……北海道だから、自然豊かじゃないですか。だから、はっきりわかるんですよね。東京だと芥子粒にしか見えなかったのが、景色の中にクルマが走っているとか、風が吹いている感じとかが。市街地に近づくと、だんだんソーラーパネルが見えてきたり、棚田があったりして、こんなふうにレイアウトが広がってるんだな、これだけで充分ドラマティックなんだけどな、と。それを形にするなら今かな、という曲ですね。

──この「Altitude」も、1曲目の「Beautiful Lemonade」も、そういう書き方であるにもかかわらず、「生と死」という大きなテーマにまで触れる曲になっていますよね。

不思議ですよね。視覚優位で書いているのに、そういうところにつながっちゃうわけだから。視覚情報って侮っちゃいけないよね、って自分でも改めて思いましたね、書いてみて。

[material club – 2nd AL『material club Ⅱ』全曲トレーラー]

「まだ全然好き」っていう言葉を思いついた段階で、「すげえイヤな言い回しだな」と思った(笑)

──その対極で、このアルバムにはわかりやすく「ラブソングですよ」という曲も2曲ありますよね。「まだ全然好き」と「恋の綾」。

はい。

──これはさっきおっしゃった、感情と物語しかない歌詞の世界と同じ土俵に、あえて上がって闘いましょう、という──。

嫌味ったらしいですよね(笑)。皮肉でもあるし。あくまでも、お話から考えていくということを、やりたくない。今回、言葉遊びから始めていくというのもルールにしていたので、ちゃんとそれを充分に楽しんだ上で、かつ物語系の歌詞として成立させようと。

──「恋の綾」の「『Unknown Pleasure』Tシャツで君が帰ってく こんな気持ち どうすりゃいい」というライン、のたうち回りました。

はははは。うん、ここね。

──これはすごい。どうすごいのかを説明すると、かなりの文字数が必要になるけど。

でも、『Unknown Pleasure』Tシャツを着てるっていうだけで、表現できる感情があるというか(笑)。

──で、言葉遊びだけど、全然嘘っぽくなくて、すんごいリアルだし。

そうですね。着てるんだろうし。上原に住んでいそうな感じもするし(笑)。で、「まだ全然好き」も、言葉遊び。「まだ全然好き」っていう言葉を思いついた段階で、「すげえイヤな言い回しだな」と思ったんですよ(笑)。「まだ好き」とか「全然好き」とかは、まだわかる。それですら自分は、「好き」っていう言葉に対しての保険が多くね? と思うけど、それを組み合わせてみたら、さらに多すぎる。
「好き」に対して説明する言葉が多すぎるんだけど、じゃあ「まだ全然」の部分がなんなのか、っていうことを膨らましていく、っていう言葉遊びから始まったんですよね。たとえば、「いくつ怪談の動画を観ても眠れない夜に」っていうのも、「眠れない夜に」っていう歌詞はいくらでもあるじゃないですか? けど、現代人はどんなふうに眠れないのか、眠れない時に何してんのか、と考えると、怪談の動画だな、と(笑)。
これはあっこと共作なので、ラリーで書きました。あっこが作ってくれた下書きを清書していくみたいな作り方でした。

恋の綾(Official Audio)

──で、大阪と東京でライブがありますが。

はい。セカンドアルバムの曲は、ライブ前提で作っているんで、大丈夫なんですけど、ファーストアルバムの曲はそれを度外視して作っていたので、バンド用に翻訳する必要がありますね。最初は同期(打ち込み)を走らせて、必要最低限のところをフィジカルに置き換える、みたいな感じでライブをやろうか、って思ってたんですけど、開き直って全部人力に翻訳した方が、メンバーみんなやりやすいと思う、という意見もナリハネ(成田ハネダ)から出て、それはそうだなと。じゃあ、どうしても使いたい音は、サンプラーに入れて手で叩こうと。そういうことはやりつつ、基本は全部生です。

──Base Ball Bear以外のバンドでギターを弾くとか、ちょっと歌うとかはあったけど、メインボーカルでライブをやるというのは──。

完全に初めて。で、とにかく全員が揃わないから、僕とナリハネとキダさんでリハに入って、僕とYUNAちゃんでリハに入って、みたいな感じでやってます。あっこは遠いし(徳島在住)ので、全員が揃ってのリハは、直前の二回だけです。

──あと、あっこさんがバンドでベースを弾くというのも──。

あ、そうか、スーパー久しぶりじゃないですかね。吉本新喜劇ィズも、コロナ禍以降は動いていないし。今年の6月に、D.W.ニコルズのライブでちょっと弾いたぐらいだから、バンドの中でゴリゴリにベースを弾いている姿は、みなさん久しぶりかもしれないですね。とにかく、それぞれのメンバーがやっているどのバンドとも、違う種類のライブになればいいな、と思ってますね。それぞれが溶け合わさって、今まで自分たちもやったことがないようなところに着地しました、っていうライブが見せられたら、いいんじゃないですかね。

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