身体で音楽をして、全身で歌うっていうことが、自分のやりたいこと、音楽だなって思ってる
──今回、永積さんの歌詞も、他の人が書いた歌詞も合わせて、歌うことや音楽をやることがテーマになっている曲が、3曲もありますよね。
ああ。
──「Blue Daisy」「チキンカチャトラ」「どこでもとわ」。
……なんでなんでしょうね。
──結果的にそうなっただけで、それが自分の最近の大きなテーマ、というのではない?
まあずっとテーマですよね。音楽をやっていること、歌っていること、っていうのが。年々、自分にとって必要なことだっていうのはわかってきているんだけど、「なぜ歌うんだろう?何に向けて歌ってるんだろう?」っていうのは、やっぱりずっと……「あ、これだな」ってわかる瞬間もあれば、すぐ「いや、違うかもな」ってなるような。なんか、自分が音楽をやる上では、その問いがすごく必要なんだと思うんですよね。僕はミュージシャンのタイプで言うなら、緻密に曲を作るっていうよりは、どっちかと言うと、アクティングするっていうか。音源も作るけど、身体で音楽をして、ライブでお客さんとその時間を共有して、自分なりにその時間に身を捧げるっていうような気持ちで、全身で歌うっていうことが、自分のやりたいことだし、自分のやれる音楽だなって思ってるんですけど。それをいつもフレッシュなまま、初めて歌うような感覚で、1ミリでもいいから。ずっと歌ってる「家族の風景」でも、「昨日のライブよりも今日の方がよかったな」って思いながら音楽をやり続けるためには、その問いが必要だっていうことが、本能的にわかっていて。
──それ、ベテランのいいボーカリストの何人かにきいたことがあります。ライブで年に100回歌っている曲でも、慣れて余裕な気持ちになったら終わりだと。
うん。最初の頃は、なぜ自分が音楽をやっているのか、ということが、やっぱり自覚できていなくて。自分の作っているものに対して、うまく汲み取れてないまま音楽をやっていることが多かったと思うけど。30年近くやっている中で思えてきたのは、答えに向けて音楽をやるっていうよりかは、この先ずーっと歌っていくであろう足跡しか伝えるものがない、それだけ伝わればいいのかもしれない、というか。そういう人間が、ある何十年かの間、生きてたっていう道だけが残ればいい、って思っているかもしれない。
──最初は自覚できていなかったのが、今のようになったのは、30年近くかけて、だんだんと?それとも、どこかのタイミングで契機があったりしました?
それはやっぱり、人生の極限というか、大きな出来事があると。たとえば、人と出会うとか、人と別れるとか。あと世の中の、テロがあって、震災があって、コロナがあって……やっぱりああいうことがあると、「なんで俺は音楽をやってんの?」っていうことに、ものすごい矢印が行くじゃないですか。そういうのもあって……今回の曲でも言ってるけど、「わからない」っていうことを、ちゃんと言えるようになったっていうか。
──「Wide Eyed World」の「素敵に決まってる わからないを信じてる」というライン。
うん。なんか、やっとその部分を、ちゃかしたりとか、変にデコレーションせずに、そのまま言うことができたな、と思いましたね。
「気持ちいい!!」とか「超いいじゃん」とか言っていきたいな、みたいな(笑)。せめて音楽の上ではそれがよくない?と
──あと気になったのが「雨上がりのGood Day(feat. iri)」。このアルバムには、既発のシングルが4曲入ってますけど、そのどれよりも強い新曲がこれで。iriに参加してもらえたことが大きい?
もちろん大きくて。ずっと、女性のボーカリストとばっちりデュエットする曲を作ってみたいなと思っていて。年下の世代の、ビビッドな音楽を作っている子と、歌い合いたいなと思って。iriちゃんの歌は好きで聴いてたから、スタッフと「iriちゃん、いいかもな」って話をしていて、お声がけしたらOKで。これはトラック先行で作ったんですけど、そういうのもやってみたかったんですよ。ヒップホップの子とか、今の子たちって、トラック先じゃないですか。そういう発想の下に曲を作ってみたいなと思ってたから、それを(西田)修大と荒木(正比呂)くんの作曲チームにお願いして。最高ですよね、この曲。
──はい。このあとでかいタイアップが発表されるんじゃないかと思ったんですが。
(笑)。でもほんと、iriちゃんの声がよくて。あの……声って大事ですね(笑)。僕は男性の中ではハイトーンで、iriちゃんは女性の中ではたぶん低い方だから。そのふたりが男性・女性で歌う時って、どういう1曲になるんだろうな、っていうのは、完成するまですっごいワクワクしてて。iriちゃんから「どういったテーマで曲を作りますか?」ってきかれて、たまたま部屋に飾ってあった、友達のパン屋さんが紙袋に描いたイラストに「Good Day」って描いてあって。iriちゃんとパソコン上で打ち合わせをしている時に、「Good Day」という言葉と、その日の天気の良さと、iriちゃんの明るさ、華やかさとがリンクして……それで、「なんか、『Good Day』じゃない?」みたいに始まったんですよ。深い意味はないけど、投げかけたらどんなふうに完成するのかな、っていうのが楽しみで。前だったら、いろいろテーマを考えてから臨んだと思うんですよ。「俺とiriちゃんでやるんだったら」とか、「今の時代的には……」とか考えて、「これでどうですか?」って投げてたと思うけど、今回はなんか、初期衝動だけでいいんじゃないかな、と、思ったんですよね。
──結果、その「GOOD DAY」が、アルバムのタイトルになってますよね。
そう。それは、このアルバムを1年半ぐらいかけて作ってきた、その最後に手にできた、「ああ、これ、アルバムを通して言えるテーマだな」って思えたことで。なんか今って、いろいろ大変でシビアな時代だから、僕らも「この先のいろんなことを深く考えないと、ちゃんと考えないと」っていう時間が、ものすごく多いんですけど。でも、なんかバカみたいに、「気持ちいい!!」とか「超いいじゃん」とか言っていきたいな、みたいな(笑)。せめて音楽の上ではそれがよくない?軽さとか、薄さとか。
──「探さない 深めない 浅く 軽く 駆け上がるよ I got a flow!」というラインのように。
そうそう。どんどん軽やかになって……水辺で投げた石が、水面でバウンドしながら飛んでいくように、どんどんドライブしていこうよ、はずんでいこうよ、っていうテーマになったな、と。
(後編「ライブとツアー」について、に続く)
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