09. 東京アーバン夜光虫
──そして次はリード曲の「東京アーバン夜光虫」です。
桜井この曲にどういうイメージを持ちましたか?
──そのものズバリはちょっと言いにくいかも……。
桜井たぶんその、“そのものズバリ”ですよ。夜しか生きられない人たち……うーん、どういえばいいんだろう。
──舞台としては、「電気睡蓮」とかと同じじゃないです?
桜井ちょっと違うかな。まあ、“人”のいろんな消費の仕方っていうんですか? 「電気睡蓮」にもそういうところが入ってるけど、自分を消費していくスタイルに対して僕は別に否定的じゃないし、使えるもの、売れるものを売って何がいけないのよって思うし。いま、トー横がすごいわけじゃないですか。すごい数の若い女の子が並んでるわけですよ。
──噂には聞きますね。
桜井でもまあ、時代は関係なく、ほら藤圭子もさ、“十五、十六、十七と私の人生暗かった”ってね。「圭子の夢は夜ひらく」わけですよ。夢は夜ひらくんですよ(笑)。
──ああ~、はいはい。
桜井何やったって、とにかく「夢は夜ひらく」んです。
──ここまでヒントが出れば、どういう世界観か伝わりますかね。
桜井あとは、やっぱり東京で生きている人にしかあり得ない雰囲気というか、どうしても“Big City Tokyo“っていうフレーズを入れたかったんですよ。浅川マキなんですけど。浅川さんの曲で「TOKYOアパートメント」っていうのがあって、東京に住んでいる若者の日常を切り取っているだけの歌詞なんですけど、いきなり“Big City Tokyo ……イルミネーション……24時間スーパーマーケット……”なんですよ。
──浅川さんのことは以前からお好きですもんね。
桜井はい。大好きです。「イルミネーション……」も歌詞に入れたかったな、とか思いつつ、でも、そんな話を聞いてもおもしろくも何でもないんだよって。
──「東京アーバン夜光虫」の歌詞で言うなら、“ねえ、こんな話聞いてて楽しいの?”ですね。
桜井人それぞれ、いろんな人生があったところでそんな話を聞いても基本的に楽しいものでも何でもなくって、ただやりたいだけでしょ?っていう。悲観的な歌でもなんでもないですよ? 男も女も、強くないと、したたかじゃないと生きていけないねって、そういう乾いた歌です。
──アーバンなサウンドの方向性も浅川さんからですか? 浅川さんはフォークのイメージが強いですが。
桜井浅川マキはアーバンですよ。時代によって違うんですよね。フォークのイメージが強いかもしれないけど、フォーク、ジャズを経て、『CAT NAP』っていうアルバムあたりから80s、ニューウェイヴなサウンドになっていくんです。加藤登紀子とかもそうですよね。『Rising』ってアルバムあたりからだいぶ変わるんですよ。「影のジプシー」とか「シララの歌」とかものすごいニューウェイヴなんで。81~82年ぐらいから、フォークをやってた人たちがどんどん変わっていくんですよね。
──あと、この曲はピアノもいいアクセントになっていますが、こちらも林さんなんですね?
桜井そうです。デモはアレンジも含めてほぼ完成した状態だったんですけど、林さんにはもう自由に弾いてもらって。この鍵盤のおかげで曲のレベルが格段に上がりましたよね。それもあって、この曲のアーバン感はcali≠gariの既存曲のなかでもこれまでにないものになったと思います。
10. 月に吼えるまでもなく (17 ver.)
──「月に吼えるまでもなく」はシングル「冬の日」のカップリングとして初めて世に出た曲ですが、この曲と最後の「沈む夕陽は誰かを照らす」は歌詞の背景にある出来事が同じもののように思いました。この1年で日本のポップ/ロック・シーンにおける重要な方が立て続けに亡くなられましたが、そのことに対して思うところが描かれてるんじゃないかと。
桜井どうなんでしょうね?
──石井さん、この曲についてはいかがですか?
石井原曲は前のアルバムに入れそこなった曲のうちのひとつなんですけど、もともとは全然こういうのじゃなくて。デヴィッド・ボウイの「Heroes」みたいな、もっとミニマルな感じだったんですよ。で、そのコード進行だけをちょっと残して、もう少し日本人に優しい感じにしようかなと思って。あと、「冬の日」のカップリングってこともあったから……「冬の日」はcali≠gariの、まあ、毎回ライヴでやるわけじゃないけど、恐らく青さんの代表曲のひとつだろうから、それに匹敵するってわけじゃないけども、そういうガッツリとした歌モノの曲を一曲作ろうかと思って、それでアレンジを変えたっていう。歌詞はまあ、“こういうテーマで”って最初に何か考えたわけじゃないんだけど、その時期は、何を書いてもそうなっちゃってたと思うんですよ、きっと。それぐらい大きい出来事がありましたよね? ああいうことが起こらなかったら一生こんな歌詞は書かなかっただろうなって思います。
──そんな楽曲が、アルバムに収録されるにあたって少し変化してますね。シンセ・ストリングスがフィーチャーされていたりと、よりドラマティックに楽曲の解像度が上がった印象です。
石井そうですね。もともと頭にあった歌が一番最後にいくっていう、それぐらいかな? 俺が考えたのは。あと、「冬の日」のバージョンは自分でキーボードやシンセサイザーを弾いてるんだけど、今回は秦野さんに「丸ごと作り直してください」って頼んで。その結果、こういう完成形になりました。
11. 沈む夕陽は誰かを照らす
──そして、ラストは「沈む夕陽は誰かを照らす」。この曲の背景も「月に吼えるまでもなく」と通じるものがあるのではないかと。
桜井まあ、背景で言ったらきっとそうなんでしょうね。ただ、大元になってるのは『11』のときに作った「東京、40時29分59秒」だったりします。西新宿によく行くわけですが、何も変わらないと。ただ、景色は変わらなくても、取り巻く環境は気が付けば変わってしまってるなっていう、そんな空虚さというか焦燥感を、30周年っていうタイミングでちょっと書いとこうかな、って。ただ、あまりにも大きい出来事が起こると、やっぱりそれに引っ張られちゃいますよね。そっき昭和についての話をしましたけど、当時からそれこそ昭和98年までお付き合いしていただいていたような存在が……自分のなかであたりまえにあると思っていた世界が、ある日突然終わってしまった。そんなときに自分はどうしたらいいか、みたいなところで自分の意志をひとつ表明したというか、目的を見誤らないよう、ちゃんと自分の思いを書いておいたというか。
──本当に、青さんの個人的な歌のように感じます。
桜井そんな個人的な歌を石井さんに歌わせちゃっていますからね(笑)。
石井それはまあ、昔からそうなんでね。
──アレンジはムーディーな歌謡曲風になっていますけれども、こちらも「東京、40時29分59秒」からですか?
桜井そうですね。ファンハウスに移籍してからのオフコースというイメージです。皆さんにそれを伝えたわけではないけれど、仕上がりもそれに近いものになりましたね。
──ということで11曲振り返りましたが、ツアーも『17』のリリース直前からスタートします。構想は固まっていらっしゃったりしますか?
桜井若いツアーにしたいです。17歳っぽいツアー(笑)。
──“ジャーン!”と一発鳴らしていくぜ!みたいな?
桜井そうですね。あと、さっきも話したみたいに、「ああ、『17』のこの曲はあの曲と繋げることを意識して作ったんだ」とかそういうのがわかるライヴかな。
──先に『17』を聴いて、セットリストを予想する楽しみもあるかもしれないですね。ファイナルのLINE CUBE SHIBUYA公演は秦野(猛行)さんやyukarieさんも含めたフルラインナップと伺ってますが、こちらの構想はいかがです?
桜井いまは『17』の曲をちゃんと演奏できるようにがんばってるところです(笑)。
──絶賛練習中と(笑)。そこが30周年イヤーの最後を飾るライヴになりますが……。
桜井そうですね……まあ、「こんな感じで」ってネタバレをしてしまったらおもしろくないじゃないですか。だから、“考えてる”みたいなことを言うのもやめようと思って
──わかりました(笑)。では、研次郎さんはいかがです?
村井親御さんが元気な方は、親御さんと一緒に来たらいかがですかね。息子さん、娘さんがいる人は、お子さんと来たらいかがですかね?みたいなって。刺さる人には世代を超えて刺さるバンドだとずっと思っているので、いろんな層に少しずつ広がってくと嬉しいなと思います。
──石井さんはいかがですか?
石井いやもう、研次郎君の言う通りです(笑)。
──幅広い世代の方に見てもらえたら、という。
石井うん、そうですね。
桜井まあとにかく、いいギグになると思いますよ。きっと幻のような一夜です。もしかしたら、本当に幻になるかもしれませんけどね(笑)。
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