わかんないですよね(笑)。私も文系なんで到底理解できない世界なんですけど、量子力学って、めちゃくちゃ小さい世界を解析することで、世界全体を見ようとする学問で。ロックンロールは真逆で、「この歌で世界を変えてやろうぜ」みたいな夢を語りながら、じつはすごく個人的なことを歌ってたりするじゃないですか。相反するもの、本能的なものとアカデミックなものをくっつけたときに、思ってもみないような化学反応が起きるんじゃないかなと思って。大晦日にバンドメンバーと飲んでるときに思いついたんですけど、「渚が意味わかんないことを言い出したときは大丈夫だな」みたいな感じでした(笑)。
でも、そのままだとわかりづらいから、「もっとわかりやすいモチーフに落とし込んだほうがいいな」と思って、そこから“器”というテーマが出てきて。“シュレーディンガーの猫”が入っていた箱だったり、自分の命が入っている体だったり、「子宮だって器だな」とか、いろいろな器のことを考えたんです。で、先に小説を書いたんですよ。そこにも4つの器が出てきて、4人の黒木渚がいて。私のことではなくて、別の世界線というか、今、どこかで暮らしているであろう“黒木渚さん”を描いているんです。そのうちの3番目の黒木渚が「器器回回」という曲を書いたんですけど……という感じで、ややこしい設定がいっぱいあるんです(笑)。
そうですよね(笑)。もう一つのテーマは、商業音楽が大量消費されている現状というか。そのことはずっと感じていたし、「どうせ歌詞なんて聴いてないでしょ」という気持ちもあるんですよね。一生懸命に歌詞をウリにしてきた身ではありますけど、それよりも「カッコいい人が歌ってる」とか「有名なアニメのタイアップ」みたいなことが重要になってるなって。それを逆手に取って「どうせ誰も聴いてないんだから、好きなことを歌ってしまおう」という曲でもあるし、機械化される世の中に対して「パーツなんかになるんじゃないよ。目を覚ましてくれよ」とこっそり呼びかけたりもしてますね。
独立前の10年を引き受けて、黒木渚のロックを1回締めるという気持ちで作った曲ですね。この時期、またイエモン(THE YELLOW MONKEY)を聴いていて、色気のあるロックを作りたいという気持ちもありました。もう一つは、ファンに向けた景気づけじゃないけど、狼煙を上げたかったんです。独立した日にデモ音源を公開して、そこからの制作の過程も全部さらけ出して。この曲を作っていくプロセスを共有してもらって、「みんなチームだぞ」ということを伝えたくて。
そうなんですよ。「私を信用するなよ」って思うんですよね、本当に。もちろん応援してもらえるのは嬉しいし、すごく可愛らしいなとも思うんけど、“疑う”っていうスタンスを持っておいたほうがいいよって。小説家も音楽家も詩人もそうですけど、言葉を使って表現する人は「自分はペテン師なんだ」って自覚したほうがいいと思っていて。そういう罪悪感を持っていないと出来ないことがあるだろうし。「むつかしい本は体に毒さ 燃やしてしまえよ」と小説家でもある私が歌うって、いいですよね(笑)。
6月にビルボードライブ(横浜・大阪)でライブ(「黒木渚 featuring 森田真奈美」)をやらせてもらったんですけど、自分のツアーはめっちゃ久しぶりですね。今回のツアーはロックンロールをガツンとやりたくて。これまではシアトリカルな演出が多かったんですけど、今回は演劇的な要素を入れず、しっかりロックをやろうと思っています。セットリストをバンドメンバーに渡したら、「殺されそう」って言ってました(笑)。
はい。さっき話した小説の第3話の主人公が“声を失った歌手”なんです。私とは違う世界線の人物なんだけど、限りなく実物の黒木渚に近くて。物語のなかでは、主人公が「自分の声の器を割ったヤツは誰だ」と復讐するんです。小説では“2016年の夏フェスで「ふざけんな世界、ふざけろよ」を歌っているときに声の器が割れた”ということになってるので、そこに巻き戻ってスタートしようかなと。拾い集めた破片を繋いで、金継ぎの器として生まれ変わるまでの物語ですね。
ツアーの初日になんとか間に合いそうです。アート本に近いような作りの本なので、ぜひ手に取ってみてほしいですね。今回の小説は4作中の1作目。シリーズものとして続けて、4作出来たら改めて本にしたいと思ってます。そっちも書き進めないといけないので……やばいですね(笑)。
PRESENT
サイン入りチェキを1名様に!
※転載禁止
受付は終了しました