カノエラナ、100%趣味に走った個性爆発のコンセプトA L「昼想夜夢」リリース!日常と非日常の狭間をたゆたうファンタジー

インタビュー | 2021.09.19 12:00

──カノエさんの新たな面に触れられるのは、リスナーも嬉しいと思います。それに、『昼想夜夢』はコンセプト・アルバムでありながら曲調の幅が広くて、さらに1曲1曲が立っていることも魅力になっています。

コンセプト・アルバムなので、同じような曲を集めようかなというのが最初はあったんです。異世界系というか、物語系の曲で揃えようかとなったときに私の持ち曲の中から、これは普通のアルバムには入れられないよねというような、“ちょっとぶっ飛んでしまったソング”を集めたんですね。でも、結局私の曲の特徴でもあるんですけど、いくら同じ世界観でも曲調は全く違うんですよ。ひとつじゃないというところが私の特徴ではあるので、同じ系統の曲を集めたけど、“あれ? 意外とバラバラだな…”みたいな(笑)。なので、異世界にいけるという共通点があれば曲調はいろいろだったり、曲によって主人公が違っていてもいいんじゃないかなと思ったんです。

──たしかに、ダーク・ファンタジー感のある作品ですが、たとえば少年が精霊に導かれて冒険の旅に出て…というような空想物語を、アルバムを通して描くというようなものではないですね。

そう。意外と日常的なんじゃないかなと思います。

──まさにそのとおりで、どの曲の歌詞も素晴らしいです。「人喰いオオカミとエリーゼ」や「仮初めの心臓」「月光のトロイメライ」などはファンタジーのようでいながら、実は生々しい人生を描いているとも取れますよね。

そう。それが私のやりたかったことなので、伝わっていて嬉しいです。単なるおとぎ話になってしまうと聴いてくれた人に響かないし、共感も得られないと思うんですよ。それは避けたかったんです。『昼想夜夢』はコンセプト・アルバムということやジャケットのイメージ、曲名といったことから浮世離れした世界を想像する人が多いと思うんですね。そういう作品として受け止めて楽しんでもらってもいいですけど、私が表現したいことの本質は違っているんです。なので、そこを感じ取ってもらえると嬉しいです。

──必ず伝わると思います。『昼想夜夢』は歌詞以外にも“凄いポイント”が多くて、楽曲面ではメロディーが楽曲の世界観を作っていることがポイントです。ファンタジー感のあるサウンドやアレンジなどで世界を作るのではなくて、骨格になるメロディーそのものがファンタジックだったり、エモーショナルだったりしていますね。

そこは、もうギター1本で作る、ピアノ1本で作るというところから始まっている曲達なので。もしもトラックから作り始めたら、こういうものにはならなかったと思うんですよ。本当に“私とギター”“私とピアノ”というそれだけの形で異世界を作るには、メロディーでいくしかないんですよね。それは1人で修行してきたというのが一番大きいと思います。私は、ずっと自分とアコギだけで各地をまわってきたんです。旅先で、私のお友達はアコギだけ…みたいな(笑)。なので、ギター1本で歌ったときに聴いてくれる人が飽きないような音楽にするためにはどうしたらいいだろうということを、常日頃考えているところがあるんです。で、一般的なリスナーの方は歌詞はあまり聴かないというのが、正直な現状だと思うんですよ。歌詞をめっちゃ聴いて、“そうか、ここはこういうことを歌っているんだ”というふうに音楽を聴く人は本当に少ない気がする。歌詞にあまり意味がなくてもイメージの強いトラックが“ガンッ!”とくるとすごくいいねみたいになるのは、結局はそういうことだと思うんですね。でも、私はトラックを作り込んだりするタイプではないので、そうなると一番重要なのはメロディーじゃないですか。だから、どの曲もメロディーは本当に大事にしています。

──今作を聴くと、それがよくわかります。さらに、しっとりとしたアルバムに軽やかかつ明るい「月光のトロイメライ」と煌びやかな「アリスは夢を見ることが出来ない」を入れ込んでいることもセンスのよさを感じます。

明るいものを入れることで、暗いものと明るいものの両方がより映えるかなと思ったんです。それに、『昼想夜夢』は前半はダーク・ファンタジー感があって、後半はエモーショナルな雰囲気になっているじゃないですか。「月光のトロイメライ」と「アリスは夢を見ることが出来ない」は、その流れを上手くつなげる役割も果たしている気がしますね。あとは、「月光のトロイメライ」は私が中~高校生のときに作った曲なんです。そして、「アリスは夢を見ることが出来ない」は一番最新曲なんですよ。だから、その流れはつなげたいなと思ったんです。

──「アリスは夢を見ることが出来ない」は4つ打ち系の曲ですが、極端にアッパーなわけではなくてラテン・ミュージックに通じる翳りを帯びていることが印象的です。

「アリスは夢を見ることが出来ない」は一番最近に作った曲だったので、最近の曲調に寄りたいなとは思ったんですけど、寄り過ぎるとカノエの色が全然出ないなと思って。それで、少し昔の要素も加えて、狭間のところに寄せていったんです。それが自分の世界観を作るのにちょうどいいんじゃないかなと思って。その結果キラキラはしているけど、“あれっ? これ本当にキラキラしているのか?”と思わせるような曲になりましたね。なんか、明るいのに、どこか悲しい…みたいな。

──そこが、すごくいいなと思います。続く“凄いポイント”はボーカルで、歌の表現力に圧倒されました。たとえば、アルバム前半の「open the door」や「人喰いオオカミとエリーゼ」などは曲調に合わせて少し演劇的な歌になっていますが、劇中歌のような歌ではないですよね。そのテイストが絶妙です。

そういうところを狙いました。スパイスとして感情を入れるんですけど、やり過ぎるとまた違うものになってしまうんですよね。本当に、“物語だよぉ~”みたいな曲になってしまう。レコーディングするためにマイクを選ぶ段階で、それだと違うんだということに気づいて、いろんなニュアンスで歌ってみたんです。自分が歌いやすいところと主人公の姿が浮かんでくる声質をいろいろ研究して、ここだなというピンポイントのところに落とし込みました。

──ミュージカルっぽい歌ではないことが、日常と非日常の狭間をたゆたっているような雰囲気を醸し出しています。

そう感じてもらえたなら嬉しいです(笑)。今までのアルバム達でももちろん感情みたいなものを入れた曲もあるんですけど、今回せっかくこういう曲達が集まっているので、ここぞとばかりにそういうのを入れようかなと思ったんですね。だけど、“うーん……入れ過ぎるのはちょっと違うな”というのが自分の中で葛藤としてあって。あくまでもカノエラナが作るファンタジーのアルバムという一線は超えずに、しっかりと世界観を想像できるというギリギリのラインみたいなところに持っていくようにしました。

──やりますね。他にも「仮初めの心臓」は大人っぽかったり、「月光のトロイメライ」はキュートだったり、「愛でたしめでた死」はエモーショナルだったりと、すべての曲で歌の表情が違っています。

そこは、めちゃくちゃ悩みました。普段のアルバムは、わりとスンナリいくんですよ。どの曲もカノエがいればいいので、真っすぐ録れたりするんです。今回は主人公が全曲違うというのをちゃんと頭に入れておかないといけなくて、主人公の年齢ということを一番意識しました。どの曲も年齢を確認しながら録っていったんです。そして、それは表現できているんじゃないかなと思います。

──表現できています。細やかな歌い分けができるのは、歌の引出しを沢山持っているからこそといえますね。

そこに関しては、私は自分の声に対してコンプレックスみたいなものがあるんです。昔から近場の人とかにもよく言われてきたことなんですけど、声に特徴がないねとずっと言われ続けてきたんですよ。本当に言われ続けてきたから、そんなに特徴がないのかと思って、いろいろ研究したんです。いろんな人のいろんな曲を聴いて、わかったことがいっぱいあって、それを自分の歌に活かしたいというのがあるんですよね。自分の声に自信があるアーティストは“これが私です”というスタンスで歌うと思うけど、私は自分の声がこうなってほしいなという願望が強いんですよ。そういう自分の負の気持ちみたいなものを逆に利用して、今回はこの曲の主人公はちょっと若めだけど大人びている人だから、若い声だけど艶やかさを少しだけ足してあげようみたいな感じで、それぞれの曲で歌のニュアンスの組み合わせを考えて歌っていきました。

──うーん、凄い……。“それぞれの主人公になった気持ちで歌う”というレベルよりもひとつ上のアプローチを採られたんですね。さて、『昼想夜夢』は非常に良質であると同時に、いつものカノエさんとは異なる側面にも触れることができる必聴の一作に仕上がりました。同作を完成させて、今はどんなことを思っていますか?

今は音楽がすごく身近なところにあるというか、本当に気楽に楽しめるじゃないですか。それこそサブスクとかで聴きたい音楽を好きなだけ聴けるし、つまらなかったら途中で止めて、すぐに他の曲にいける。もう瞬間的に、いろんな曲に飛べるんですよね。だからリスナーは1つの曲を深掘りするということがないし、ましてやアルバムとなると本当に好きなアーティストは別として、ちゃんと時間を取ってじっくり聴く人は少ないと思うんですよ。

──残念ながら、今はそういう時代ですね。若い人は長い曲というだけで敬遠しがちだと聞きますし。

そうなんですよね。でも、『昼想夜夢』には長い曲も入れました。今回は趣味のアルバムと言ってしまっているので、本当に好きなことをやらせてもらったというのがあって。今のリスナーが長い曲は好きじゃないことはわかっているけど、私は4分とか5分をかけて表現したいものはそうするべきだと思っているんです。もちろん今流行っている曲とかも好きで聴きますけど、私がすごく惹かれる曲はどういうものだろうと考えたときに長い曲とか、しっとり聴くような曲が好きだなと思ったんですよね。ただ、長い曲ばかりじゃなくて、短い曲も入れました。どっちに寄るとかはなくて、私は“人生中途半端人間”なので(笑)。ずっと中途半端なところを攻めていくというのが私の生きる道なんだろうなと思っているんです。

──中途半端ということはないと思います。

いえ、中途半端です。中途半端でも、それを極めたら突き抜けていいものになるんじゃないかなと思うんですよ。だから、私は“間にあるもの”をどんどん尖らせていくということを、ずっとやっています。

──たしかに、カノエさんはそういうスタンスで、魅力的な個性を確立されています。少し話が逸れましたが、『昼想夜夢』は世界に没入できる状態で、1曲1曲じっくり聴いてほしいなと思います。

そうですね。車でドライブするときとかに聴いたりするよりは、家の中で静かに聴いてほしいアルバムだなというのはあります。アルバムというのは作り手が意図した流れというのがあって、私はそれを感じるのも好きなんですよ。『昼想夜夢』は1曲1曲独立していて物語はつながっていないけど、1曲で“ウワッ!”と盛り上がったものをメロディーの感じとかでまた次の曲に連れていってくれると思うんですね。そういうものにはなっていると思うので、アルバムの流れも楽しんでいただければと思います。

──全く同感です。さらに、アルバム・リリース日の9月22日から始まる『昼想夜夢』を携えたツアーも楽しみです。

『昼想夜夢』を引っ提げたライブなので、アルバムの空気感は絶対に崩したくないなというのがあって。なので、コーナーみたいな感じじゃないですけど、『昼想夜夢』の曲はちょっと纏まった感じでお届けできたらいいのかなと思っています。それとは別に普段のカノエラナというのをきっと皆さんは応援してくださっていて、なおかつこのご時世に来てくださる方はカノエラナの光の部分というか、ずっとやり続けてきている曲達も絶対に聴きたいと思うんですね。なので、そういう曲達もちゃんとくっつけた形のライブを作ろうと思っています。それに、最初のほうに無観客のほうがやりやすいと言いましたけど、やっぱりお客さんの顔を見れるのは嬉しいんですよ。ライブに来てくださる皆さんと一緒に、素敵な時間を過ごせることを楽しみにしています。

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