インタビュー:宮本英夫
目指したのはただひとつ、名盤を作ること。カフカ通算6作目のフルアルバム『あいなきせかい』のテーマは、ずばり“愛”だ。前作『Tokyo 9 Stories』でつかんだ“この街でこの生活を僕は生きてゆく”という実感を踏まえ、プレイヤーとしての4人の成長、多彩な音楽的アイディアが結実した傑作。様々な愛の形を掘り下げ、歌いきったこのアルバムで、カフカは一気に飛翔する。
──アルバムはちょうど1年ぶり。どんな感じで作り始めましたか。
カネココウタ(Vo&Gt) 前回のアルバムを作って、身の回りのことを確認できたというか、結局自分が生きている世界のことしか歌えないんだということに気づいたので。ツアーを回って帰ってきた時に、その生活の一番中心にあるのが“愛”だなと思ったんですね。それがないと人間は生きていけないし、人間にしか持てない核みたいなものが愛なのかな?と。今までは、直接的に愛の歌を歌おうと思ったことはあんまりなかったんですけど、前回のアルバムを作ったことで、今ならいろんな形の愛について歌えるんじゃないかな?と思って取り掛かったのが最初です。
──はい。なるほど。
カネコ でも愛って、美談じゃない部分もいっぱいあるじゃないですか。愛の曲というと“愛は素晴らしい”というものが多いですけど、僕らが言いたいのはそれだけじゃなくて、憎しみとか悲しみも愛の一部だと思うし。それと、愛を歌いましたというと、僕らのお客さんに“チャラい”と思われる危険もあったんですけど、でも本当に笑ってられないというか、人間が生きてる以上はそこは切っても切れないもので、自分を愛することをしないといけないと思ったし。対人だけではなく、何かを愛することは日常的に誰もがしていて、そこに気づかない人たちがいたとしたら、気づいてほしいというところで、あらためて“愛って何だろう?”ということを考えて作りました。
──と、いう話をメンバーにしたんですか。“次は愛で行きたいんだ”って。
カネコ 前回のツアーが終わって、次はどうしようという時に、朝方4時とかにコンビニの前で集まって、ビールを飲みながら話をしたんですよ。
──それ、めっちゃ青春な感じがします。
ヨシミナオヤ(Ba) よくやるんですけどね(笑)
カネコ そういう時って、馬鹿なインスピレーションがすごく湧いてきて、無条件で強気になれたりするんですよ。そういうことは日常的に、この4人でよくしていて。その中で次のアルバムはどうしよう?という話になった時に、“次は名盤以外作りたくない”と。
──おお~。
カネコ 自分らでこれは一番いいものだって、ハードルを上げて作ってみようという話をして。今までも妥協はしてなかったですけど、いっぱいいっぱいで、全力を出し切って終わりということが多かったので。今回はもっと練って、“これがカフカだ”と言えるアルバムにしようというところから始まりました。
──メンバーは、そのコンビニ会議のことは覚えてます?
ヨシミ もちろんです。立ち位置まで覚えてます。時に笑顔を交え、飲むと急に真面目になりつつ。“やっぱ名盤じゃなきゃダメだろ”“じゃないと終わるぞ”ぐらいの勢いで、危機感をわざと作ったみたいな感じですね。コンビニにはいい迷惑だと思うけど。朝4時に店の前で(笑)
カネコ でもあの店員さん、絶対慣れてるよね。またやってるよ、みたいな(笑)
──いい話。でもその時は、まだ曲はないわけでしょう。
カネコ ほとんどないです。で、それを話したあとに、そこに向かって突き進んじゃって、一回アルバムを全部作ったんですよね、自分一人で。デモ作りをしっかりやって、自分的には最高だと思うものができたんすけど、全員が客観的に見た時に、自分が一人で作ったものには限界があったというか。そこで一回壊す作業をして、何が残るか?というところに、もっと先に行ける部分がある気がしてきて。それがアルバムの本当のスタートでしたね。
──それは具体的には、ちょっと弱い曲があったとか、そういうことなのかな。
カネコ それもあるし、歌詞もまだ核心に触れてないというか。愛を歌うと豪語したわりに、これでいいのかな?というところもあったし。まだまだ甘いということになって、全部見つめ直して、容赦なくぶち壊す。それでボツになった曲もいっぱいあるし、がらっと変わりました。今までは原型をアレンジして良くしていくという作業だったんですけど、今回は、ぶち壊して残ったものを磨いていくという、新しい作業でしたね。その過程で、やっぱりカフカは自分のワンマンバンドではないということも、当たり前のように気づいたし。
フジイダイシ(Dr) 全員が“まだまだ行けるんじゃないか”と思ったので。レコーディングの前日ギリギリまで、壊して、組み上げて。
ヨシミ もっとまだ何かあるはずだ、みたいな。
──それってかなりキツイ作業で、ヘタしたらネガティブになりかねない状況だと思うけれども。
ミウラウチュウ(Gt) つらいけど、ネガティブではなかったですね。
カネコ 全員にハードルがあって、そこを超えなきゃいけないと思ってるから、ネガティブな空気というよりは、いいものを作るためには当たり前だという感覚が、たぶんみんなにあって。自分さえいいテイクを録れればいいというんじゃなく、最終的にいいものを作らなきゃという気持ちがあって。
制作中の印象的なシーンや、曲のエピソードについて